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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
二章 大魔王編
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145話 宴と秘密

女神は次にミリアレフに目を止める。

「神官長ミリアレフよ、よくぞ使命を果たしましたね。おや、蘇生を使ってしまったのですか。ではあと3回分授けましょう。はいどうぞ」

女神がミリアレフに手をかざすと、温かな光がミリアレフを包む。

「あ、ありがとうございます・・?」

思わぬ大盤振る舞いにミリアレフも目を白黒させる。

女神は周りをグルリと見回して、神妙な顔で告げる。

「人の子らよ。よくぞ大魔王を倒すという偉業を成し遂げました。しかし思い上がりは禁物です。もしも力に溺れ自己の欲望のために人の世に害を為したり、神の威光を貶めたりすればそれは大魔王と変わりません。同じように駆逐される事になるでしょう。そのことを努々忘れないように、正しい道を歩むのです」

「ははっ!」

浮かれていた従者や冒険者たちは跪いたまま深く頭を下げる。

女神は笑顔で頷き、やがて徐々に輪郭が薄くなっていき、声だけを残して消えていった。

「では私はこれで。その魔除けはカエル化には効果がありませんからね・・」

ヤマモトが立ち上がってボヤく。

「やれやれ、最後に脅されるとはな。皆、女神は静謐で厳格ながらも人への慈愛に溢れていた。そうだな?」

「その通りです!」

「ああ、そうだったな」

ミリアレフとスパークが同意する。ファブレもそう思い込むことにした。

「ヤマモト様、これからどうします?」

ファブレの問いに、ヤマモトが周囲へ声を張り上げる。

「私は王に報告する義務があるから、来た道を逆に辿って王都まで戻る予定だ。別行動を取る者は教えてくれないか?」

オウマがヤマモトに告げる。

「我はここに残って城の修理をしようと思う。ルリも一緒だ」

オウマとルリは魔王城に残るようだ。

「いいのか? 王から莫大な報酬がもらえるだろうに」

「それは興味がない。それに我が王から褒められるというのもな」

オウマが笑う。以前と比べるとかなり邪悪さが薄れ、自然な感じになっていた。

「そうか。ルリもいいのか?」

「うん。城の修理が終わったらまた元の家に戻るよ」

「王には適当に伝えておいてくれ。落ち着いたら手紙でも出そう」

ヤマモトはオウマと握手し、ルリを抱擁する。

ゴローはキョロキョロと3人を見ていたが、気を付けの姿勢になって叫ぶ。

「わ、私も残ります!」

「ゴロー、前にも言ったが君を臣下として扱うつもりはない。自由にしてよいのだぞ」

「いえ、私がそうしたいんです! させて下さい!」

「正直、ゴロちゃんがいれば力仕事が捗って助かるよ。よろしくね!」

「ありがとうございます!」

ゴローがルリに頭を下げる。

「他に別行動の者は?」

キョーイチローが進み出る。

「俺とレイコは城を出たら好きにさせてもらうぜ。団体行動は性に合わないんでな」

「そうか。無理に呼んですまなかったな。君の助けがなければ大魔王討伐は難しかったろう。ありがとうキョーイチロー」

ヤマモトが満面の笑顔で差し出した手を、キョーイチローが苦笑して握り返す。

「そうやって笑ってりゃ完璧だからズルイ女だぜ。俺もぶらぶらしてっから、縁がありゃまた会うだろう」

「では他は基本的に私と同行だな。変更があればその時点で教えてほしい」

皆頷く。そこで誰かのお腹がグーと鳴る音が聞こえた。ヤマモトが自分の腹を押さえる。

「そういえば半日くらいロクに食事を取ってないな・・。別行動の者も、今日のところは一緒に食事と行こうじゃないか。ファブレ、頼んでいいか?」

「もちろんです」

「では少し片づけよう」

オウマが広間の瓦礫を分解魔法で消してスペースを整える。

「ありがとうございます。では、料理召喚!」

そして広間中にいくつものテーブルやワゴン、それに乗った皿と盛られた料理、何十種類もの酒のビン、積み重なった食器や整然と並んだグラスがところ狭しと出現する。

皆すぐ取り皿を持ち、料理の間を歩き回って物色する。

「緊張でそれどころじゃなかったけど、料理が出ると腹ペコだったと気づかされるな」

「前に気になってたのはどれだったかな・・」

「なんだ? 向こうの食いもんばっかりじゃねーか。おっ、寿司もあるのか」

「酒も飲み放題かよ! 勇者様の勝利に乾杯!」

「やったぜ俺たち!」

食事は賑やかに進行していく。酒を飲む者たちは既に宴会になっているようだ。

ファブレもエビグラタンを取ってきてヤマモトの傍に座る。ヤマモトがふとファブレに尋ねる。

「そういえばファブレは龍王の肉を食べてただろう。マズいと言われて龍王が怒ったようだが・・本当にまずかったのか?」

「びっくりするほどマズかったですね」

ラプターが骨つき肉にかぶりつこうとしていたのを中断する。

「何だって? 龍王の肉を食べたのかい?」

「ああ、ラプターは死んでたんだったな。肉を食べたファブレにマズイと言われて、怒った龍王がまんまとブレスを吐いてきたという訳だ」

「それは僕も思いつかなかった素晴らしい機転だが・・龍王の肉を食べたものは不老不死になるという伝説があった気がするぞ?」

「えっ!?」

「マジか!?」

「なんで先に教えてくれなかったんですか! ヤマモト様、どうしましょう・・」

ファブレはおろおろとヤマモトを見る。

「もうどうしようもあるまい。まぁ所詮伝説で本当に効果があるか分からないし、飲み込まずに吐き出したんなら、もし効果があっても微々たるものだろう」

「そう願いたいです・・」

「待て、これはマズイなんてものじゃないぞ」

ラプターが深刻な顔でファブレを見る。ファブレが頭を下げる。

「すみません、今日の味付けは口に合わなかったですか?」

「料理のことじゃない。ファブレ君は一度食べた物を召喚できるだろう。もしかしたら龍王の肉も・・できてしまうかも知れない」

「あっ!」

ヤマモトも気づいたようだ。周囲を見回して話が漏れていないことを確認し、ひそひそと話す。

「よし、これからは龍王の肉という言葉を使うな。ファブレ、それの召喚は封印だ。いいな?」

「はい。必ず守ります」

「皆、ファブレがそれを食べたこと、召喚できるかも知れないことは絶対の秘密だ。誰かに話したら・・こうなる。言っておくが本気だぞ」

ヤマモトが自分の首を手刀で切る仕草をした。スパークが冷や汗を垂らす。

「あ、ああ・・分かったぜ」

「では龍王は単に倒れたファブレ君を狙ってブレスを吐いたということにしようか」

ヤマモトがラプターの案に頷き、笑顔でミリアレフの肩を叩く。

「頼んだぞミリアレフ、私だって君を手にかけるなんて悪夢みたいなことはしたくないんだ」

ミリアレフはさめざめと泣いている。

「ああ、なんでこんなことを知ってしまったのでしょう・・神よ、これも試練でしょうか」

「すみません皆さん、僕のせいで」

ファブレが頭を下げる。

「あれが無かったら龍王に勝てなかったから今生きてるだけ儲け。スパーク、これに醤油かけて」

「自分でやれって・・」

ファーリセスはいつもと変わらなかった。

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