第七十五話 天才コンビネーション
レイラの瞳から光が消えた。
隣で殺気が高まるのを感じる。ようやくらしくなってきたな……。
オレは地面に置いておいた巾着バッグから一枚の札を出し、レイラに手渡す。
「札を使え。お前の名前が刻まれた札だ」
レイラはその言葉だけで全てを理解し、形成したナイフに札を結んだ。
ちなみにいざという時のためにアシュラ姉妹とソナタの名前が書きこまれた札もバッグに入っている。
「シール君、信じるよ」
「ああ、迷わず突っ込め!」
正面を向きながらオレは右拳を、レイラは左拳を出し、拳を合わせる。
レイラの左拳に字印を付いたところでレイラは走り出した。
白い影が怪人に急接近する姿を見て、オレはポケットから“月”と書き込まれた札を取り出した。
「――来い! 偃月ッ!!」
巨大なブーメランを呼び出し、両手で握る。
オレに向け、伸びる雷撃。
走りながら偃月に赤の魔力を溜める。時間が無い、ここは溜め1だ。白い蒸気が偃月から上がった瞬間に、オレは体ごと回転して偃月を投げた。
「いっけぇ!!」
横回転で飛んだ偃月は雷の網を打ち破り、怪人の胸に激突。
大したダメージは入ってないけど意識をレイラから逸らすことには成功した。偃月はオレが投げる前に浮かべたイメージ通り、まっすぐオレの方へ戻ってくる。
「流纏ッ!」
レイラは渦巻く青魔を纏い、雷撃を塵に変えながら怪人の元へ走っていく。
怪人のすぐ前でレイラは札を結んだナイフを投擲。投げられたナイフは怪人の頭の横を通り、怪人の後ろの壁に突き刺さる。
怪人は全ての腕を振り上げ、レイラを叩き潰そうと剣を振り下ろす。
レイラは肩の力を抜き、瞼を下ろした。
「封印」
服のみを残し、レイラの姿が消える。レイラは怪人の背後にあるナイフ、そのナイフに結ばれた札に封印された。先ほどレイラに渡した札にはレイラの名前が刻まれている。加えてレイラは獅鉄槍の調整で魔力を消費していたからオレより魔力が低い状態だった、条件は成立している。
怪人は六本の剣が地面に当たる前に動きを止め、消えたレイラを探し始めた。
「解封……!」
――疑似瞬間移動。
怪人の後ろの壁に突き刺されたナイフ、そのナイフに結びつけられた札から裸の少女が投げ出される。少女は右手に青の魔力を渦巻くように纏い、掌底を怪人の後頭部に繰り出す――!
「【……!?】」
「流纏掌ッ!!」
怪人の後頭部に突き刺さる青の掌底。
怪人の後頭部は抉り取られ、怪人の動きが止まる。完全にクリーンヒットしたが、終わりじゃない、後頭部は修復を始めている。
「そんな……! 今ので決められないなんて――」
「退がれレイラ!」
オレの手は真っ赤に染まっている。
レイラのおかげでゆっくりと偃月に魔力を込めることができた。
溜め3……! オレの最大火力をくらいやがれ……!
「飛べ――偃月ッ!」
掬い上げるように偃月を投げる。
縦回転で地面を削りながら怪人に向かう偃月。
偃月は怪人の大き開いた両足の間に到達すると軌道を変え、上昇をはじめる。
股下から脳天まで真っ二つコースだ!
「【――】」
地面が揺れた。
今まで、腕は大きく動かしても足元はほとんど動かさなかった怪人が、大きく後ろへバックステップを踏んだ。軽快に、軽い足取りで。
偃月は誰も居ない空間を下から上へ、裂いて行った。
絶望がオレとレイラの頭をよぎる。
レイラはかなり魔力を消費した。この機会を逃せば次はない!
つーかテメェ、いきなり変な動きするんじゃねぇ!!
「――ざっけんな!!」
両手を前に出し、オレは黄魔を全身から放出。
複数の鎖の形をした黄魔を天井すれすれまで上がった偃月に伸ばす――
「おとなしく――」
鎖を偃月に繋ぎ、上から下へ腕を振り下ろす。
「当たってろデカブツ……!!」
腕の動きに呼応し、偃月は上から下へ、通った道筋よりさらに奥で振り下ろされる。
「【――】」
その動きにも怪人は反応する。
偃月を躱そうと怪人は膝を曲げた。だが、突き出た右ひざの前には虹色の魔法陣が浮かんでいる。
「転移流纏掌ッ!!」
怪人の側から退避したレイラは目の前の魔法陣に腕を突っ込み、転移させて怪人の膝の前の魔法陣から流纏掌を繰り出した。
「良い子にしててね……」
右ひざを砕かれ、怪人の動きは完全に止まった。
――偃月が、怪人の脳天を捉えた。
偃月は怪人の脳天から股下まで一直線に降りて行く。
「【ガアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!?】」
黄魔の光が稲妻のように怪人の体を走り、怪人の体が崩壊を始めた。
緑色の光の粒が辺りにばら撒かれ、怪人の体は爆発して消え去った。
上の方でガチン、と鍵が開くような音が響いた。
「ふー、なんとかなったか」
安心し、膝が崩れた。
顔を下げ、肺に溜まった空気を一気に吐き出す。空気を吸いながら顔を上げると、せっせと着替える下着姿の少女が居た。下着まで白一色、だが淡泊な柄ではなく、フリルが付いていたりオシャレさとエロさを兼ねた柄だ。清楚さの中に一滴の濃艶さがある。筋肉が目立たないよう適度に鍛え上げられた肉体が、下着に締め付けられ輝きを発している。
眼福眼福……苦労した甲斐があったというもの。
「……っ!」
白肌の少女はすぐにオレの視線をキャッチし、下唇を噛んで照れと怒りを含んだ眼光で睨んできた。
ナイフが一本、投擲された。
ナイフはオレの頬を裂き、後ろの壁に深々と突き刺さる。
オレは無言の殺意に圧され、おとなしく目を閉じた。
「シール君……薄々感じてたけど、黄魔の量化けてるね」
目を開けるとレイラがオレに右手を差し伸べながら、どこか怯えたように聞いて来た。
オレはレイラの右手を掴み、足に力を込めて立ち上がる。
「君の方が天才じゃない?」
「今頃気づいたのか?」
軽口を叩き、レイラと再び拳を合わせる。
“雲竜万塔”、200層ボス撃破。
――試練……クリア。でいいのかな?






