7 12歳。学園に入学したよ
私12歳になったよ。
あれ以降、社交界は過保護すぎる両親が極力断っていて、行く機会はまったくなかった。
でもレイチェルとは時々遊んだの。
お兄様に恋しちゃったら困るから家には呼べないけど、レイチェルの家によく遊びにいったんだ。
「田舎で恥ずかしいんだけどね」
とレイチェルは言ったけど、緑が多くてとっても素敵なところだった。
夏も木漏れ日のおかげで涼しいみたい。
私は虫も大丈夫だし、屋外にある切り株の椅子とか、もぐりこめる木の穴とか、童話の世界みたいでとても楽しかった。
レイチェルと素敵なもの探しいっぱいしたんだ。
そんな日々を経てついに私も学園に入学する。
最初の一年間はエドガーお兄様も一緒なので、お兄様とお兄様の護衛のサイモン。そして、私の護衛として見事様々な試験をかいくぐったメアリー。この4人で通学することになるよ。
サイモンとメアリーは御者台にいるので、馬車はお兄様と2人で乗る。
お兄様が卒業したら一人ぼっちなんだな。
まあでもその頃は私も2年目の中堅。きっと大丈夫なはず。
「お兄様からみて、学園ってどんなところ?」
兄に聞くと、うーんと悩みながら答える。
「そうだな…特殊なところだよ。家や社交界とはまた違う、独特の世界、かな?」
うん、なるほど。さっぱりわからない。
「まあ、大丈夫。もし困ったことがあったら、ぼくのところにおいで」
「うん」
うなずいて、窓の外を見る。新しく見る今はまだ見慣れない景色。これから4年間、この道を通うんだ。
お友達できたらいいな。
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「君がプリシラ・ウィルソン?」
「うん、そうだけど…」
教室に入って開口一番に名前を呼ばれた。知らない男の子だ。
「あの、どちらさまですか?」
「ああ、失礼した。エリックだ。エリック・バリー・エドマンド。…これからクラスメイトとして、仲良くしてほしい。」
突然だったけど、嫌な感じがしないのは、まっすぐそうな人だからかな。裏のない笑顔。
エリック、エリック…。襟巻きとかげがよろけながら「くっころ!」と言う場面を想像する。うん、覚えられそう。
「うん、よろしくね、エリック」
そういうと、エリックはとても嬉しそうに笑った。つられてこっちも笑顔になる。
「ねえなんで私のこと知ってるの?」
「ああ、君のお兄さんにすごい憧れてて、それからエドガーの妹さんが同い年だと知ったんだ。」
「あ、なんだ、お兄様のファンなんだね…」
なんだ、そっか。しょんぼりしてきた。
「プリシラ?」
「お兄様に紹介してほしくて、私に近づいたの?でも、私、お兄様には会わせないよ。そういうことは絶対にしないって決めてるの。」
そう言うとエリックが固まる。
そして何か言おうとしたけど、その前にチャイムがなったから、つーんと無視して前を向いた。
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「プリシラ様、お昼一緒に食べませんか?」
「プリシラ様、次の授業隣に座っていいですか?」
代わるがわるやってくるクラスメイトに、曖昧に微笑んで、流されて、HPが削られて内心ぐったりする。
なんで私の名前を知ってる人が多いんだろう。
私はこの子達のことをしらないのに。
彼女達の話はお兄様の話題も多くて、悪気もなさそうで、なんかもう、有名人の妹だし仕方ないのかなあと思ってきた。
なんか、今朝は怒ってごめんねエリックって感じ。
エリックのほうを見ると、ばちっと目があって、でもすぐそらされて、余計にしょんぼりしてしまった。
でも、学校が終わって帰ろうとしたら、エリックが
「またな、プリシラ」と言ってくれたから、びっくりして私もつい大声になって「またね、エリック!」と返事した。
私嫌な子だったのに、大声でさ、勇気出してさ。言ってくれたの。またな、プリシラって。もう仲良くできないかもと思ってたけど、またな、プリシラって。思い出すと口がにやけてしまう。
明日は、私から挨拶したいな。
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結論から言うと大丈夫だった!
次の日は即行エリックに挨拶をして、昨日はごめんね、と謝った。
そしたらエリックも、こちらこそ無神経でごめんと謝ってくれて、お兄様と関係なく仲良くしてほしいと言ってくれた。
いつかダンスパーティーで、男女全員からダンスを希望されるような、魅力的な人になりたいんだって。
全員はさすがにしんどいよと笑っちゃったけど、次回からダンスパーティーで見かけたら、エリックの行列に並ぶ約束をした。
あと「独特のステップってなに?」と言ったら、周りの子達がやり方を教えてくれたから、休み時間にエリックに行列を作ってクラスみんなで踊る練習をしたよ。
そして、他にも行列に並ばれてみたいっていう男の子がたくさんいたから、休み時間の度に並ぶ人を替えて「きゃー、○○様~」とか小芝居を混ぜつつ並んで踊った。もちろん、残りの男子も全員並んで小芝居をするよ。
これすごい楽しい。切り替わりがすぱっとできる子がいると、おお!っと歓声があがって、ものすごく盛り上がるし。
社交界デビューの時もそんな感じだったんだって。こんなに楽しいのなら、中庭にいつまでも隠れてないで、ちょっとくらいダンスに参加したらよかったなあ。
家に帰ったら、お兄様にも練習につきあってもらおう。




