129話 空飛ぶ馬車
一行は遂に魔物の領域との最前線、サイハテ村を奪回した。
だが川を越えた魔物の領域では人体に有害な瘴気が漂っており、それを何とかしなければ
大魔王のいる魔王城へ到達することはできない。
今日はその対策会議のため主要メンバーが集会場に集まっている。
「ちょっと調べたけど、あの瘴気の中だと人族は1分も持たないみたい。猛毒」
ファーリセスが瘴気の調査結果を伝える。
「私は状態異常無効だから何ともないが、さすがに一人で切り込むわけにもいくまい。ラプター、何か手段はあるか?」
「実際にできるかどうかは別として、思いつく対策は3つだね」
ラプターが指を3本立てる。
「まず瘴気の発生を無くすという方法。だが大魔王がこの瘴気を発生させているならこの方法は無理だ。大魔王以外が発生させている可能性はあるのかな?」
オウマが腕を組んで首を振る。
「あの瘴気は大魔王を倒さない限り、晴れることはないだろう」」
ラプターが頷き、言葉を続ける。
「では次に瘴気に対する耐性を得る、あるいは打ち消すという方法。防御魔法やアイテムなどで皆を瘴気から守ればいい」
「ミリアレフ、防御魔法で皆を瘴気から守れるか?」
ヤマモトの質問に、ミリアレフは頭を下げる。
「防御魔法を掛け続けても、私では5人を1時間程度守るのがやっとです。力不足で申し訳ありません」
「いや大したものだろう。私はその半分も持たない」
ヨーコがミリアレフをフォローする。スパークが注意を促す。
「分かってると思うが、砦から魔王城まで馬で半日かかるぜ」
「では防御魔法は持たないか。ハヤミ、何か有効なアイテムはあるか?」
ハヤミが首を傾げる。
「うーん・・個人を防護する指輪ならあるが、全員は無理だね」
「じゃあラプター、最後の方法は?」
「瘴気のない場所から魔王城へ行く、という方法だな」
ラプターの言葉にヤマモトが困惑する。
「ん? どういうことだ?」
「瘴気の影響のない地下からだとか、空からだとか、あるいは転移する・・そういうことさ」
オウマが口を開く。
「実は我一人なら魔王城へ転移することはできるのだ。だがすぐに元の場所に戻されてしまうから、一人ずつ召喚するという方法は使えない。城内や城の周囲には瘴気が無いようだぞ」
「そう都合よく魔王城までの長い地下トンネルがある訳もない。前の隠し通路も使えないと思った方がいいだろう。となると残る手段は・・空だな。瘴気の届かない場所を魔王城まで飛んでいけばいい」
ファブレが当然の質問をする。
「ヤマモト様、どうやって空を飛ぶんですか?」
「どうするんだ? ラプター」
ヤマモトに丸投げされ、ラプターが苦笑する。
「勇者話には空を飛ぶ話がいくつかある。空を飛ぶ魔法を使うというもの。ドラゴンを召喚したりテイムしたりしてそれに乗るというもの。空を飛ぶ船を作ったり発掘するというもの。馬車を浮かせるなんて話もあったな」
その言葉を聞き、ハヤミが手をポンと叩く。
「ああ、そういえば昔手に入れた飛翔石というものを馬車につけっぱなしだった。すっかり忘れていたな」
「ハヤミ様、私はその飛翔石というものを存じませんが・・?」
ヨーコに困惑気味に聞かれ、ハヤミが頭を掻く。
「いやあ、急に使ってビックリさせようと思ってね」
ヤマモトがジト目でハヤミを睨む。
「子供か全く・・でハヤミ、それで馬車が空を飛べるのか?」
「ああ。石は十分にあるから全部の馬車につけることもできる。試してみようか」
広場に全員が集まり、馬車の飛行テストを見守る。
ハヤミが手綱を握る馬車は広場をぐるりと回った後、見えない階段を登るかのように空へと駆け上がった。
「おお!」
「凄い、ほんとに空を飛んでる!」
「ん? もしかして俺もあれに乗るのか・・? 嘘だよな?」
皆が見上げる中、馬車はどんどんと高度を上げていく。十分に瘴気が届かない場所まで上がった後、馬車は飛び立ったときと逆に、見えない階段を降りてくるかのように地面へ降り立った。
拍手の中、照れくさそうに馬車を降りるハヤミ。
「じゃ、操作を教えるから御者をする人はこっちに来てくれ」
ファブレの乗る馬車はヤマモトとスパークが御者をするようだ。ファブレは空飛ぶ馬車に乗った自分を想像してみる。きっと窓からの景色はとてつもない物だろう。恐怖で足がすくんでしまうかも知れない。外を見なければ大丈夫だろうか・・。
一人で不安を抱えていてもしょうがない。ファブレはミリアレフとファーリセスのところに向かう。
「思ってもない事になりましたね。ミリアレフさん、高いところは大丈夫ですか?」
ミリアレフはうっとりしている。
「昔から空を飛んでみたいと思ってたんです! しかも馬車なんてとっても素敵ですね」
「そうですか・・ボクはちょっと不安で」
「でしたら出発のときに鎮静魔法を使いましょうか?」
その言葉でファブレは少し安堵する。
「ありがとうございます。お願いするかも知れません。ファーリセスさんは?」
「鳥の目で高いとこに慣れてるし大丈夫! 早く乗ってみたい!」
ファーリセスは目を輝かせ、逆立った尻尾がパタパタとせわしなく振られている。
「そういえばそうでしたね」
案外皆大丈夫なのだろうか。ファブレが広場を見渡す。
冒険者たちの反応は様々だ。ファーリセスと同じように目を輝かす者、怖くなんかないと虚勢を張る者、ファブレと同じように顔色が悪い者もいる。
そして儂は絶対乗らんぞ! と木にしがみついているサンスイとそれをからかうシズリンデの姿も見えたが、ファブレはそれは記憶から消すことにした。




