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【WEB版】退屈嫌いの封印術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三章 封印術師と万物を喰らう者

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第七十二話 雲竜万塔

「ふーっ、寝起きのコーヒーは最高だね」


「そうだな」


 テントを畳み、女性陣の起動を待ちながらオレとソナタはコーヒーを口に運ぶ。なんとなくだが、これから先、この朝のコーヒータイムはルーティーンになっていくんだろうなと思った。


「会長、魔力はどれくらい回復した?」


「どれくらいって、一晩寝たから全快だよ」


「またまたぁ、昨日赤魔をゼロまで減らしたじゃないか。

 一度ゼロまで減った魔力は早々回復しないよ」


 全身から赤魔を湧き上がらせ、ソナタに全快アピールをする。


「ほら、もう赤魔は満タンだ。

 どれだけ魔力使っても一晩寝れば全部回復するだろ。今まで寝て起きて、魔力が回復しなかったことないぞ」


 ソナタは「やれやれ」と帽子を直した。


「君って本当、何者なんだい?」

「……?」

「――目が離せないね、まったく……」


 


 コーヒーカップが空になっても、未だ現れない女子二人。

 苛々が人差し指を動かす。


「女は準備がなげぇな……」


「女性の準備が長いのは僕らに魅力がある証拠だよ」


 オレ達がテントを畳んでもう30分経つぞ……。


「ふぁーあ」


 退屈過ぎて欠伸(あくび)がこぼれた。


「会長、眠そうだねー」


「快適ではあるんだが……あんまテントに慣れなくてな。

 あとソナタ(隣人)のいびきがうるさくて」

「あっはっは! 大丈夫大丈夫。

 テントもいびきもすぐ慣れるよ!」

「いびきは慣れねぇよ」

「眠そうな君にはこれをあげよう」


 ソナタは青色の果実をオレに渡して来た。

 ひんやり冷たい。形はリンゴそのものだ。


「通称めざましアップル。食べてみて」

「……。」


 オレは皮ごと果肉をかじり取る。


「んぐっ!?」


――酸っぱいっ! 


 ほのかに甘味はあるけど、頭の芯まで突き抜ける酸味だ……!


「あまりの酸っぱさに一気に目が覚める魔法のリンゴさ」


「確かにっ……! これは効くな……!」


 不味くはない。

 一応食える範囲の物。全部食べれば頭は完全に覚醒しそうだ。酸味が脳を揺らすたび、頭からモヤが去っていくのがわかる。


「ん……ぐっ! ぬおっ!」


 一心不乱にめざましアップルにかじりつく。


 オレがめざましアップルを芯までかじり終えると、ようやく女子テントの扉の布が揺れた。


「シール! 助けて!」


 寝ぐせを後頭部で爆発させたシュラがテントから飛び出て、オレの背に隠れた。

 続いてレイラが「もう!」と(くし)を片手にテントから現れた。


「朝っぱらからなんだよ一体……」

「あの女が私は『いい』って言ってるのに、私の寝ぐせを直そうとするのよ!」

「シュラちゃん……昨日の夜、オシャレに興味あるって言ってたでしょ?

 寝癖直しはオシャレの第一歩だよ!」


 第一歩どころか寝癖直してようやくスタートラインだろ……。


(くし)嫌い! 髪の毛引っ張られて痛い!」


 シュラは助けを求めるようにオレの服をぎゅっと握る。

 

「……あのなシュラ、寝癖ぐらい男のオレでも直すぞ」

「――あと十秒」

「ん?」


 ポン、とシュラの姿が消えた。

 代わりに現れた金髪女子(アシュ)は「はよ~」と右手を挙げる。


「あ! やられた!」

「逃げやがったな……」


 ひと騒動を終え、腰を上げて支度をして出発する。

 レイラの転移門収納術のおかげで鞄の中身がグッと軽くなった。昨日よりも速いペースで森を突っ切っていく。


 途中何度か魔物と会ったが、問題なく倒すことができた。

 シュラが外に出ている時はオレとシュラが前衛、レイラとソナタが後衛。オレとシュラが魔物を撹乱している内に後衛二人が魔物を仕留める。シュラがアシュに変わったらレイラが前に、アシュが後衛に行く。


