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【WEB版】退屈嫌いの封印術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第六章 封印術師と鎖紋の剣
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第百四十八話 男二人旅

 さぁ始まった男二人旅! 

 ギルドの総本山〈ユヴェイオン〉に向けて出発したオレとカーズは……、


「腹減ったなぁ……」

「それを言うな。

 余計に腹が減る」


 二人揃って腹を鳴らしていた。

 森の中をひたすら進んでいくも、食えそうな物が見当たらない。

 つーか、森がどんどん深くなってる気がするんだが、


「カーズ、方向はこっちで合ってるんだろうな?」

「いや、知らねぇよ?」

「……なぬ?」


 先導するカーズがとんでもないことを言いやがった。


「待て。一回止まろう」


「どうしたんだよ大将? 

 俺達は迷子なんだ。

 休んでる暇はないぜ」


「……オレ達は、迷子だったのか?」


「気づいてなかったのか大将!」


「気づいてなかったよ!!

 てっきりお前は道がわかってるものだと……!」


 ガサリ、と草木が揺れる。


「カーズ」


「話は後だな」


 草陰からイノシシ……頭から三本の角を生やしたイノシシが現れた。

 見てくれからして魔物だろう。


「また角持ちか」


「微かに瘴気が見えるな。ありゃ魔物だ。食えねぇ」


 カーズは槍を構える。


「いいや、食えないとは限らないぞ」


「お、一案ありって顔だな」


 オレが札を握ると、カーズが「待った」とストップをかけてきた。


「コイツは俺様に任せてくれ。

 成長したところを見せてやる」


 マザーパンクでカーズと別れてから1週間と数日ぐらいしか経ってない。

 最後に見た時は一切魔力を使えなかった。けど、カーズは今、槍に赤の魔力を纏っている。


「そうらよぉ!」


 イノシシモンスターの頭蓋を槍は一突きにする。

 カーズが槍を抜くと、イノシシモンスターは絶命し、その場に倒れた。


「フレデリカに修行をつけてもらってな。

 他の魔力はまだまだだけど、赤の魔力はそれなりに使えるようになったぜ」


 今の突き、オレでも避けれるかわからない。


 魔力量はオレより数段劣る。

 けど、カーズは元から接近戦のセンスがずば抜けていたからな……素の身体能力の高さ、鋭い槍さばき。魔力量に差はあれど、搦め手なしの近接戦ならオレといい勝負になるだろう。


 コイツ、やっぱポテンシャル高いな。

 一つ残念なのは……、


「カーズ、なんだよそのヘンテコ武器は?」


「これか? 石を木の棒にくっ付けただけだ。

 途中で槍を売っている店に出くわさなかったんでな」


 石の刃はカーズの攻撃の負荷に耐え切れず、ヒビを作っている。

 現時点で、コイツは大切な戦力だ。いざって時に力を発揮できないと困る。仕方ない、オレの錬色器をわけるか。


「じゃあこれを貸してやる。――獅鉄槍ッ!」


 札から蒼の槍を解封し、カーズに手渡す。


「緑魔を込めると伸びて、赤魔を込めると固まる槍だ」


「ほーっ! 便利だねぇ。

 前に大将が使ってたやつか。

 ん? この槍……ダースの店に飾ってあったやつじゃねぇか?」


「あれ? ダースのこと知ってるのか?」


 ダースはディストールで武器屋を開いているおっさんだ。

 オレに獅鉄槍をくれた人でもある。


「ディストールに住んでた悪ガキで、あのおっさんのこと知らねぇ奴はいないだろ。

 難攻不落のダースって有名だったじゃねぇか」


「そうそう。

 ダースのやつ、背中に目が付いてるんじゃないかってぐらい勘が鋭くてな~」


「アイツの店から物を盗めた奴は居ない。

 拳骨をくらった奴は山ほど居たけどよ。

 って、まさか大将、ダースの店からこれ盗んだのか!?」


「まさか。好意的に譲ってもらったんだよ」


「本当か? 怪しいもんだな。

 うん、すげぇ手になじむ。ありがたく借りさせてもらうぜ」


 カーズは手元で槍を遊ばせたあと、紐で槍を体に縛り付けた。


「さてと、このイノシシ的なモンスターを調理する方法はあるかなぁ……」


 魔物調理大全集を開く。

 この魔物の名前はわからないけど、調理法と一緒に魔物の容姿も載ってるからそこから見つけて――


「あった」


 〈ホーンボア〉。それがこのイノシシの名前か。


「よし、コイツを調理するぞ」

「魔物だぜ? 食えんのか?」

「多分な」

「マジかよ!

