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【WEB版】退屈嫌いの封印術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第五章 封印術師と帝王の洗礼
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第百三十四話 パレード後日譚 ソナタ編 その1

 

 建国パレードの次の日の昼頃。


 シールが牢屋で痛みと奮闘している頃、ソナタ=キャンベルは1人、1番街の(はず)れ、空き家の中でとある騎士を問い詰めていた。


 問い詰めていた――という言い方は誤りかもしれない。

 ソナタは同僚であるはずの騎士を拷問していた。


 両手両足を紐で縛り、手にはナイフを握っている。

 捕えられた騎士の体の節々は凍り付いている。


「――ゴルマック中隊長。今の話は本当かい?」


 ナイフを手元で遊ばせながらソナタは問う。


「……本当だ。シール=ゼッタは地下牢獄に居る。

 聞くところによると騎士団長様に手を出したって話だ」


 隻眼の太めの男、ゴルマック中隊長は口元を歪ませた。


「あのままならきっと死刑だな。 

 奴は悪魔の弟子、騎士団のほとんどが処刑に賛成する」


「……会長が騎士団長に手を出した?」


 ソナタは赤魔を込めた拳をゴルマックの顔面に叩きつけ、昏倒させた。

 空き家から出て、足早に騎士団本部へ足を向ける。


(昨日の夜、会長が騎士団本部に行ってから連絡が取れなくなったから、まさかとは思っていたけど……!)


 ソナタは1番街を走りながら違和感を覚えた。


――人がほとんどいない。


 ソナタは異常に気付き、冷や汗を垂らす。


「止まれ。ソナタ」


 家と家の間の影に、その男は立っていた。


 顔に音符の刺青を入れた男、親衛隊の1人にしてソナタと同門の魔術師――シンファ=ラドルムだ。

 シンファは影から一歩一歩、ソナタに向けて歩を刻んでいく。



「聞いてくれシンファ。酷い夢を見たんだ。

 僕の尊敬していた上官が僕の大嫌いな化物で、

 僕の大親友が僕の大嫌いな化物に……服従している夢を」


 ゴルマックの話。

 シールの行方不明、シールが騎士団長に手を出したという話。

 シールから聞いていた、銃帝と屍帝の話。

 マルコの一件。それら全ての事柄からソナタは大体の真相を掴んでいた。


「さすがだな。ゴルマックから聞き出した情報だけで辿り着いたか。

 奴には喋り過ぎたな……」


 シンファは両腕の袖をまくる。


「お前には全て話そう。

 騎士団長は……凰帝(おうてい)と言う名の再生者だ。

 俺は、奴に忠誠を誓った」


 ソナタは哀しそうに、責めるように、目を細めてシンファを見た。

 ソナタは拳を握りしめる。拳を握りしめ、自分に痛みを与えて、夢じゃないことを理解する。


「どうしてだいシンファ! 

 どうして……再生者は僕らにとって、許すことのできない存在のはずだ!」


「お前の言う通りだ、ソナタ。

 俺達の故郷は再生者に滅ぼされた。俺の家族も、お前の家族も……俺の妹であり、お前の想い人だったリディアもあの再生者――()()に殺された。

 もう、13年も前の話か……」


「その忌むべき再生者に、どうして忠誠を誓った!?」


「凰帝の目的は終楽戦争を起こし、女神に会うことだ。

 知ってるだろソナタ。女神ロンドは輪廻を司る神だ。ロンドに会い、嘆願すれば……望む時間、望む世界に転生できる。有名な話だ」


「まさか君は……」


「俺はもう嫌なんだ。父さんが居ない世界も、母さんが居ない世界も、リディアが居ない世界も……友人も、恩師も、失った。残ったのはこの体と、お前と、叶うことの無い復讐心だけだ」


「シール君は必ず屍帝を封印する。

 シンファ! 僕と君で彼を支えて復讐を果たせばいい!」


「俺はな、自分の手で屍帝を葬りたかった。それができるならまだこの世に残る価値もあった。だけど知った。俺の手では奴を殺すことも封印することも……できないと。

 こんな不条理な世界にいつまでも身を置くことはできない。

 ソナタ、お前も一緒にどうだ? 

 共に幸せな世界に行こう。リディアの居る世界に行こうじゃないか……輪廻を越えて」


 暗く、絶望に満ちた瞳。

 ソナタはシンファの瞳を見て、心底悔しそうに唇を噛みしめた。


「君は……そこまで――」


 後悔が脳を焼く。

 どうしてもっと寄り添わなかったのかと、ソナタは自分を責める。これほどまでに、シンファが追い詰められていた事実を、今になって知った自分を、深く責めた。


 噛みしめた唇からは血が滴る。


「断るよ。そんな不確かな賭けに乗る気はない。それに例え違う世界に行ったとして、リディアを守れなかった自分は残る。僕は後悔も、絶望も、抱えて生きていくと決めたんだ。

 僕は不条理なこの世界で、最後まで全力で生きるとリディアに誓ったんだ!

 あの誓いだけは嘘にしたくはない!!」


「そうか……残念だ」


 ソナタとシンファは、遊縛流魔術最適の間合いをとって、対峙する。


「ソナタ、俺がこの世に唯一残している未練はお前だけだ。

 お前さえ葬れば、俺の中の迷いはなくなる」


「シンファ……!」


「……もう決めたことだ。もう多くの犠牲を出した。止まることはできない」


 ソナタとシンファ、2人の魔術師の体から立ち昇った緑の魔力は周辺一帯を包み込んだ。


「こんな所で大規模魔術を使う気かい?」


「人払いは済ませた。

 それに、さっきの話を聞いて、俺がこの世界の人間の被害を考慮すると思うか?」


 その言葉は、もう己の知るシンファ=ラドルムは居ないと言う――証拠だった。


「大馬鹿だ。君は」


 2人は同時に唇を震わせる。


「“遊楽(ゆうらく)の風よ、雷楔(らいてい)運びて檻を成せ”――!」

「“遊楽(ゆうらく)の風よ、雷楔(らいてい)運びて檻を成せ”――!」


 2人から立ち昇った緑魔は合計16本の雷の柱となり、()に向けて発射される――


「「《雷柱折檻(らいちゅうせっかん)》ッ!!!」」


 雷の柱は衝突し、無数の雷光を散らした。

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