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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
二章 大魔王編
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134話 禁断の勇者召喚

「おお、これが大魔王の繭か・・」

玉座の周りに散らばる殻の破片を恐る恐るつまみあげ、興味深く観察するラプター。

「物理も魔法も通らないんだろ? これで鎧や盾を作れば最強の防具になるんじゃないか?」

とスパークが提案するが、

「どうやって加工するの?」

「そうだな・・」

ファーリセスの一声ですぐに断念する。

「いやあとんでもないお宝だな。大魔王の城まで来た甲斐があるというものだ」

嬉しそうに鞄に破片を詰め込むラプターを見て、ヤマモトが呆れる。

「お前の研究のために来たんじゃないぞ、全く」

「えっ! す、すみません・・」

ミリアレフもこっそりとポケットに破片を入れているところだった。


ハヤミたちの部隊が玉座の裏の扉を開け、魔王の居室や厨房などに繋がっていた廊下に入る。

「なんだこれは?」

「うへえ、気色わりい」

扉を開けた先の廊下には壁や天井沿いに生き物の血管のようなものが走り、ごくわずかに脈動しているのが分かる。

「気を抜くなよ。オルトチャック調査を頼む」

「ふむ」

ヨーコの声で皆は油断なく周囲を警戒し、オルトチャックが床や壁の様子を探る。

「特にこれ自体に害はない。蔦が絡まっているようなもんじゃな」

魔王やルリのいた居室や厨房、ヤマモトたちが泊まった部屋は扉の上に血管が走り、溶接されてしまったように開けることができない。

「魔法の守りがある宝物庫は無事のようだな。大魔王との闘いに役立つものが何か残っているかも知れん。見ていくか」

オウマの呟きにスパークが喜色を浮かべる。

「うひょう! そうこなくっちゃ!」

オウマが重厚な宝物庫の扉に手をかざし何やら呟くと、カチリと錠が外れた音がして扉が自動的に開く。

「おお!」

宝物庫の中に入った一行は部屋を埋める財宝や魔法のアイテムに驚嘆の声を上げる。

「こんな時でもつい頬が緩んじまうな」

「凄い、お宝の山だ」

「ゆっくり選んでいる暇はない。皆、何か役立ちそうな物はあるか?」

ヤマモトの声で皆が我に返り、素早く周囲を物色する。

ファブレに魔法のアイテムや強力な装備など分かるはずもないが、金貨の山に埋もれ、角がはみ出した扉の枠のようなものに目を奪われた。

「ヤマモト様、あれは・・」

「ん、なんだ? 扉?」

「ああ、あれは次元の扉だな。女神がヤマモトを帰還させるときに使っていただろう」

オウマが金貨の山を分解魔法で消し去ると、見覚えのある扉が現れた。

ヤマモトがノブを回すと、扉の向こうは星の煌めく夜空が広がっている。

ヤマモトが帰還するときと、再召喚されるときに見たものと同じ景色だ。

「ふむ、勝手に帰ってもいいのか?」

「いい訳ないでしょう! 使い道はなさそうですね、すみません」

頭を下げるファブレを見て、ヤマモトがニヤリと笑う。

「いや、戦力増強のいい手があるぞ。おーいレイコ」

「なあに?」

宙から突然レイコが実体化して周りから驚きの声が上がるが、ヤマモトはそれを無視してレイコに語り掛ける。

「レイコの時の勇者・・キョーイチローはどんな二つ名だった?」

レイコが胸を張って答える。

「キョーイチローは仁と義の勇者だよ!」

なぜ二つ名が必要なのだろう。ファブレは猛烈に嫌な予感がした。口を開こうとしたがヤマモトはそれよりも早く、躊躇うことなく扉に向けて告げた。

「次元の扉よ。異なる時間、異なる世界を繋ぎ、仁と義の勇者、キョーイチローを再びこの地へ呼び寄せ給え」

「ヤマモト様、待っ・・!」

遅かった。扉の中の夜空に魔法陣が浮き上がり、それが消えると宝物庫の床に男性が倒れていた。

扉は宙に溶けるように消えていってしまった。

うつぶせに倒れた男性の黒い上着には龍と虎が金糸で刺繍されており、非常に目立つ。金と黒が入り混じったような短い髪を振って男性が起き上がり、かけていた黒い眼鏡をはずして周囲を見渡す。

「ん? なんだここは?」

「キョーイチロー! 会いたかった!」

レイコが笑顔で男性の胸に飛び込む。が素通りし、身体にまとわりつくように周囲を浮遊する。

「レイコ!? 生き・・ちゃいないか。無事だったのか? じゃあここはあの異世界か? 何で俺はまた呼ばれた? ん、前の女神と違うな? あれ、もしかしてハヤミさん? 目が治ったのか?」

「久しぶりだね、キョーイチロー」

ハヤミはにこやかに挨拶するが、男性は混乱の極みのようだ。レイコを纏わせて撫でる素振りをしながらドッカリと床に座り込む。

「わりぃが誰か説明してくれや」

「私が説明しよう。私は君の次代の勇者、ヤマモトだ。魔王を倒したがその後に出現した大魔王を倒すべく、仲間たちと共に魔王城まで来ている。大魔王の力は強大で、君の力も借りたいと思って勇者召喚を行ったのだ。レイコも会いたがっていたしな」

男性は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「チッ、何を勝手な・・だが目的を果たさないと帰れないっつんだろ?」

「ああ」

男性は座り込んだまましばらく沈黙し、やがて膝を叩いて起き上がる。

「しょうがねえな。協力してやるよ。レイコのことはずっと気がかりだったからな」

「話が早くて助かる。よろしくな、キョーイチロー」

ヤマモトが手を差し出し、キョーイチローが握り返す。

「しかし女神でもないのに勇者召喚使っていいのかよ? 綺麗な顔してとんでもない女だな。ん、アンタの顔どっかで見たな?」

「それは気にするな」


思わぬ成り行きに茫然としていた皆が、やがて堰を切ったようにヤマモトを責め立てる。

「ヤマモト様! なんて事をするんですか!」

「ゆゆ勇者様・・女神様にカエルにされても知りませんからね!」

「神をも恐れぬ行為」

「とんでもない事しやがるな・・」

「えっ、勇者召喚使ったの? ありなのそれ?」

「やべぇなこの女」

「ククク、これは盲点だった。全ての魔法を使えるとはいえまさか女神の魔法も使えるとはな」

「女神の魔法! 他にも何か使えるのかい?」

「ああうるさい、私はベストを尽くしただけだ」

ヤマモトが耳を指で塞ぐ。

「文句なら後で聞く。今は大魔王の討伐が最優先だ。そうだろう?」

「勇者様、本当にありがとう!」

レイコが満面の笑みでヤマモトに礼を言うと、文句を言っていた連中もバツの悪い顔になり、それ以上ヤマモトを責められなくなる。

「はぁ・・やっちまったものはしょうがない。他に目ぼしいものはなさそうだし先へ行くか。この先は行った事がないがどうなっているんだ?」

スパークの問いにオウマが答える。

「廊下の突き当りに階上への階段がある。おそらく大魔王は最上階にいるのだろう」

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