第百四十六話 湖の古城
荒廃した城。
その正面玄関らしき場所の前で止まる。
違和感が1つあった。
影が無い。
湖は周囲の木々は映しているのに、これだけ大きな城の姿を映していなかった。
不気味だ。妙な引力を感じる。
考えてもわからない。
とりあえず中に入ってみよう。
湖から足を上げ、城の中へと足を進める。
まず目に飛び込んできたのは女神像。女神像の背後には二つの階段がある。
美しき女神像に敬礼し、後ろの階段を上がる。折り返して、また上がる。
窓の多い廊下に足を踏み入れる。
「マジでなんだここ……」
この世に自分一人しかいないと錯覚するほど――静寂。
まるで別世界だ。ここだけ、世界から遮断されているように感じる。
そこら中にある家具も、どこか『終わっている』。物に生気を感じたことはなかったけど、今ならわかる。オレが今まで触れて来た物体は息をしていた。ここにある物は死んでいる。わけのわからない感覚だ……。
この『終わった』城の中で、一か所から物体が息づく音が聞こえる。
城内部をめぐり、オレはその場所に行きついた。
ここは謁見の間だろうか。本来玉座があるべき場所に、一振りの剣が刺さっていた。
刀身は鞘に包まれている。鞘には鎖の紋章が描かれている。鞘と鍔の境界線には――『金色の錬魔石』。
まさしく伝説の剣って感じだ。少年心がメラメラと燃えている。
剣の真上の天井だけ穴があいていて、光が剣に降り注いでいる。
剣の元まで歩み寄り、観察する。
綺麗な剣だな……金色の錬魔石ってことは、対応する魔力は間違いなくあの金色の魔力だ。
欲しい。
グリップに手を伸ばす。
グリップを掴み、力を込める。
「ふんぬっ!」
抜けない。
両手で握り、背筋も使って力を込める。
――抜けない。
やっぱあれか?
選ばれし者にしか抜けないってやつか。
「ははーん、そういう態度ね。
だったら裏技使っちゃうぞオレは……」
錬魔石が嵌ってるってことは錬色器。
錬色器ってことは魔力は通ってるってことだろ?
黄魔を右拳に込め、剣を殴る。
「――烙印」
剣に字印を付けた、その瞬間、
“ついに、来たか”
と、若い男の声が頭を貫いた。
「誰だ!?」
振り返って、後ろを確認するも誰も居ない。
気のせいか? まだ絶賛貧血中だからな……ついに幻聴まで聞こえるようになったか。
アドルフォスから貰った丸薬だけじゃ失った血を全て補うことはできなかった。ここから出て、早く飯を探さないと。
「封印」
“剣”と書き込んだ札を前に、呪文を口にする。
剣はあっさりと札に吸い込まれ、鞘ごと封印された。
「封印、かんりょ――」
ガタン!!
城が大きく揺れた。
「いっ!?」
天井から屑が落ちてくる。
城が揺れ、ボロボロと城の壁が剥がれてくる――
「城が……崩れる!?」
慌てて外に足を向ける。
今のオレの状態だと城の瓦礫に埋まったら抜け出せるかわからない。
「おおおおおおおっ!!」
廊下の窓に突っ込み、湖に飛び降りる。
オレが城から消えると同時に、城は完全に崩れ、そして塵になり、光となって空に消えた。
最初からそこにはなにもなかったかのように、湖は波紋1つ、起こさなかった。
「えーっと、もしかして、
まずいことしちゃった、かな?」
タイミング的に、オレが剣を抜いたせいで城が崩れたよな……。
「……。」
まぁいいか。