 レイラの器用さは本当に助かる。どっちの陣形も安定して戦える。シュラシフトの方が長期戦向き、バランスが良い。逆にアシュシフトだと火力は高くなるが前衛の耐久は下がるので、短期決戦向き。アシュは杖の力で他人の魔術や武器に色装を使えるため、他メンバーの火力を上げてくれるのだ。


 当然と言うか、ソナタの魔術は段違い。詠唱さえ済めば一気に敵を葬ってくれる。

 いかに相手の動きを封じて時間を稼ぎ、ソナタの魔術を発動&命中させるかが作戦の肝になっていた。


 連携力を高めながら森を進んでいく。


「“雲竜万塔(ヴォルケトゥルム)”に着いたら休憩する。もう少し踏ん張れよー、お前ら」



――2時間後。



 ようやくオレ達は雲を突き抜ける塔、その前に辿り着いた。

 塔の周辺は一切の草木が無く、更地だ。更地に立ち、オレは天を見上げる。


「うぉ~! たけぇ! でけぇ! すげぇ~!!」


 なんという圧力。

 石造りで、所々苔が生えている。なんだろうな、こういう神秘的な建築物の苔って嫌な印象を持たない。むしろ塔を引き立てているアクセサリーにすら感じる。歴史の長さを、緑のネックレスで表現している。芸術だ。


 外階段は見当たらない。塔の中から登る感じだな。


「近くで見ると結構太いね……!」


「こんなのでテンション上げるなんておこちゃまね!」


「副会長の顔もにやけてるよ?」


「いやぁ~! これこれ、こういうのだよ! 

 頭の中の常識を容易に突き破る、こういう物を冒険に求めてたんだオレは!

――よし! 早速登るぞ!!」


 『お~!』と返事が返ってくると思ってたのに、返って来たのは静寂だった。


「っと、その前に休憩だな……」


 シュラ、レイラ、ソナタと別れ、一人で塔の周りを歩いて行く。

 本当に、遠くで見た時と印象が変わる。こんな太いとはな……中はマザーパンクの闘技場ぐらい広いな、これだと。


 反対側まで来ると、巨人でも通れるぐらいの巨大な門に行きついた。

 門の前には机と椅子があり、椅子には肌色多めのお姉さまが座っている。


「はいはい~! 試練に挑みたいなら私を通してね~!」


「試練? なんのことだ?」


「もしかして、この塔のことなにも知らないんですか~?」


 お姉さま、仮に受付嬢とでも呼ぼうか。

 受付嬢はこの塔について説明してくれた。


 “雲竜万塔(ヴォルケトゥルム)”。全二百層で構築される雲を突き抜ける塔。

 一層一層に召喚獣が用意されており、その召喚獣を倒して頂上を目指す。頂上に辿り着くと秘伝の錬色器をくれるらしい。挑戦料は一回一人500ouro、最大四人同時に試練に挑むことができる。


 猛者たちは錬色器を求めて、あるいは力試しに試練に挑む。――が、ここ数年で試練を突破できたのは僅か四名だそうだ。


 オレは仲間たちの元へ情報を持ち帰る。


「どうするのよシール! ただ登るだけでも怠いのに、さらには層ごとにガーディアン付きよ!」


「さすがに面倒くさいな。

 試練に挑戦するのはやめとこう」


「え!?

 じゃあアドルフォス君と会うのは諦めるのかい?」


「なに言ってんだ吟遊詩人。

 試練は受けないって言ったけど、この塔を登らないとは言ってないぞ」


 空高く伸びた塔を見上げる。

 2kmちょっとって所かな。


「シュラの赤魔とソナタの緑魔がありゃいけるな……」


「アンタ……何する気よ」


 シュラが『なんか変なこと考えてないでしょうね?』って顔で聞いて来た。

 すまん、考えている。


「なにするかって? 決まってんだろ。

――ショートカットだ」

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