12話 オムライス
「ヤマモトさん、助けて下さい!」
リンが家に尋ねてくるなり頭を下げ、扉を開けたヤマモトが驚く。
「いったいどうしたんだ。中で聞こうじゃないか」
ファブレがいつものように二人にお茶を出す。カレーを作って以来リンはちょくちょく顔を出すようになり、他の異世界料理もいくつか作っている。
「実は私のギルドに意地の悪い男の子がいて・・カレーやファブレくんの異世界料理が最高に美味しかったって話をしたら、
そんなのよりもこっちの世界の料理の方が美味しいって、ケンカになっちゃって」
「ふむふむ」
「私もムキになって、じゃあ美味しい異世界料理を食べさせてあげる! って言っちゃったんですけど」
「君は料理はできない・・と」
「そうなんです。うう、なんでこんなことになっちゃったんだろ」
リンはベソをかいている。ヤマモトは微笑んで
「その男の子も気持ちも分かる。君だってもしも家に住ませている宇宙人が『やっぱり宇宙料理は最高だ』なんて言ったら、地球の食事を貶されたようでいい気分ではないだろう」
「あっそうか・・そうですよね。私、酷いこと言っちゃった」
「それにその男の子は、きっと君のことが好きなんだろう」
「えっ、フロスがですか?」
どうやらその男の子はフロスというらしい。
「その男の子はファブレをライバル視して嫉妬しているのだ。フフ」
ヤマモトはうんうんと頷いている。ファブレはそうだろうかと首を傾げる。
「とりあえずその事は置いといて、何か日本の・・異世界料理の作り方を教えてもらいたいんです」
「ああいいぞ。だが私が料理しようとすると、うちのコックが道具に触るなとうるさくてな・・」
爆発するから触らせないという当たり前のことなのに、ファブレのせいにされてしまう。
「まずレシピを言うから、そのあと二人で作るといい」
「お願いします!」
「ルーがない状態からカレーを作るのは難しい。そうだな・・オムライスなんていいだろう。
こちらでは米を使った料理は珍しいからな」
「オムライスですか? 僕もまだ作ったことがありません」
ファブレも聞き漏らさないよう集中する。
「まずチキンライスを作る。これは鶏肉とタマネギを荒みじん・・君たちの小指の爪程度の大きさに切る。それをバター・・無ければ油でいい。で炒めながら塩コショウ少し、そこに米とケチャップを加えて更に炒める」
「ケチャップがあるんですか?」
とリンが聞く。
「ああ、以前ファブレが作ったものがあるから大丈夫だ」
市場でトマトを見かけたヤマモトが1樽も買ってきて、大量に作らされたのだ。
「チキンライスができたら別に卵を焼く。本当は包むのだが、今回は薄焼き卵をチキンライスの上に乗せるだけにしよう。あとはケチャップを乗せて完成だ。ケチャップアートで女子力アップだ」
女子力とは何だろう・・ファブレは聞こうとしたが、なんだか聞いてはいけない気がして黙っておく。
「それなら私にもできそうです!」
早速試してみる二人。ファブレは問題なくすぐできたが、リンはタマネギを切って泣いたり、チキンライスが焦げたり、卵が破れたりと悪戦苦闘だ。
だが3つも作ればそれなりの物になった。自分の作ったオムライスを食べてみるリン。
「美味しい! これ私が作ったんですね!」
「これなら手料理としては充分だろう。その男の子に食べさせてやれ。このケチャップと・・コショウを持っていくといい」
「はい! どうもありがとうございます!」
リンはお礼を言い帰っていった。
「君にもライバル出現だな」
お茶を飲みながらヤマモトがファブレをからかう。
「見たこともない人にライバル視されても困ります。それにリンさんはただの知り合いですし」
食器を洗いながらにべもなく答えるファブレ。
「そんなことはあるまい。ライバルは君よりも男らしいようだぞ」
「リンさんはヤマモト様より女子力とやらが高そうですね」
ヤマモトのいじりに皮肉を返すファブレだが、ゆらりと立ち上がったヤマモトを見て顔が青ざめる。
「ほほう。従者が勇者を貶すとは・・いい度胸だな?」
言い終わった瞬間ヤマモトの姿が消え、ファブレの背後に出現して足を払う。
ヤマモトは座り込んだファブレの腰を後ろからカニ挟みでガッチリ抑えると、両手で脇の下をくすぐる。そちらがカバーされると今度は犬耳をくすぐる。頭の上の耳をガードすると脇が上がってしまい、今度は脇をくすぐられる。無限地獄だ。
それに背後から密着したヤマモトの胸の感触が背中に当たっている。
「や、やめて下さい! アハッ、アハハハ! 僕が悪かったです!」
くすぐったさと恥ずかしさで悶絶するファブレ。
「フフ、これこそが女子力だ。思い知ったか」
ヤマモトの女子力はただの横暴な姉だった。
後には床でピクピクと痙攣するファブレが残された。




