5 レイチェル視点
なるべく人のいないところへ、目立たないところへ。
そうして中庭に出て、会場の光の影になるような位置のベンチを見つけたから、座ってぼーっとしていたら、声をかけられた。
「レイチェル様」
「あ…プリシラ様…」
金色のゆるふわウェーブ。とっても可愛らしい女の子。
雰囲気がとても温かかったから、今日一番の勇気を出して声をかけた子。
「おいしそうなケーキがあったの。あと綺麗な飲み物も。レイチェル様はどちらがいいですか?」
「…なんで、ここに来たんですか?」
さっき、苦手な子達がプリシラ様に挨拶してた。
私の悪口とか聞かなかったのかな。
「んー、一緒にケーキ食べようと思って」
のほほんとした声で言う。
顔をそっと見ると、小首をかしげてにこっと笑った。どっちでも好きなの選んでいいよ、って。
戸惑いながら赤い炭酸ジュースとフルーツケーキを受け取った。
甘くてしゅわしゅわした。
「音楽流れてるね。あ、お兄様が大変だったって言うのはね、なんかダンスの行列ができたらしいよ。社交界デビューの時。男の子も並んでたんだって」
プリシラ様を見たら、すごいよね、と言って笑っていた。
「うん、すごいね」と返す。
「でしょ?それでね、今も時々パーティーに参加するんだけど、お兄様が出る時は、一小節ごとに相手を変えるの。変わりかたがみんなもはやプロで、曲の節目にドレスが変わるように見えるんだって」
「へー…」
嘘みたいな話だ。
「…だから、さっきの子達もね、たぶん目当てはお兄様なんじゃないかな?でも絶対に会わさないの。そしたらさ、お兄様目当てな人が近づかなくなると思うんだ。私は私を見てくれる人とお友達になりたいから…」
「うん…」
「そして、私もね、そういう選び方ができる人になりたい。…ねえ、レイチェルは、何もない私の、初めてのお友達になってくれる?」
「うん…いいよ。」
うなずくと、涙がこぼれた。慌てて手で涙をぬぐうと、プリシラも泣いていた。
「なんでプリシラも泣くの?」
「わかんない。レイチェルはなんで泣くの?」
「…わかんない。」
2人ともわからないんじゃんと言って、笑った。