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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
四章 王都グルメ編
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165話 異文化コミュニケーション

宰相が去ってしばらく後、カシルーンの荷物がドカドカと家に運び込まれた。

「では改めてよろしくな! ヤマモト、ファブレ!」

「ボクの事はいいけどヤマモト様の事はヤマモト様と・・」

ファブレがカシルーンを注意しようとするが、ヤマモトがそれを止める。

「呼び方などどうでもいいさ。それよりカシルーン、夕飯に何か食べたいものはあるか? ファブレなら何でも召喚できるぞ」

「ええと・・あっそうだ! 奇跡の料理人は異世界の料理を召喚できるんだろ? ぜひ食べてみたいものがあるんだ。ハンバーガーという奴だ!」

「ほう、どこで知ったんだ?」

「もちろん勇者話だ。勇者がハンバーガーを食べたくて試行錯誤する話があってな。ようやく完成したハンバーガーを食べようとしたところで顎が外れたのはとても面白かった」

「へぇ、聞いたことのない勇者話ですね」

ファブレの呟きにヤマモトが頷く。

「勇者は召喚した国ごとで管理しているからな。公国で呼ばれた勇者の話なんだろう」

「ファブレはハンバーガーを召喚できるのか?」

「うん、もちろん」

カシルーンの問いにファブレが即答する。ハンバーガーは何度か召喚したこともあるし、スパークのパン屋でも売っているのだ。

「じゃあせっかくだから色んな種類のハンバーガーを出してくれないか? ホットドッグも。それにフライドポテトもつけてくれ」

「分かりました。では、料理召喚!」

ヤマモトのリクエストに合わせ、テーブルの各自の前にはトレイと水、それに中央には何種類かのハンバーガー、ホットドッグ、ポテトの山が召喚される。

「おお、すげえ!」

カシルーンが感嘆の声を上げる。

「これはノーマルのハンバーガー、これは照り焼きチキン、トンカツ、フィッシュ、ベーコンエッグです。ホットドッグはケチャップだけかけてあります」

「凄いぞファブレ! 料理召喚がこれほどとは思わなかった! お前は天才だな!」

カシルーンの手放しの賞賛にさすがに照れるファブレ。

「あ、ありがとう・・」

「フフ、じゃあ早速頂こうか。ああ、カシルーンは戒律、食べてはいけない物などは無いのか?」

「あっ」

ファブレは慌てた。そうだ。召喚する前に確認すべき項目だった。

「一つだけあるぞ。酒だ。やっぱり最初は普通の奴かな。うん、美味い!」

カシルーンが大口を開けてハンバーガーを噛み千切った。ヤマモトがカシルーンに尋ねる。

「君の国では皆、酒を飲まないのか?」

「国の運営にかかわる者や神官、役人、その家族は飲んではいけないのだ。酒は判断を狂わせるからな。それ以外の商人や農民、下っぱ軍人などは飲んでいるぞ」

「ほう、真面目だな」

「王国はそうじゃないのか? 二個目はこれにしようか」

カシルーンが二個目にトンカツバーガーを選ぶ。

「ああ。王族も役人も神官も、皆酒を飲むぞ。まぁ夜に飲んで朝には影響がないようにしてるがな」

「神官も飲むのか? 公国ではとても考えられないな。うん、これも美味い!」

ファブレの脳裏に酔い潰れたミリアレフの姿が浮かぶ。ヤマモトも同じことを思い浮かべたようだ。

「確かに酔いは判断を鈍らせるし、酔い潰れた人間は見苦しい。だが人間関係で有用なこともある。どちらが正しいという事もなく、考え方が違うというだけだ。女神は飲酒を禁じてはいないしな」