 魔物食べるなんて初めてだな~。

 そんじゃコイツの調理は大将に任せて、俺様はなにか他に食えそうなモン探してくるとしよう」


 早速本を参考に料理に取り掛かる。


『ホーンボアは瘴気の少ない魔物だ。調理はいたって簡単。

 瘴気を浄化する道具があれば122ページへ、無ければ125ページへ進め』


 浄化道具……バイコーンの角が使えるか。

 122ページに進み、調理方法を確認する。


「……解体方法はバイコーンと変わらないな」


 ルッタを使ってホーンボアを解体する。

 アドルフォスの説明によると、ホーンボアの毛皮は分厚く温かいため、防寒具として使えるらしい。


「毛皮は持っておくか」


 ホーンボアは体内に大量の尿を溜め、一度の放尿で全て噴出するそうだ。

 そのため、膀胱が大きく、耐久性も高くて水筒に向いているとのことだ。


「膀胱は洗って水筒に……」


 後はバイコーンと同じように浄化道具(バイコーンの角)で肉を洗う。

 バイコーンと違って黒ずんだ肉はなく、肉全てが赤い。

 洗う量もバイコーンほど必要じゃない。すぐに解体・浄化は終わった。

 脂身の少ない部位は薄切りにして、後で干し肉にしよう。


「大将、できたか?」


 調理開始と共に姿を消していたカーズ。

 なにをやっていたのかと、カーズの手元を見ると葉っぱをいくつか持ってきていた。


「なんだよそれ?」

「チュルクリッブ。

 絞ると甘ダレが出る葉っぱだ。肉をこれで包んで食うと滅茶苦茶美味いんだコレが!」


 カーズが葉っぱを握りしめると、葉っぱから黒い液体が垂れてきた。

 カーズから葉っぱを一枚貰い、指で絞り、指に付いたタレを舐める。コクがあり、甘いタレだ。ほのかに辛味もある。

 ちょうどいい、干し肉用の肉はこのタレで漬けよう。


「それに、こんなのもあるぜ」


 カーズはバッグから銀包みを取り出す。

 包みを開くと――そこにあったのは円形の……、


「チーズか! お前、朝食でソレ食えば良かったんじゃ……」

「俺にとっちゃチーズは調味料なんだよ。チーズさえありゃ俺はなんだって食えるぜ。

 焼いた肉とチーズをチュルクリッブで包んで食ったら完璧だろ!」

「……名案だな」


 火を焚き、肉を焼き、地に尻を付けてカーズ考案の食い方で肉を喰らう。


「これが魔物の味、うめぇな……やみつきだ」

「癖がある味だよな。味の層が深い」


 肉の熱さで溶けたチーズが舌に絡みつく。

 肉の脂、伸びたチーズ、甘ダレ。濃い味+濃い味+濃い味=最高だ。


 食べ進めながら、これからどうするかの打ち合わせをする。

 

「これからのことだけど、

 とりあえず〈ユヴェイオン〉まではパーティを組むってことでいいんだよな?」


「大将の交渉がうまくいって、ギルドが騎士団と喧嘩するってんなら、

 俺は最後まで付き合うつもりだぜ。騎士団団長、親衛隊、それにイグなっちゃん! 

 美味そうな獲物がわんさかいやがる」


 イグナシオ。

 アイツは騎士団の実態を知ってて、あっちに付いたのかな。

 もし、そうだとしたら……。


「カーズ、お前はイグナシオのことどう思う?」


「大将を裏切った件についてか?」


「ああ」


「いいんじゃねぇの。

 夢のためになりふり構わないってのは嫌いじゃない。

 俺様はアイツの選択になにも感じることはない」


「もし、イグナシオが()()()あっち側だったら、

 お前、アイツと戦えるか?」


 カーズは口元を笑わせる。


()れる」


 目元は一切、笑ってなかった。

 昔、ディストールでカーズを見た時、コイツは拳一つで荒くれ共を殲滅していた。中には殺されかけていた奴も居た。血を帯びた自分の拳を、コイツは冷たい眼で見ていた。あの時のカーズの顔は忘れられない。

 カーズは悪い奴じゃない。

 けど容赦のない奴だ。甘くはない。


 一方オレはどうだ?

 カーズに聞いておいて、オレは自分で答えを出せていなかった。


 もしも、イグナシオと戦うことになったら、

 オレは全力を出せるのだろうか。

 

 これからの戦いは間違いなく死闘になるだろう。

 一滴の甘さが命取りになる。

 自分を本気で殺しに来る相手に、人間に、

 オレは殺意で返せるだろうか。


「……。」


 疑問を解決しないまま、食事を終え、

 旅を再開させた。


「〈ユヴェイオン〉の方角がわからないと進みようがないな」

「俺様の勘に任せろって」

「羅針盤とか持ってないのか?」

「持ってるぜ」

「なら使ってくれ……」


 カーズがバッグから取り出した羅針盤を奪い、方角を確認する。


「お前、どっちから来た?」

「東だ」

「東に街はあるのか?」

「あるけど、戻るのは危険かもしれないな。

 あそこは帝下二十二都市だ」


 カーズの言いたいことはわかる。

 オレは多分、指名手配かなにかされているだろう。

 相手は騎士団団長……罪なんて適当にでっちあげて、オレを罪人に仕立て上げて、大陸総出でオレを探しているに違いない。騎士団の息が掛かった街に行くのは危険だ。


 ギルド街は騎士団の手が及ばない場所、目指すならやっぱりそこだな。


「西に向かっていくか。

 途中で槍を伸ばして、上から周囲を確認しながら進めばいずれ街に着くだろ。

 カーズ、地図は持ってるか? って持ってるわけないか。持ってたら使わないはずが――」


「持ってるぜ」


「え? マジか!」


「ほれ」


 カーズから地図を受け取る。

 地図に載っているのは知っている地形だった。

 うん、この地形、間違いない。

 ディストールから帝都までの地図だ。


「おい……これ、ディストールから帝都までしか載ってないじゃないか」

「あ、ホントだ。

 道理で迷うわけだな」


 この、アホ……。


「難しいことは全部大将に任せるぜ。

 なんせ()()だしな!」


「……わかったよ。

 お前は槍を振る事だけ考えてろ」


「応ッ!

 わかりやすくていいな!」


 今になって気づく。

 シュラ、アシュ、レイラ、ソナタ。お前らって結構頭良かったんだな。


「とにかく歩くぞ! 今日中になんらかの手がかりを掴みたい」

「あいよ!」


 地図なき冒険は続く。

第一巻発売まであと1週間!

是非とも、お買い上げの方、よろしくお願いいたします……!

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