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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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13話 フレンチトースト

「天気のいい休日の朝、こんなときはフレンチトースト」

顔を洗ったヤマモトがタオルで顔を拭きながら食堂に現れる。

「おはようございますヤマモト様。フレンチトーストですか?」

エプロン姿で、ヤマモトの朝食リクエストを待っていたファブレが問いかける。

「うむ。フレンチトーストは卵と牛乳と砂糖を混ぜた液体にパンを浸し、それを焼いたものだ」

「シンプルですね。砂糖が高いから普通は気軽に作れませんけど」

「うちには砂糖がたくさんあるだろう。とても美味しい。ぜひ作ってみてくれ」

ヤマモトがファブレの料理研究のためにと、どこからか大量の砂糖を仕入れてきている。

「実際に作るんですね、分かりました」

ファブレは準備を始める。ボウルに卵を割り、砂糖と牛乳を入れ混ぜる。

「パンは厚切りで耳は取り、縦半分にする。本当は時間をかけて液に浸したほうがよいのだが、今日は時間がないからパンにフォークで穴を開けておくといい」

ボウルの卵液を深皿に移し、パンを入れると液体がパンに吸い込まれていく。思ったより早く卵液が無くなってきた。

「なるほど、甘い卵焼きとパンを混ぜたようなものなんですね」

「そうだな。パンの触感が加わってまた違った風味になる」

ファブレはまた卵液を作り、パンを浸していく。液体を吸ってぐんにゃりしたパンが4つできる。

「バターが無いのは残念だが、普通の油でもいい。フライパンで蓋をしてじっくり両面焼いてくれ。表面に焦げ目がつくくらいでいい」

「分かりました」

ファブレはじっくりとパンを焼いていく。ひっくり返すときに蓋を開けると甘い匂いが充満する。

「いい香りですね」

「幸せの香りというやつだ」

やがて焼き上がり、皿に2枚ずつ並べる。

「できました! 見るからに美味しそうですね」

「粉砂糖やハチミツなどをかける場合もあるが、今日はこのままでいただこう」

ヤマモトがいつもの両手を合わせるルーティンのあと、手づかみでフレンチトーストにかぶりつく。

「ちょっと芯がパンのままの部分があるが、十分美味いな」

「うわあ、とっても美味しいですねこれ!」

ファブレも夢中でかぶりつき、二人ともあっという間に食べ終わる。

「いい料理を教えてもらえました。ありがとうございます」

ファブレは上機嫌で片付けを始める。

「気に入ったようで何よりだ」

ヤマモトはカップでお茶を飲む。これだけみると美女の優雅な姿だ。

「ところで休日とおっしゃってましたが、魔王討伐は進んでいるんですか?」

「いや、全く進んでいない」

ファブレがガクリとつまずく。

「大丈夫なんですか? 勇者様の能力には期限があると聞いたことがあります」

「私の能力は時間が経つほど強くなるのだ。魔王は城に引きこもって出てこないから、今あせってもしょうがない。人間界への大規模侵攻なども無いしな。正直討伐しなくてもいい気さえするが・・とりあえず一度会ってみようと思っている」

「そうだったんですか」

ファブレは驚いた。ヤマモトは今までそういった話は全くしなかったのだ。

「魔王討伐のときは君にも着いてきてもらう必要があるからな」

「うう、やっぱりそうなるんですね・・」

「心配するな。その頃には私はとんでもない強さになっている。君を守りながら戦うのだって訳ないさ。ただしちゃんと料理を作ってくれないと力が出ないから、それは頼むぞ」

「分かりました。責任重大ですね」

ファブレは拳を握り、背筋を伸ばして気合を入れる。

「そういうことだ。今は美味しい料理とかわいい従者で英気を養うときなのだ」

「僕は男ですから、かわいいと言われても嬉しくありません」

プイと横を向くファブレ。

「そんなことはない。これはきっと似合うぞ」

ヤマモトがどこからともなく取り出したのは、どう見ても女の子用のメイド服だった。

「そんなの絶対着ません! 買い物に行ってきます! ヤマモト様のヘンタイ!」

ファブレは逃げ出した。

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