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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
二章 大魔王編
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114話 従者選考会①

ここはロアスタッド。冒険者ご用達の酒場だ。

皆が座るテーブルにロアが興奮気味にやってきて、両手でテーブルを叩く。

「勇者の一行が到着したぞ! 明日領主の館で選考会をやるってよ」

「よし、予想通りだ」

「緊張してきましたね」

「まさか勇者様の従者なんてなあ」

騎士シェルハイド、スカウトのロア、女神官のアドリア、魔術師クラック、地図書き(マッパー)のドーソン。

彼らはロアスタッドを拠点とするA級パーティ「黄金の羊」のメンバーだ。

勇者が新しい従者を大量に募集しているのを聞きつけ、大胆にもパーティ全員で従者になろうというのだ。

シェルハイドが皆を見渡す。

「俺たちならきっと全員が選考に合格するだろう。そうしたら晴れて勇者様の従者だ。大魔王を討伐すれば報酬もたんまりだろうし、きっとS級にも認定される。輝かしい未来に乾杯!」

「乾杯!」

「やってやるぜ!」

「従者ドーソンか、悪くない」

皆ジョッキを合わせて一息で飲み干した。


翌日、皆で選考会が行われている領主の館へ向かうと、既に従者希望の者が列を成していた。

その場で一次選考として簡易的な鑑定が行われ、一定のレベルに達していないものは屋敷に入ることもできずに帰らされている。

黄金の羊のメンバーは問題なく全員が一次選考を通過した。

「おい見ろ、黄金の羊だぜ」

「まさか全員参加するのか?」

屋敷のホールに入ると周りからざわめきが起こる。ホールにいるのは大半が冒険者で、皆彼らのことを知っていた。

「2次選考はそれぞれ得意分野で実地試験のようだ。スカウト部門の試験官は"鷹の目"スパークだった・・マジかよ」

情報を集めてきたロアの顔色が悪い。

「確か最近討伐者になったんだな。どんな人物だ?」

「彼がいるパーティは絶対に死人が出ないと言われているS級スカウトだ。それに勇者から直接従者になってくれと勧誘されてるんだぞ。俺なんかが敵う訳がねぇ」

「聖女かつ神官長のミリアレフ様の姿が見えるのですが・・まさか彼女が試験官なのでしょうか?」

アドリアは泣きそうな表情だ。

「と、とにかくここまで来たらやるしかない。尻尾を巻いて逃げるのか?」

シェルハイドがいつもの鼓舞のセリフで皆に問いかける。

「黄金の羊に尻尾はついてない」

「黄金の羊はどんな困難もその角で突き破る!」

「自分を信じろ。俺たちだっていくつもの死線を潜り抜けたA級パーティなんだ。実力を見せつけてやろうぜ」

「おお!」

皆で右拳を出してぶつけ合う。そしてそれぞれの試験官の元へ向かった。


騎士シェルハイドの試験官はハヤミと名乗った。湯上りに着るような薄手の長衣をまとい、腰の部分を帯で止めている。

「シェルハイド君。ほほう、A級冒険者パーティのリーダーか。これは期待できそうだ」

ハヤミが笑い、シェルハイドに木刀を渡す。

「私の体に触れれば勝ちだ。いつでもどうぞ」

「では参ります」

シェルハイドが上段に構えるがハヤミは木刀をダラリと垂らしたままだ。シェルハイドがハヤミの肩口を狙って木刀を振り下ろすと、ハヤミは目にもとまらぬ速さで一瞬だけ木刀を跳ね上げて弾き、またダラリと垂らした構えになる。

不思議な剣術だ。シェルハイドは連続で突きを繰り出すとハヤミは半身になって僅かに下がり、かすりもしない。

シェルハイドの得意なフェイントを入れた切り上げもハヤミの木刀に弾かれる。

「それだけかね? ならハンデをやろう」

なんとハヤミは目をつぶってしまった。シェルハイドはさすがに怒り、本気の連撃を繰り出す。

だがハヤミは全て攻撃があらかじめ分かっているかのように、最小限の木刀の動きで全ての攻撃を弾いてしまった。

シェルハイドは驚愕した。まるで子供扱いだ。もはや手段を選んではいられない。騎士を名乗るが彼は冒険者、泥臭い戦い方もできる。

シェルハイドは木刀を右片手に持ち替えて振り下ろす。木刀を弾かれたところで突進して左手でハヤミの着物を掴みに行く。だがそれも躱される。右足で蹴りを繰り出すとハヤミは屈んで蹴り足を木刀で跳ね上げ、シェルハイドは派手に転んでしまった。

だがそれはシェルハイドの計算通りだった。シェルハイドは倒れた態勢からハヤミに木刀を投げつける。驚いたハヤミが横に避けたところを、這いずった手を伸ばし何とか着物の裾に触った。もし逆側に避けられていたら触れなかっただろう。

「合格だ。意地を見せたね」

ハヤミは笑っているが、ハヤミの背後の女性は怒り心頭でシェルハイドを睨んでいた。


魔術師の試験はよくある魔力比べだった。

試験官が魔力を込めて置いた駒に向けて、挑戦者が魔力を込めた玉を転がし、駒が倒れれば挑戦者の勝ちというものだ。

魔術師クラックは前の挑戦者の様子を見て驚いた。

駒はビクともしないどころか、逆に玉の方が転がった以上の勢いで跳ね飛ばされてしまったのだ。

不正を疑った挑戦者が駒を持ち上げ調べたが、駒はごく普通のものだった。

クラックの番になると獣人の試験官はファーリセスとだけポツリと名乗り、机に駒を置いた。

「もう飽きた。シズリンデ、そろそろ変わってよ」

と後ろのエルフの少女にボヤいている。

ファーリセス・・クラックは記憶を探る。何かの研究論文で名前を見たことがある。

だが何の研究だったかは覚えていない。魔法研究所のエリートだろうか。

クラックはありったけの魔力を玉に注ぎ込む。出し惜しみしている場合ではない。虎の子の魔力ポーションを取り出して飲み干す。さすがに値段を考えて躊躇ったが、更にもう一本取り出して飲み、魔力を注ぎ続ける。

「いいね」

ファーリセスが笑う。

限界ギリギリまで魔力を玉に注ぎ込み、魔力切れ寸前のクラックは遠くなりかける意識を懸命につなぎ止めて玉を転がす。

玉は駒をあと一押し、というところまで押し込んで止まっていた。

クラックはついに魔力切れでドサリと机に崩れ落ち、その勢いで駒は倒れた。

「これも魔術? まぁ合格にしよう」

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