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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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1話 うどん

「うどんが食べたい」

「ウドン?」

聞いたことがない料理だ。また勇者ヤマモトの無茶振りが始まったと、ファブレはため息をつく。

ファブレは一日3回料理を召喚できるという、一風変わったスキルを持っていた。

それがヤマモトの目に留まり、強引に彼女の従者にされ連れまわされている。

今はヤマモトの野外訓練のため、二人で野宿の準備をしているところだ。

「ウドンとはどんなものです?」

「熱いスープ麺だ。麺は小麦粉を水と塩でよく練ってしばらく寝かし、うすく広げて紐状に切ったもの。

耳たぶのような強い弾力がある。

 スープはカツオ節・・カツオという魚を煮て乾燥させて薄く削ったもの、と昆布・・海藻の一種を干したもので出汁を取り、醤油や砂糖などで甘辛く味を整えたもの。具はネギと鶏の生卵、あと鶏肉で食べたい気分だな」

ファブレは頭がクラクラした。凄まじいレシピだ。

以前から何度もヤマモトの国のレシピを聞いているが、出汁を取るだけのために魚を煮て乾燥させて薄く削るなど、狂気の沙汰としか思えないような素材が多く使われている。しかも信じられないことに王侯貴族の食事でなく庶民が食べるものだという。どうしてそこまで食に情熱を注ぐのかファブレには全く理解できない。

「とりあえずやってみますが・・あまり期待しないでくださいね」

「頼むぞ」

ヤマモトはう・ど・ん、う・ど・んと呟いている。よほど食べたいのだろう。

ファブレはウドンという物を想像する。麺は白い紐状で弾力がある。醤油は今までもよく使っていたので分かる。醤油ベースということは黒めで塩分が多く、それに出汁が効いて甘みを足した熱いスープ。ネギと鶏肉は分かるが生の卵なんて食べられるのだろうか・・。

「料理召喚」

ファブレが切株の上の器に召喚術をかける。すると切株の上に魔法陣が広がり、器の上に一見うどんのような物が現れた。一つを除いては。

「なんだこれは」

ヤマモトが麺の上に殻のまま乗った生卵をつまみあげる。

「生卵なんて食べたことがないので・・すみません」

「こうやって麺の上に広げることで、見栄えがよくなる」

ヤマモトはうどんの上で卵を割る。

「なるほど」

「見た目から月見と言われることもある」

「へぇ、それは風情がありますね」

ファブレは異世界の感性に感心する。

「ではいただこう」

ヤマモトはいつもの手を合わせる動作のあと、愛用の二つの木の棒、ハシでウドンをつまみ口ですする。

「どうですか?」

「麺はもう少し太くてもいい。カツオ出汁が弱いな。私の好みではもう少し甘めでもいい。だが大体できている。これはうどんだ」

ファブレはホッとする。そして言われたことをメモしておく。

ファブレのメモ、異世界のレシピ集が公開されればこの世界の料理界に大革命を起こすだろう。素材があればの話だが。

ヤマモトは熱いスープや麺に息をかけて冷ましながら食べている。

「熱すぎましたか?」

「いや、うどんはヤケドするくらい熱くていい。それをフーフーしながら食べる。そういうものだ」

ヤマモトは二本のハシで器用にウドンを平らげていく。

「ふう、ごちそう様。満足したぞ」

ヤマモトは食事前と同じように手を合わせる動作をし、ファブレにニコリと微笑む。

(黙って笑っていれば美人なのに)

「今何か失礼な想像をしなかったか?」

「いえ、そんなことはありません」

ファブレはヤマモトがわざと少し残したものを自分でも食べて味を確かめる。

自分が作ったものながら不思議な食べ物だ。麺をすすってみると口に吸い込む感触が心地よい。

そしてヤマモトの唇に吸い込まれた麺を思い出して顔を赤らめる。

(味の確認とはいえ、女性の食べ残しを食べるなんて・・)

まだ10歳のファブレには刺激が強かった。

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