第百六十八話 悪だくみ
この3日間、オレとカーズの知らない所である事件が起こっていた。
その事件の詳細を、マリヨのおっさんは語った。
ヒュメロン&バーガスというペアが居る。
大鎌を持った痩せ男がヒュメロン、長槍を持った太っちょがバーガスだ。
奴らは60層にその身を置き、志願者狩りを行っていた。
志願者を襲い、獲得アイテムを奪うような行為ならば、オレはここまで憤らない。それも王道の1つだとミストは言っていたしな。
奴らが選んだのは邪道だ。
奴らは他のペアを襲い、その内片方の身柄を拘束する。そして残ったもう片方にこう命令する。
『30ポイント分の魔物を狩ってこい。そうすれば相方を解放する』と。
奴らは3ペアに同じ行為を繰り返し、合計3人を拘束した。マリヨのおっさんの相方のイージスも拘束されたのだ。
マリヨのおっさんは単身投げ出され、今に至る。
「わからねぇな」
オレが言おうとした言葉を、カーズに先に言われた。
「マリじぃや他のペアだってすでに結構な量の魔物を狩っていたはずだ。全部合わせりゃ100ポイントに届くだろ? なんでそんな回りくどいことをして、ポイントを集めるんだ?」
同様の疑問をオレも抱いていた。
「彼らの狙いは裏ルールだ……」
「「裏ルール?」」
オレとカーズは声を重ねる。
「ヒュメロンが言っていた。この試験は100ポイントを集めて100層まで踏破するだけが合格条件ではないと。もう1つ、合格する方法がある。それは300ポイント集めること。300ポイントを試験終了までに集めれば、例え第100層に辿り着いていなくとも、合格になる。ヴァンハーツ側はその合格条件について明言はしていないものの、過去に前例が2つあるらしい」
ま、確かにこの環境で300ポイント集めるなら相当な術師に決まってるもんな。
無理に100階を目指すよりは安定か。間違いなく、階を進むごとに魔物のレベルは上がっているからな。
しかし……なんか引っかかるな。この裏ルールとやら。隠す必要性がわからん。
「奴らはいま、何ポイント持ってる?」
オレは聞く。
「すでに207ポイント……」
あと93ポイントか。
オレやカーズが奴らのターゲットにならなかったのは偶然か? いや、二次試験の決闘で、実力的に丁度いい奴らを狙ってやったんだろうな。
「私は……この試験を諦める」
涙をこぼしながら、顔を歪めて、マリヨのおっさんは頭を地面に付けた。
「だけど、イージスだけは救いたい……!
彼とは幼い頃からの付き合いなんだ……! こんな私のわがままに最後まで付き合ってくれた親友なんだ! お願いだシール君、私に、私に30ポイント分のアイテムをくれないだろうか!?
私はイージスの手を借りないと、ここらの層の魔物は倒せないんだ! お願いだ……シール君……!」
「断る」
「だな」
絶望を帯びた顔で、マリヨのおっさんは顔を上げた。
「でもいいのかよ大将、ここから10層も戻ると時間的にギリだぞ」
「道は覚えている。往復するのに時間はそうかからないさ」
「えっと……?
なんの話を?」
オレはマリヨのおっさんの手を掴み上げる。
「ヒュメロンとか言ったか? そいつをぶちのめせば、マリヨのおっさんにアイテムを渡す必要はねぇだろ?」
「ぶちのめす?
まさか、彼らと真っ向から戦う気かい!?」
「そいうことさマリじぃよ」
「いや、ダメだ! 彼らは本当に強い!
賞金首狩りをメインに活動する五つ星ギルドのギルドマスターと副ギルドマスターだ! 凄腕の魔術師だ!!」
「どうってことない。今まで戦ってきた奴らに比べれば、あんな連中相手じゃねぇぜ」
再生者や爺さんの家族、親衛隊に大隊長。
アイツらに比べりゃ安いもんだ。
「そんじゃ早速討伐しに行こうぜ大将!」
「待てよカーズ、正面から行くのは面白くない」
「ほう?」
オレは笑う。
「せっかくだ。悪だくみには悪だくみで返そう」
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