15話 マヨネーズ
ヤマモトが朝食のサラダをハシでつつきながら呟く。
「しかし異世界に来たのにまたサラダとはな」
ファブレが聞き返す。
「元の世界でもよくサラダを食べられてたんですか?」
「職業柄な」
そういえばヤマモトの元の世界の仕事は聞いたことがなかった。
サラダ、野菜を食べ続ける仕事というと・・
「農家、ではないですよね」
ヤマモトは物腰が都会的で洗練されている。とても農家には見えない。
「ああ、私はファッションモデルだったんだ」
「ファッションモデル?」
ファブレの記憶にない言葉だ。
「こちらの世界には無いようだな。他人が作った衣装を着て見本になり宣伝するという仕事だ。
他にもコンパニオン、イベントの華役のようなこともやっていた」
想像がつかない部分もあるが、ヤマモトの美貌とスタイルを生かした仕事だということは理解できる。だがファブレにはそれとサラダの関係は全く分からなかった。
「サラダを食べるのもファッションモデルの仕事なんですか?」
ヤマモトはフフッと笑って答える。
「いや、モデルは痩せた体型を維持するのが重要なのだ。腹が減ったからといってガツガツ食べる訳にはいかない。特に人目があるときはな。そんなときはサラダを食べて空腹感をまぎらすのだ」
「サラダにそんな効果があるんですか?」
「サラダに限らず煮た野菜などでもいいのだが、食事で先に野菜を食べることによって血糖値が上がりにくい、まぁようは太りにくくなるのだ。それにゆっくり咀嚼して食べることで満腹感を得やすくなる」
ファブレの世界でもそういった話はあるが全く逆の説もあり、迷信の一種のようなものだが、
ヤマモトはハッキリと確信を持っているらしい。ファブレはヤマモトの知識に感心する。
「食事の仕方や食べる順番でそんな効果があるんですね」
「ああ、こちらの世界ではあまり気にされないようだな」
「ボクも食事は美味しくて満腹になればいいと思っていました」
ファブレはしょぼんと落ち込む。ヤマモトは微笑んでフォローする。
「なに、食事は美味しく食べるほうが重要だ。事情が無ければ好きなように食べればいいさ。ところで・・」
「なんでしょう」
ファブレは警戒する。このパターンは・・
「マヨネーズを作ってくれないか。久しぶりに食べたくなってきた」
「マヨネーズですか? どんなものです?」
「まろやかで酸味のあるドレッシングだ。作り方は簡単で、卵の黄身と酢と塩と植物油を混ぜるだけだ」
「変わった組み合わせですね。材料はあるのでやってみます」
単純だがレシピを知らなければとても思いつかない組み合わせだ。ファブレはさっそく用意を始める。ヤマモトがそれぞれの量を指示する。
「全部入れてかき回せばいいんですか?」
「いや、黄身と酢と塩は先に入れていいが、油は分離しないよう少しずつ加えながら混ぜるのだ。ここがポイントだ」
「なるほど」
ファブレはヤマモトの指示に従い、ボウルに油を少量入れてはガシャガシャとかき回し、また少量入れてはガシャガシャとかき回すのをひたすら繰り返し、腕が疲れてくる。
「結構大変ですね」
「レシピは単純だが手間はかかるな。自作だと保存も効かない。ただサラダはもちろん、茹で野菜や揚げ物、一部の魚料理などにも相性がいい」
「使い道の多いドレッシングなんですね。こんなものでしょうか」
ボウルには乳化したマヨネーズが出来上がっていた。
「うむ、よさそうだ。ではいただこう」
ヤマモトはボウルからマヨネーズをスプーンですくいあげ、たっぷりとレタスの葉につけてかぶりつく。
「うまい!」
また一枚、また一枚とどんどんとレタスにマヨネーズを付けて口に運ぶ。
ファブレもその様子にいてもたっても居られなくなる。
「僕もいただいていいですか?」
「もちろんだ」
ファブレはヤマモトからスプーンを受け取り、同じようにレタスにつけて食べてみる。
「これは・・まろやかさと酸味がとてもいいバランスですね。癖になりそうな味です」
「そうだろう。元の世界では毎食なんにでもマヨネーズを付けたり、直接食べる人もいるくらいだ」
ファブレは呆れる。
「さすがにそれはどうかと思いますが・・油をかなり使ってますよね、これ」
「まぁ大半は油だな。だから痩せようと思ってサラダを食べても、マヨネーズを付けていたら意味がない。美味いものは体に悪いのだ」
ファブレは礼を言う。
「でもいいものを教えてもらいました。色んなものに試してみます」
「そうだな、こちら特有のものと新たな出会いがあるかも知れない。ごちそうさま」
ヤマモトは久しぶりのマヨネーズを満喫して満足げに食事を終わる。
最近明らかに体のラインが崩れてきたことからは目を反らして。




