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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
四章 王都グルメ編
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161話 マリーカの奮闘

それからのマリーカは大忙しだった。

店のオープンまでにファブレから異世界のパンのレシピを教えてもらい、試作を繰り返す。

それに加えて勇者や他の異世界人たちが建築中の店を頻繁に訪れ、ああでもないこうでもないと

店の外観や内装に細かく注文をつけてくるのだ。それを職人と調整する。

店員の制服も、一人一人別々にデザインするという。

「癖毛の金髪にソバカス! じゃあこうだよね!」

デザイン担当の女性はマリーカを見てすぐに制服を決めた。

チェック柄のワンピースの上から白いエプロンをつけたような独特のデザインだ。

それに加えて髪もチェック柄のリボンでツインテールにされてしまった。

まるで少女のようで非常に恥ずかしいが、異世界人たちはみんな絶賛しているのでマリーカは諦めてその制服を受け入れた。

スパークはマリーカに全て任せると言い放ち、たまに店の完成具合を確認しに来るだけで全く役に立たなかった。


そして遂に王都の大通りにパン屋"鷹の目(ホークアイ)"がオープンの日を迎えた。

外観は異世界人同士で散々揉めたようだが、落ち着いた色調の木造の壁には大きなガラス窓が張られ、

通りを歩きながらでも店の中の様子や、棚に並ぶ数々のパンを見ることができる。

日差し除けや雨の日の屋根として伸ばすことができる縞模様の庇には、トレードマークの鷹の眼と店名が書かれている。

開店前から店の前には行列ができており、開店と同時に客がなだれ込んできた。

特に目玉商品のアンパンはあっという間に売り切れてしまい、慌てて追加で焼いて並べてもそれもまた一瞬で売り切れる。

マリーカはアンパンを日に5回も焼くハメになってしまった。

そして夕方、閉店時間前になるといきなり客がいなくなり、代わりに二人の男性が大勢の護衛を連れて店を訪れた。

「へ、陛下! それにミハエル王子・・!」

なんと国王とミハエルが揃ってお忍びで店を訪れたのだ。

跪くマリーカや他の店員たちに、ミハエルが笑顔で告げる。

「今日の僕たちはただの客だから、畏まらなくていいよ」

「買い食いなんて何年ぶりかのう。ほほう、どれも美味そうだ」

王は笑顔で片手にトレイ、片手にトングを持ってキョロキョロしながら店内を回っている。信じられない光景だ。

幸いにもファブレが王の案内や商品の説明を、スパークが王子の相手をしてくれたためマリーカは王族相手に説明をする必要はなく、二人に心から感謝した。

会計で待つマリーカはもちろん代金は貰わないつもりだったのだが、スパークが会計を替わって貸し切りだからと普段の倍の値段を王に要求した。マリーカは気が気でなかったが、王は嬉しそうに小銭を銀の皿に置いていった。


入口に王室御用達の看板が誇らしげに追加されたホークアイは連日盛況だった。マリーカは睡眠時間以外はほぼ店に立っている。

オーナーのスパークもオープンから何日かは店に立っていたが、やがて来なくなる日が増えてきた。店に関する相談をしても生返事だ。

マリーカはファブレに相談してみることにした。

「ファブレさん、最近オーナーの様子がおかしいんですが、どうしたんでしょう?」

ファブレはかぶりを振る。

「誰が見たってスパークさんにパン屋は似合いませんからね。ヤマモト様もおそらく一ヵ月も持たないだろうとおっしゃってました」

「ええ? 突然いなくなったりしたら困ります!」

しかしマリーカの不安は的中した。何の前触れもなく、一ヵ月分の店の資金だけを置いてスパークの姿は消えてしまったのだ。店の運営自体はスパークがいなくても問題はないが、商品の入れ替えや設備の導入、素材の仕入先の変更、建物や土地に関する事などオーナーの決済が必要なことはいくらでもある。マリーカはファブレや料理人ギルドの補助を受けてなんとか店をやりくりしていた。

そして一ヵ月後、フラリとスパークが王都に戻って来た。さすがにマリーカも怒り心頭で文句を言ってやろうとスパークの家に行くと、スパークは素直に頭を下げてきた。

「いやあ済まなかったなマリーカ。俺にはパン屋は無理だわ。店はアンタに譲ろう。条件は俺に断りなく店を売ったりしないこと。店の名前を変更しないことと、看板メニューのアンパンは変更しないこと。そんなとこだ」

スパークは棚から店の権利書や営業許可証などを抱えて持ってきて、ドサドサとテーブルに置く。

「えっ?」

思いもよらぬ提案にマリーカは混乱する。

「今日はちょっと装備を取りに戻っただけだ。じゃあ達者でな」

「えっ、えっ? ちょっと、スパークさん!」

スパークはそそくさと家を出て行ってしまった。残されたマリーカは茫然とするしかなかった。


今日もマリーカは王都で一番と評判のパン屋を切り盛りしている。

店はひっきりなしに客が訪れ、看板商品のアンパンは一日に何度も焼かれては、店に並べた途端に売り切れてしまう。

定期的にファブレが来て新メニューの開発もしてくれるし、勇者その人や他の異世界人もたまに買い物に来ては気づいたことを助言をしてくれる。ありがたいことだった。

ミハエル王子もその後一度お忍びで来て、スパークがパン屋を引退したことを知ると苦笑していた。

「やっぱりスパークにパン屋は似合わないと思っていたよ」

マリーカはその後、スパークが店に来たのを一度も見たことがなかった。

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