11話 2辛400、パリパリチキンにチーズミックス
「あの、もしかしてヤマモトさんですか?」
市場でヤマモトとファブレが買い物をしていると、突然少女から声をかけられた。
黒髪に黒目で、どことなくヤマモトに似た東洋系の顔立ちだ。
「そうだが、君は?」
「わたしリンっていいます。やった、やっと見つけた!」
少女は興奮して嬉しそうな声をあげる。
「もしかして私と同じニホンジンか・・? ひとまず家で話そう、すぐそこなんだ」
「はい」
ファブレは驚いた。まさか異世界人の二人が会うところに出くわすなんて。
家につき、二人にお茶を出す。
「ありがとうございます」
リンは少し落ち着いたのか、ファブレに礼をいいお茶を一口すする。
「あ、美味しい」
「日本茶に近いものを選んだんだ。それで、何かご用かな?」
「はい。異世界で知ってる人が少なくて心細くて、そんなときにヤマモトさんの話を聞いたから
会ってお話したいなと。突然すみません」
「いや、気持ちはよくわかる。会いに来てくれて嬉しいよ」
ヤマモトはリンに微笑む。こうしてみると頼れるお姉さん風で、後で幻滅されないかファブレはハラハラする。ファブレが心配してもしょうがないのだが。
二人はお互いの境遇や、元の世界での暮らし、この世界での驚きや不満などを取り留めなく話し続ける。すっかり意気投合したようだ。
「ところで、彼は? こちらの住人ですよね」
リンはファブレを見てヤマモトに問う。
「ああ、彼は私の従者だ。と言っても戦う力は全くない。1日3回、異世界の料理を召喚できるのだ」
「えっ? 日本の料理をですか?」
「ああ。だが彼の知識や想像を超えたものは無理だ。だから色々味や料理を覚えてもらっている」
「じゃあ、カレーはできますか?」
「一度失敗したが、この前自作でコツを掴んだと言っていたので、かなり近いものができるだろう。
どうかな?」
ヤマモトはファブレに問う。やはりウコンやターメリックなどは入手できなかったが、似たようなスパイスを炒めたときの味や香り、デミグラスソースではなくバターと小麦粉からルーを作る方法も分かっていた。
「はい。たぶん大丈夫だと思います」
「じゃあファブレ、リンちゃんにカレーを作ってあげてくれないか?」
「いいんですか! 楽しみ!」
「ええと、辛さはどうします?」
ファブレが問う。また甘口なんだろうか・・
「普通の辛さ、中辛でお願いします!」
「分かりました」
ファブレはカレーを想像する。白く炊いた米、ビーフシチューを黄色くしたようなルー。ただし味はバターと小麦粉に炒めたスパイスを足したもの。それにすりおろしたリンゴで少し甘みも足す。
「料理召喚」
そして白い皿の上にカレーが盛られ、刺激的な香りが広がる。
「うわあ、いい匂い!」
「うむ、食欲をそそる香りだな」
「もう我慢できない! いただきます」
リンはスプーンでルーとライスを掬い、口に運ぶ。
「これはカレーだわ、美味しい!」
とすぐに次のスプーンを入れるが、そこでポロポロと涙がこぼれる。
「だ、大丈夫ですか?」
ファブレが心配してコップに水を入れる。また辛すぎただろうか。
「うん、大丈夫・・家でカレーを食べてた頃を思い出しちゃって」
泣きながら、しかし笑顔で一口ずつカレーを味わうリン。
「とっても美味しかった。ありがとう、ごちそうさま!」
やがて夜も遅くなりリンは帰っていった。冒険者ギルドで手伝いをしているらしい。
「しかし異世界の人が食べたくなるものはやっぱりカレーなんですね」
「カレーの発祥は別の国だが、もはや国民食といえるメニューだ。家族団らんのイメージもある」
「僕の料理を食べて泣く人がいるなんて・・ちょっとびっくりしました」
「料理人冥利につきるという奴だな。君の料理はすばらしい。自信を持っていい」
「ありがとうございます・・」
ファブレもちょっとホロリとしてしまう。
「明日の朝は私にもカレーを作ってもらおうかな。朝カレーもよかろう」
とヤマモトがリクエストする。
「甘口ですか?」
「無論だ。リンゴとハチミツが味の決め手なのだ」