カシルーンがフォークにポテトを突き刺して口に運ぶ。

「なるほど。うーむこれも美味いな・・美味い物ばかりでどれが本当に美味いのか分からなくなってきた。しかしこれがとても気になる」

カシルーンがホットドッグに手を伸ばし、すぐにかぶりつく。

「うわっ、この腸詰は素晴らしいな。中から肉の旨みが溢れ出る。それにこの甘酸っぱいソースの相性! これが一番気に入ったかも知れない」

「この黄色い辛味のソースをかけると、また違った風になるよ」

ファブレがマスタードを勧める。カシルーンがそれをベッタリと付ける。

「あ、そんなにつけると・・」

「どれ・・うがっ!」

ホットドッグにかじりついたカシルーンが鼻を押えて悶絶し、すぐにコップの水を飲む。

「は、鼻が焼けるかと思ったぞ! なるほど、そういう香辛料なのか」

今度は慎重に少量盛ってからかぶりつく。

「うん、これなら大丈夫。美味い」

「ヤマモト様、何かドリンクはいりますか?」

「やはりハンバーガーには炭酸飲料かな? ジンジャーエールがいいな」

「分かりました」

「ジンジャーエール? なんだかわからんが俺にもくれ!」

「さすがに食べすぎじゃないか?」

ヤマモトが呆れる。ファブレはカシルーンの分には少し活性化ポーションを混ぜておいた。


「カシルーン、今のうちに君に言っておきたいことがある。少し真面目な話だ」

満腹でソファに横たわっていたカシルーンにヤマモトが話を切り出し、カシルーンは起き上がる。

「な、なんだ?」

「私の国では『郷に入っては郷に従え』という言葉がある。他国に入ったら自分の価値観と違うことでも、その他国の慣習の方に従うべきだ、という意味だ。分かるだろうか」

「ああ分かる」

ヤマモトが頷いて言葉を続ける。

「さっきの酒の話のように、公国と王国では考え方や風習の違うことが山程ある。王国にいる間は公国の風習に捕らわれず、王国のやり方を経験してみるという事が、本当に王国を理解することに繋がると思うのだ。どうかな?」

カシルーンは大きく頷く。

「うん、その通りだと思うぞ」

「もちろん戒律のように絶対に譲れない部分もあるだろう。そこまで変えろとは言わん。それ以外のことは王都にいる間、なるべく王国風を試してみてくれ。きっといい経験になるだろう」

「なるほど、分かった」

ヤマモトが微笑む。

「理解が早くて助かる。じゃあ早速王国風を試してもらおうか。ファブレ、カシルーンに風呂の入り方を教えてやってくれ。うちにいる間は毎日風呂に入ってもらうからな」

「はぁ・・やっぱり」

話の行先の予想がついていたファブレは溜息をつく。

それに風呂は王国風ではなく異世界風ではないのか。だが何を言ってもヤマモトの決定は覆らないことは分かっていた。ファブレは諦めてカシルーンに風呂の入り方を教える。

「こっちで服を脱いで、最初にかけ湯、体に湯をかけるんだ。それから湯舟に入って、体があったまったら湯から出て体を洗う」

「おいファブレ、洗ってくれ」

カシルーンがファブレにタオルを投げつけ、ファブレはそれを投げ返す。

「ボクは君の召使じゃない! 自分で洗え!」

ギャーギャーと大騒ぎののちに風呂を上がって来たカシルーンは、ターバンに収まっていた長い髪をほどいているため、少し女性的にも見える。ヤマモトの目が光った。

「ふう、あの熱いお湯に入るのは何か意味があるのか?」

「最初はツラいかも知れないが、そのうち気持ちよくなってくるさ。ところで寝巻はそれを着てくれ。これも王国の風習だ」

ヤマモトが指さしたのは例のメイド服だった。カシルーンが憤慨する。

「女物じゃないか! 騙されないぞ! たとえ本当に風習としても絶対に着ない。そこは譲れないからな。そんなヒラヒラした物を着せられるくらいなら喉を突いて死ぬ!」

「ちっ」

ヤマモトが舌打ちする。ファブレはカシルーンの勘の鋭さに感心した。

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