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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
四章 王都グルメ編
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167話 パッサールの野望

翌朝、ファブレが庭で木剣の素振りをしているところにカシルーンが起きてきた。

「なんだ、稽古か?」

「カシルーンおはよう。最近ちょっとサボり気味だったからね」

「相手がいたほうがいいだろ。俺と練習試合しようぜ!」

カシルーンは返事も聞かず準備運動を始めている。

「君も剣術をやるのかい?」

「学校では剣術の授業もあるんだ。たまに高名な冒険者なんかも教えにくるぞ!」

「じゃあ寸止めで。分かる?」

ファブレが木剣をカシルーンに渡す。

「ああ、了解だ」

木剣を構えて対峙する二人。木剣を構えたカシルーンは真剣な表情になり、小まめなステップで様子を伺う。打ち込む隙がない。それに若干ではあるがカシルーンはファブレよりも身長も体重も勝っている。ファブレはカシルーンとの実力差を判断する。

(ボクと同じか、それ以上だろう)

カシルーンが鋭い踏み込みから木剣を打ち下ろす。

「フッ!」

「ハッ!」

予測していたファブレは自分の木剣を振り上げるようにはじき返す。カシルーンの木剣が跳ね上げられ、ガラ空きになったカシルーンの胴にファブレが横薙ぎを繰り出すが、カシルーンは後ろに下がって躱す。

カシルーンは距離を取ったかと思うとすぐ踏み込んで片手で突きを繰り出してきた。ファブレの思わぬタイミングだったが片手なので威力はない。ファブレはバランスを崩しつつも体を捻って躱す。

カシルーンが体勢の崩れたファブレに振りかぶって追撃しようとするが、ファブレは前蹴りでカシルーンを近寄らせない。

「うおっ?」

続けてカシルーンの肩口を狙ったファブレの攻撃は難なく受け流された。鍔のない木剣は剣で受けても滑って手に当たりやすいが、カシルーンは上手くそれを防いでいる。

「蹴りなんてアリなのか?」

「上品な剣術の授業では禁止なのかい?」

「言うじゃないか・・では、こうだ!」

カシルーンはファブレに向かって突進する。その勢いは木剣を当てる目的ではない。タックルだ。

ファブレが身を引きつつカシルーンの肩口に一撃当てるが、カシルーンの勢いは止まらない。

ファブレの胴に組み付き、地面に押し倒してしまった。馬乗りになったカシルーンが、ファブレの喉元に木剣を押し付ける。ファブレは下から木剣で防ぐが圧倒的に不利な体勢だ。

「俺の勝ちだな。うひっ!」

カシルーンが宣言したと同時にビクリと背中を仰け反らせて、背中に手を伸ばす。その隙にファブレは暴れてカシルーンの下から脱出した。

カシルーンが立ち上がって、自分の背中から地面に落ちた透明な塊を摘まみ上げる。

「な、なんだ? 氷?」

ファブレがカシルーンに手のひらを向け、続行の意思がないことを伝える。

「すまない。肩に当てちゃったからこれまでにしよう。怪我は大丈夫? ポーションを持ってくるよ」

カシルーンが肩をさすって状態を確かめる。

「こんなのかすり傷だ。ポーションはいらないぞ。それより何をしたんだ?」

「見た通り、君の背中に氷を召喚したんだ」

カシルーンが口を尖らす。

「ズルいぞ!」

ファブレが笑ってタオルを投げ渡す。

「これがボクの戦い方だよ。ヤマモト様も起きたみたいだし朝食にしようか。何がいい?」

カシルーンがタオルで汗を拭きつつ答える。

「ハンバーガーとホットドッグ!」


その日もヤマモトは用事があるといい、ファブレとカシルーンで市場を回る。昼食は篝火亭で取ることにした。

少し時間を外したこともあり、店内は客はまばらでファブレたちに注目する人もいない。

タイミングよくパッサールが店に立ち、店長候補であろう人に仕事を教えているところだった。

「こんにちは、パッサールさん」

ファブレの挨拶にパッサールが振り向く。

「おお、名付け親の登場だな! 今日はヤマモトはいないのか? ん、その子は誰だ?」

「ヤマモト様は別の用事がありまして。隣はカシルーン。公国からのお客さんでしばらくうちで預かってます。カシルーン、こちらはパッサールさん、篝火亭チェーンのオーナーだ」

ファブレが互いを紹介する。パッサールがカシルーンに向けて身を乗り出す。

「なに? 公国から来たのか?」

「は、はい・・」

さすがのカシルーンも押され気味だ。

「国外の情報は是非とも知りてぇ! 今晩ヤマモトの家に行くから色々聞かせてくれよな!」

ファブレは呆れる。

「もう国外展開を考えてるんですか? ちょっと気が早くないですか?」

パッサールが豪快に笑う。

「まぁすぐに店は出せないだろうがな! この二人は無料でいいぞ。大盛り二丁!」

パッサールは勝手にメニューを決めて厨房に引っ込んでしまった。カシルーンは興奮した様子だ。

「じゃあ今晩彼とゆっくり話せるのか? 色々聞きたいことがあったんだ!」

「そうなるね。とりあえず食べようか」

二人の前に大盛り牛丼が運ばれてきた。

「ふーむ、圧倒的に提供が早いな。牛肉にタマネギだけ・・料理もシンプルで食べ終わるのも早い。なるほど。労働者向きだな」

カシルーンは色々と観察しながら食べ始める。

「ところで、さっきの名付け親というのは?」

ファブレが食事の手を止め少し沈黙するが、観念したように小声で話す。

「篝火亭という店の名前を考えたのはボクなんだ」

「ええっ? 凄いじゃないか! 俺なら言いふらすけどな!」

「やめてくれよ・・」

ファブレは今の話が周囲に聞かれていないか戦々恐々だった。


その晩、予告通りパッサールがヤマモトの家を訪れた。

「よおヤマモト! 旅行以来だな」

「久しぶりだなパッサール、海の街への出店はどうなった?」

パッサールはすぐヤマモトの向かいに座り、話し出す。

「もうとっくに終わったよ。街を救ってくれたお礼だって一等地を開けてくれて、工事もみんな協力してくれてな。オープン日は行列が途切れなくて大変だったぜ」

ファブレが全員分のお茶を並べ、ヤマモトがカップを傾ける。

「パッサールも行ったのか。漁師や市場の様子はどうだ?」

「そっちも順調だ。船も新しく作ったり、どっかから引っ張ってきたりで漁に出れるようになったし、市場も活気が戻ってる。漁師の揃いの服も好評で、それ目当ての見物客が来てるくらいだ」

「ではあの宿も安泰かな」

「ああ。そういや宿の名前が躍る人形亭になってたぜ。錨を曲げたら宿代タダってのがウリみたいだ。アンタ以外にできる訳ねぇのにな」

パッサールがお茶を飲む。ヤマモトが笑ってファブレに振り返る。

「フフッ、ファブレ、また君の名づけた店ができたようだぞ」

ファブレは困惑顔だ。

「はぁ。一瞬浮かんだだけの言葉なので何だか申し訳ない気もしますが・・」

「そんなことはないさ。直感は大事だ」

カシルーンは話が分からずキョロキョロしている。

「ああカシルーン、君に分からない話で申し訳なかったな。でパッサール、今日はどうしたんだ?」

「そりゃもちろん、公国の話を聞きに来たんだよ。そのうち国外進出もしたいからな!」

ヤマモトが肩をすくめる。

「気の早いことだ。カシルーン、君から見て篝火亭はどうだ? 君の国でも流行りそうか?」

カシルーンが首を振って即答する。

「いや、無理だろうな」

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