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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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10話 すき焼き

「うっとおしい天気だな・・こんな時はすき焼きだな」

このところ雨が続き、髪がボサボサで毛先が荒れ狂っているヤマモトが呟く。

ファブレも洗濯ものが乾かずストレス気味だ。

「すき焼きですか? 何を焼くんです?」

「すき焼きは焼き物でなく鍋だ。薄切りにした牛肉がメインで、焼き豆腐、しらたき、ネギ、キノコ、白菜、春菊などと一緒に割り下・・醤油と酒とみりんを混ぜ水で薄めたもので煮る」

ヤマモトは櫛で髪を梳かし始める。

「焼き豆腐は豆腐を焼いたものですよね。しらたきとは何です?」

「しらたきは肉じゃがの時に言った糸こんにゃくと同じものだ。束ねた紐のような形でコリコリしている」

ヤマモトは髪を梳かし続けるが、すぐ毛先がぴょこんと立ってほとんど意味がない。

「やっぱりそれは想像がつきませんね・・それにみりんと言うのは?」

「糖分の多い酒だ。まぁ割り下は醤油と砂糖と酒と水であれば間違いない」

「いつもの出汁は使わないんですか?」

「鍋は具材を煮ることでそこから出汁が出るから、入れる必要はないんだ」

「なるほど」

「ちょっと想像がおいつかないところがあるので、具材は思いつく限りでいいでしょうか」

「ああ構わない。肉をたっぷり入れてくれ。それと鉄鍋に入れると雰囲気が出る。あと生卵を殻のままでいいから置いてくれ」

ヤマモトは髪を梳かすのを諦めた。

「分かりました」

ファブレは想像する。薄切りの牛肉をたっぷり。焼き豆腐・・無理。しらたき・・無理。ネギ、キノコ、白菜は大丈夫。菊なんて食べれるのだろうか・・パス。醤油と砂糖と酒は香りがあり強烈な甘辛い味になるだろう。それを水で薄める。生卵。よし。

「料理召喚」

用意した鉄鍋の中にすき焼きのようなものが現れる。上には卵が殻のまま乗っている。

「おお、いい匂いだ」

ヤマモトは卵を取り上げ、深い小皿に割って混ぜる。

「すき焼きは味が濃いから、溶き卵につけて食べることが多い」

「ずいぶん変わった食べ方ですね。僕はちょっと・・」

ファブレは生卵は苦手だった。それに召喚したもの以外では衛生面で問題があり、ファブレの周りにも生卵を食べる人はいない。

「私の国では生卵は一般的だが、やはり国外の人は苦手なようだ。では早速いただこう」

両手を合わせイタダキマスと唱えるヤマモト。

鍋から出した肉やネギを溶き卵につけて、口に入れる。

「うまい!」

「本当ですか、よかった!」

「これは完璧なすき焼きだ。焼き豆腐がないのがちょっと残念だが。君も食べてみるといい」

「はい。では・・」

ファブレも肉や白菜などを小皿に移し、息を吹きかけて冷まして食べる。

口に入れただけでとろけそうな薄切り肉や少しくたっとした白菜に、割り下がよく絡んでいる。

「うわあ、美味しい。でも確かにちょっと味が濃いですね。ご飯が食べたくなります」

たまにヤマモトのリクエストで米を炊くが、今日は用意していなかった。

「ううむ、先にご飯を作っておくべきだったな・・」

黙々とすき焼きを平らげるヤマモトとファブレ。

「残ったつゆにうどんを入れて食べる、という楽しみもある。今日は無理だが」

「それも美味しそうですね!」

食べ終わり、また両手を合わせるヤマモト。

「ふう、美味しかった。期待通りのすき焼きだったぞ」

「ありがとうございます」

ヤマモトの満ち足りた笑顔にドキリとしてしまうファブレ。

「すき焼きは和食の代表的なメニューでもある。これが完璧に作れるなら和食をだいぶ理解したといっていいだろう。今度は肉じゃがも問題なく作れそうだな」

「次は大丈夫そうな気がします」

ファブレは自信がついてきた。これからはもっとヤマモトが満足する食事を召喚できるだろう。

ヤマモトはそんなファブレを見て目を細める。

「愛い奴だ。お姉ちゃんと一緒にお風呂入るか?」

「誰がお姉ちゃんですか! 絶対に入りません!」

ファブレがヤマモトと一緒に風呂など入ったら、恥ずかしさで気絶してしまうだろう。

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