6 社交界デビューの夜
社交界デビューはつつがなく終わり、にこにこと馬車に乗る。
両親に「お友達ができたよ」というと、とても喜んでくれた。
ついでにダンスパーティーも上手く回避できたことに心でがっつぽーずをする。
なんやかんやで中庭でずっとお話してたから。
水色のドレスを着てる子はたくさんいたから、全然目立たなかった。
家に帰ると、お兄様におかえりの抱っこをされて
「社交界は大丈夫だった?」
と深刻な顔で質問された。
「全然平気だったよ。お友達もできたし楽しかった」
「ダンスの時はどうだった?」
「…あのね、こっそり中庭に隠れてたの。お友達と。」
ひそひそと話してにこっと笑う。
あれ?なんで微妙な顔をしているんだろう。
「プリシラ…。これからは極力人目のあるところにいてね。女の子だけで暗がりにいたら危険なこともあるかもしれないから。」
あ、なるほど。確かに変質者とかいたら大変だったかも…。
「うん。わかった…」
しゅんとして言うと、いいこだねと、頭をなでなでされた。
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「プリシラ・ウィルソンはどこにいたんだ…?」
場所は変わって、お城の中。
第一王子のエリック・バリー・エドマンド10歳は、そのまだ短い人生の中で、初めて上手くいかないことに遭遇した。
「会場には来てたみたいですがねえ…」
目をしょぼしょぼさせたじいやが言う。
御年80歳。耳も少し遠い。全力で優しくしたい側近だ。
「ですが王子。社交界デビュー時の、王子へ続くダンスの行列はさすがでございました。」
きりっとした側近が言う。真面目眼鏡と呼んでいる。
「ああ、そうだろう!特訓してよかった!」
エリック王子は、プリシラの兄エドガーにとても憧れていた。
エドガーの社交界デビューは伝説だ。
参加した全女性がダンス相手になりたがり、あわやパーティーが中止になるかという大惨事になったらしい。
それだけでも前代未聞というのに、大人達もどうしたらいいかわからない中、余裕の微笑みと機転で、希望者全員と踊るという偉業をなしとげた。エドガー10歳の時である。
あれから3年。今では、曲の途中でも鮮やかに入れ替わり踊れる独特のステップが、貴族のたしなみとして定着している。
そして巷の男子の言いたいセリフは
「ぼくと踊りたい人は壁際に並んでね」だ。
社交界デビューで言えてとても嬉しかった。
「でも俺はまだまだだ。エドガーには男子も並んだらしいけど、俺には女子すら全員ではなかった。プリシラはいなかったはずだから…」
見目よし、生まれよし、だがまだ足りない。
きっと心や魂といった内面が大事なんだ。
憧れが目標になり、エリック王子にとってとてもいい影響を与えている。
「プリシラに会ってみたいな。学園に行ったら会えるかな…」
「そうですね。少なくとも王子が12歳の時、エドガー様は15歳。まだギリ在学中です。もしかしたらエドガー様にも会えるかもしれませんよ?」
「え、あ、あの…エドガーに…!?」
全然気づかなかった…。社交界デビューに夢中すぎて。
そして憧れの社交界デビューを終えて若干燃え尽き症候群になりかけてたところだった。新たな目標に心が燃える。
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「う…!」
「ん?どうしたの、お兄様?」
「いや、なんか悪寒がして…」
「風邪?気をつけてね?」
「うん…そうだね…」
そしてエドガーにとっては新しい心労となるかも?しれない。