8 エドガー視点2
エドガー・ウィルソンは最近少ししょんぼりしていた。
「エドガーどしたの?」とクラスメイトに聞かれる程度には分かりやすい感じで。
「最近…プリシラが毎日すごい楽しそうに男の子の話をしてて…」
「シスコンだ」「ロリコンだ」「犯罪だ」
「言うんじゃなかった。クラスメイトが冷たい…。」
思わず机につっぷしてしまう。けどまあいいか。
入学したばかりの頃は、勝手に美化されたイメージが先行して、非常に面倒くさかった。
でも、なにかのタイミングで、ダンスパーティーがいかに疲れるかや、なぜ参加したくないかを力説したあげく、しんどさがキャパオーバーすると妹の膝枕でしか回復できないとか暴露したところ、一気に可哀想な目を向けられた。
「なんか、ごめんな…」とか
「変にイメージがついて大変だったんだね」とか
「でもシスコンは直せ」とか言われながら肩をぽんぽん叩かれた。
血はつながってないから大丈夫だと言おうとしたけど、ウィルソン家的タブーかもしれないのでさすがに言えなかった。
まあでも、何はともあれ…以来、学園はとても居心地がいい。
「私の弟もたぶん妹ちゃんと同じクラスだけど、すごい楽しそうにしてるよー。」
「ぼくの妹を取ったのは、お前の弟か…。」
「おい落ち着け」「どーどー。よーしよしよし。」
ゆらっと席を立つと二人がかりで腕をつかまれた。もちろん冗談だ。時々冗談を冗談と取ってくれない人がいて困る。
「…あのさ、君の弟さんはどんな感じのこと言ってるの?」
「うんとね、毎日ダンスを踊ってるんだって」
「そういえば、プリシラが最近ダンスの練習に付き合ってって言ってくる…。ぼくの妹の手を毎日握っているのはお前の弟か…」
「め!だめよ」「ステイ!ステイヒア!」
ゆら…がしっ。はい、座ります。
そんなこんなで、プリシラのクラスで今流行ってることをやっと把握した。
ぼくのせいかああ…。崩れ折れて灰になりそうだ。
ズシャボキ!パラパラパラ…
「よくよく人となり知ると面白君なのにね」
「残念イケメンよね」
「おいすごい言われようだぞ」
「うらやましいぞ」
「いや、君たちもそうとう面白いよ…」
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「…見てみたいな…」
「え?なにを?」
ガラガラガラ。学園に向かう馬車の中である。
しまった…声に出てた。内心の動揺を隠して、窓に向けていた顔をプリシラに向ける。
えっと、物じゃなくて人なんだけど。というか、見たいのはプリシラがよく話題に出す子のうちの男の子なんだけど。
プリシラは女友達すら、ぼくには頑なに会わせてくれないのだ。
もしこのまま素直に言って「お兄様キモい」とか言われたら生きていけない。
クラスメイトが以前言った「シスコン直せ」は、ぼくの言動を大変セーブしてくれる。
「ええと…プリシラのクラス…かな?毎日楽しそうだから、心配はしてないけどね?」
嘘だ。ぼくはとても心配している。
「えっと…お兄様はうちのクラスの憧れなので、みんな喜ぶと思うけど…たぶん踊らされるよ?」
「ああ、プリシラのクラス、ダンスが流行ってるんだっけ?」
「うん。ダンスが流行ってるというか、エドガーお兄様と踊るごっこが流行ってる…かな?」
「最近よく、プリシラが練習してるやつ?」
「うん!それそれ」
ぼくも練習につきあわされているけど、ダンスか?あれ。
パントマイムで踊らされ、曲の途中でくるりと懐に入ってくる。
でも手を取ろうとすると、また距離を取られて「お兄様、もう一回お願いします!」と言われるのだ。
こんなのぼくの知ってるダンスじゃない…。
ぼくと踊るごっこのはずなのに、ぼくが知らないダンスとはこれいかに。
まあ、プリシラが楽しそうだからいいけど。
「あのね、私のクラスに来るのは別にいいけど…。実は私、お兄様に一番会わせたい男の子がいるの。もしその子が今日無理だったら、別の日にしてもらいたいんだけど、いいかな?」
ぐは!1番…だと…!?…大丈夫だ、落ち着けぼく。
記憶をたどるとそんなような話を以前プリシラからされたことがある。
「確か…ぼくのファンなんだっけ?」
「うん、そうなの。ずっとお兄様に憧れてるって言ってたから。それなのにその子が都合悪い日だと可哀想でしょ?」
よかった。純粋に、ぼく自身を会わせたいだけらしい。
「もちろん、いいよ。」
「じゃあ、基本は今日の放課後として。今朝のうちに都合聞いて、もし他の日がいいってなったら、午前中の休み時間言いにいくね。」
今日の午前中プリシラは来なかったから、今日の放課後でよさそうだ。
見たいけど見たくない。そんな相反する感情が顔に出てたらしい。
今日もクラスメイトに「今日はどしたのエドガー」と聞かれ素直に言うと、いつもの面子がわらわらとついてくることになった。