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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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16話 磯辺焼き

新年に備えていつもより食料品が多く売りだされている通りを、

ファブレとヤマモトが何か珍しいものがないか、一軒ずつ覗いていく。

「新年、正月か。この世界にも餅はあるのかな?」

「モチというものは聞いたことがないですね、食べ物ですか?」

「そうだ。もち米という普通の品種より大粒で粘度の高い米を蒸して潰したものだ」

ファブレも普通の米でお粥を作ったり、潰して糊変わりに使ったことはある。

「ペースト状のものですか?」

「いや、餅はもっと・・そうだな、小麦粉などを練ったような感じだ。それが冷えると固くなる。

 焼くと膨らむがパンのようにパサパサにならず、粘度を保ったままなのだ」

「そんなにネバネバで食べにくくないんですか?」

「老人が喉につまらせる事故は絶えないな」

ヤマモトが真顔で答える。冗談ではないようだ。ファブレが引く。

「ええ? なんで新年にそんなものを食べるんです?」

二人の話を興味深く聞いていた店主が口を挟む。

「お姉さん、異国の出かな? うちでもそんな食べ物は聞いたことがないねえ」

「そうか・・特に探している訳ではないが

 私の国では新年といえば餅、というイメージがあってな。ありがとう」


ヤマモトとファブレは買い袋を抱えて帰路につく。

「そんな訳で、帰ったら餅を召喚してみてくれ」

「なんだか怖い食べ物みたいですが、大丈夫でしょうか。ヤマモト様の喉に詰まったら・・」

「嚥下機能の低下した老人でなければ大丈夫だ。念のため小さくちぎって食べれば間違いない。

 磯辺焼きにしてくれ。餅を焼いて海苔を巻いたものだ。

 醤油と砂糖を混ぜたもので食べることが多いが、私は醤油だけのほうが好きだな」

「ノリ・・というものも分かりません」

「小さい海藻を集めて紙状に乾かしたものだ。食べるときにさっと火であぶる。

 磯の香りがしてパリッとしている。だから磯辺焼きという」

「今回はまた難しそうですね・・」


家につき、ファブレは買ってきた食料品を片付けつつイメージする。

小麦粉を練ったようなもので粘りがある。それを焼く。

それにノリ、シート状にした海藻を炙ったものを巻く・・。

「やってみます。料理召喚!」

テーブルの皿の上に緑色の紙に包まれた細長いパン、のようなものが出現する。

ヤマモトは少し落胆した様子だ。

「これは果てしなく違うな・・」

「やっぱり違いますよね」

「いや、しょうがない。独特の食べ物だしな。

 元の世界でも国外の人には餅をイメージするのは難しいだろう」

ヤマモトは周りの紙のようなものをちぎって食べてみる。

「磯の香りはあるが味があまりないな。これでは乾燥ワカメだ。

 海苔はもっと黒っぽく、海藻にしては味が濃い」

「すみません。海藻はあまり食べたことがなくて」

「それに餅は平たく白い。両面に軽く焦げ目がつく程度に網で焼く。パンを窯で焼くのとは違う」

「なるほど」

ファブレはノートに海苔や餅のことをメモする。ヤマモトはナイフでパン部分を切ってみる。

外側はパンのようになっているが、中からトロッとしたものがあふれる。

ヤマモトはそれを口に運ぶ。

「これは・・お粥入りの米粉パンといった感じかな。粘度が足りないな」

ヤマモトが小さく切ったものをファブレも恐る恐る食べてみる。

「喉に詰まらせないように、あんまりネバネバにできなかったみたいです」

「餅はリンちゃんも食べたがるだろうし、召喚回数に余裕があるときにもう少し練習してみようか」

「頑張ります」

残りは輪切りにして中央の生部分を炙って二人で平らげる。

ファブレが入れたお茶を飲みながらヤマモトが聞く。

「こちらの世界では新年特有の食べ物とかは無いのかな?」

「ありますよ。干した果物を入れたお菓子です。今日買ってきています」

「ほう、ちょっと頂こうか」

「駄目です!」

珍しくファブレが強く拒絶する。ヤマモトは口を尖らす。

「どうしてだ? 少しくらいいいじゃないか」

「絶対に駄目ですよ、新年になる前に食べると歯が全部抜け落ちるとシスターに言われましたから」

「うっ、それは怖いな・・やめておこう」

ヤマモトは考える。

歯が抜け落ちるというのは孤児院で貴重な甘味の盗み食いを防止するために、

シスターが考えた方便ではないのかと。

もしかしたら盗み食いをした子の歯が折れるほどボコボコに・・

怖い考えになってしまったので考えるのはやめた。

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