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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
三章 海の女王編
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147話 海辺の街へ

海までの旅路は途中の村で野菜を仕入れたり、野生の鳥や獣、川魚などを捕らえては、各料理人が腕を振るって、皆でワイワイと品評しながら食事をするという道中になった。

「川魚は癖が少ないからバターがよく合うな。皮もパリッとして美味い」

「この野菜王都で見たことないけどとっても美味しいネ!」

「そうだな、帰りにも仕入れてみようか」

「飲み物おかわりの方いますか?」

「ファブレ、こっちを頼む」

「うわっ、このソースすごく酸っぱいですね」

「野鳥に煮詰めた果物の汁を合わせてみたんだが・・ちょっと酸味が強すぎたか」

「私は好きですわ!」

宿に泊まった時はその地方の郷土料理を堪能し、ヤマモトのリクエストがあればファブレが異世界料理を召喚する。ついでに皆でつつく。

野宿の時もヤマモトは毎日風呂に入りたがるため、ファブレが風呂を用意することになる。

ファブレがバスタブごと風呂を召喚したのを見て、カンディルが目を丸くした。

「君の召喚は料理だけじゃないのかい?」

「これはお湯を張った大きな鍋、という感じで召喚することができます」

「おお、なるほど!」

カンディルは感心し、パッサールは大笑いする。

「ガッハッハ! 勇者煮か? 煮汁だけでも売れそうだな!」

「・・煮汁言うなパッサール。ほら男どもはあっちへ行ってろ」

「覗いたら天罰が下りますからね!」

ミリアレフが杖を振り回し、男性陣は離れた林へと追いやられる。

「しかしこんな快適な旅行は初めてですね。勇者様がいるから野盗の心配もなく、荷物も最小限。食事は最高、風呂まで毎日入れるなんて。行軍の訓練はそれは大変でしたよ」

「はぁ・・そういうものですか」

リチャードの言葉にファブレが首を傾げる。スパークやキョーイチローも旅の苦労を語っていたが、

ファブレはせいぜい腰が痛くなる程度で、馬車の旅で苦労した記憶がほとんどなかった。


やがて一行の馬車は海辺へと到着した。海を見るのが初めての者も多く、以前のファブレのように馬車から顔や身を乗り出して何とか海を見ようとする。

「わぁ、潮の香りがする!」

「凄まじい大きさだな。一体どれだけの魚がいるのか検討もつかん」

「これが海・・なんだかちょっと怖くもありますね。水がこぼれたりしないんでしょうか」

「フフ、今日はもう遅いから宿に泊まろう。明日は魚市場と海の見学にしようか」

「とっても楽しみネ!」


馬車はヤマモトとファブレが以前利用した宿の前で停車する。中に入ると恰幅のよい女将が食堂を忙しそうに動き回っている。

その背中に向けて二人が挨拶する。

「女将、また厄介になる。私たちの事は覚えているかな?」

「女将さん、お久しぶりです!」

振り向いた女将は珍客に目を丸くした。

「あ、あんたたちかい! もちろんだとも! ってアンタ勇者様だったんだろ! それにあの子も奇跡の料理人だったなんて。後で知ってビックリしたよ。おーいアンタ! 勇者様が来てくださったよ!」

女将が厨房に声を掛けると、女将と同じように恰幅のよい亭主が驚き顔で駆けつける。

「いやぁ、また来てくれるなんて思ってもみなかったよ。知らぬ事とはいえ、以前は勇者様と従者様に面倒な仕事を押し付けしまってすまなかったな」

亭主が頭を下げるが、ヤマモトが手で遮る。

「構わないさ。普通の客扱いして欲しくて身分を隠してたんだ。ここで教わった料理は王都でも好評だったぞ。ミハエル・・王子も絶賛していた」

「魔王退治にもとても役に立ちました!」

ヤマモトとファブレの言葉に、女将と亭主が破顔する。

「まぁ、それは嬉しいねぇ。こっちもあんたたちに教わった肉料理は好評だよ。しかし今度はずいぶん大人数で来たんだね」

女将がメンバーを見渡し、ヤマモトが簡単に紹介する。

「料理人ギルドの研修を兼ねた慰安旅行だ。ギルド長のカンディル、受付のリン、料理人のメイリン、篝火亭オーナーのパッサール、あとは友人だ」

「えっ! 篝火亭?」

亭主が声を荒げる。

「ああそうだが?」

「この街にも篝火亭ができるのか? みんなまだかまだかと首を長くして待ってるんだ」

亭主の話にヤマモトも驚く。

「ほう、人気があるんだな。パッサール、予定はどうなんだ?」

「今回は旅行だけで開店の予定は白紙だぞ。ついでに下見しようとは思っていたが・・いやー、オープンを待ち望んでる人がいるなんてビックリだな」

「やっぱり漁師や市場の関係者は魚料理は食べ飽きてるし、お昼なんかはすぐ食べれて力の出る、温かい料理を欲しがるからね」

女将の言葉を聞いてリンがハッと気づく。

「そういえば、私の国の牛丼チェーンの一号店は魚市場の一角だったはずです」

「ああ、そういえばそうだったな。私も食べに行ったことがあるのに忘れていた」

カンディルは話を聞きながら何度も頷いていた。

「ふーむ、それなら成功間違いなしだな! よし、王都に帰ったらすぐこの街に出店の計画を建てよう」

「そりゃありがたい! 頼んだぜ!」

亭主がグローブのような分厚い手でカンディルの肩をバシバシと叩く。カンディルは飛ばされないように何とか踏みとどまった。

「じゃあ今日はこの宿の食事を堪能するとしようか。女将、いいかな?」

「もちろんだとも! ささ、座っとくれ」

皆が席に着いたところで、すぐに様々な魚介料理がテーブルに運ばれてくる。

道中の食事と同じように、皆で感想を言い合う食事会が賑やかに続いた。

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