第百七十五話 バルハとアルト
ぼやけた景色が見える。
どこだ? 夢の中か?
オレの瞳には本が映っている。この本は……見覚えがある。
『すまないな、アルト』
視界の端に、オレは老人を捉えた。
忘れるはずのない人物だった。バルハ=ゼッタだった。
爺さんの前には、1人の女性が立っている。魔女のようなローブを着た女性だ。
そうか、いまオレが見てるのはあの日の記憶か。
来訪者が来た日だ。
あの日は聞こえなかった爺さんと彼女の会話が聞こえる。
『アイ君、ミーに任せてよ。ここから出よう?
最後に皆に挨拶しようよ?』
アルトと言う名の女性は、涙声になっていた。
『それはできない。まだ、やるべきことがある。
アルト、いざという時は彼を助けてやってほしい。
あの子はきっと、希望となる』
『アイ君……!』
『君と会えてよかった。
君たちと出会えてよかった。
宝物のような日々をありがとう。
さようなら。アルト……』
彼女は涙を一粒落とし、去っていった。
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パチッと瞼を開く。
真っ先に目に飛び込んできたのは男の顔だった。
「よっ! おはようさん、大将」
「カーズ……目覚め一発目にお前の顔は勘弁願いたいな」
「わりぃ、そこまで気が回らなかった。
次は美女を用意しておこう」
体を起こす。
首を回す。
なんだここ、明るいな。壁沿いにランプがいっぱいある。尻の下には温かい石床。、広い空間だ。
前に見たヴァンハーツ幹部の面々が居る。着ぐるみ娘とミストも居る。
他にはマミーコンビと、カーズと、マリヨのおっさんとイージス、あとは見知らぬ2組。
合格者とヴァンハーツの幹部が集まってるようだ。
合格者は横一列に並び、ヴァンハーツは両脇に縦に並んでいる。
「どこだここ?」
「第100層にある祭殿の中だ。
今は総大将殿の準備が整うのを待ってるとこ」
オレはカーズの体を見る。
カーズの体に傷がない。オレの体も痛みがない、視線を落とすとオレの傷も治っていた。
「マリじぃが治してくれたんだ」
カーズがオレの疑問を察して答えた。
「そっか。ありがとな、マリヨのおっさん」
「いやいや、礼を言うのは私の方さ。君のおかげで――」
「おふたりさん、待ち人が来たぜ」
カーズの目線が動く。
カーズの目線の先を追う。
オレ達の正面にある羽衣のようなカーテンを手でどかし、ギルド総大将は現れた。
三角帽、マント。右手人差し指を除き、全ての指に指輪をしている。
「ひゅー、とびっきりの美人じゃねぇか」
カーズの言う通りだ。
綺麗な紅い眼と煌びやかな長髪。スタイルも抜群だ。
「三次試験、合格おめでとう。
ミーがギルド総大将のアルカナだよ」
アルカナ、確かすげぇ有名な錬金術師の名前だったよな。
オレの持つ“オシリスオーブ”や〈ユヴェイオン〉の結界はアルカナが作ったって話だ。
アルカナが拍手を始めると、ヴァンハーツの面々が続いて拍手を通過者に送った。
「さて。話の前にまずは……」
アルカナのつま先がオレの方に向けられた。
「え?」
ぼふん。と鼻から耳にかけて柔く温かい感触が当たった。
アルカナの豊満な胸がオレの顔を包み込んだのだ。
「会いたかったよシー君ッ!!!」
この場に居る全員がどよめいた。
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