4 社交界デビューとはじめてのお友達
どきどきの社交界デビューがやってきた。
ドレスは水色に白のレースのAライン。
「ああ、シンプルなのにこんなに可愛くてどうしましょう。あと、どこを削ったらよいかしら…」
「とりあえずネックレスは止めておこう」
「髪の毛のアップ位置も下げませんか?このままでは目立ってしまいます。」
「そうだな。やってみてくれ。ぐはっ…可愛い…っ」
家族と侍女達総出で、作戦を練ってくれる。
「もうこれでいいよ、大丈夫だよ」
私はパーティー前なのにすっかり疲れてしまった。
お兄様の社交界デビューが大変すぎたから、みんなものすごい過保護だけれど、私はいうほど大したことがないと思う。
女の子の場合はお化粧するし。
両親もようやく妥協したようだ。
「そうね、そろそろ行かないと遅刻するし、これで行きましょうか」
「そうだな。もし騒動が起きたらすぐに帰ろう」
お兄様はお留守番。お父様とお母様に連れられていきます。ぶるぶる。
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あんまり外出したことがなかったから、大きいシャンデリアや真っ赤なカーペット、きらきらと美しく着飾った人たちは、すごくすごく刺激的だった。
「わあー、すごい!綺麗、見てみて、お父様お母様」
わくわくにこにこ。お友達できるかな?
「続いておなりになりますのは、ウィルソン家のご令嬢、プリシラ様です。」
会場に入る時に、司会者がアナウンスするらしい。
ふーんと聞いてたら、ざわっと会場が揺れた。
「ウィルソン家のご令嬢」「エドガー様の妹君」「おおなんと愛らしい」「あれが」
色んな人が色んなことを言うので多くが聞き取れない。ざわざわざわざわ。
怖くなってお父様の裾をつかむけれど
「行きなさい。私達は2階で見ているからね。」
と小声で送りだされた。
保護者はここで別れて2階フロアに行くのだ。
後ろがつかえてるので勇気を出して一人で歩き出す。
仕方ない。これがデビューだ。
にこっと笑って、自分にできる最大の優雅さでお辞儀をした。
かくして私は拍手を以て迎えられた。
その後もしばらくは子息子女の入場が続いて、入場の度に一生懸命拍手をする。
いっぱいいるなあ。名前覚えられない。
まあでもいっか。いずれにしても、私の前に入場した人のことは、名前がわからないわけだし。
仲良くなってから一人一人に自己紹介したらいいよね。
「プリシラ様、飲み物どっちがいいですか?」
声をかけてくれる子が現れた。親切な子だあ。
ありがたくオレンジジュースっぽいほうを受け取った。
「ありがとう。あの、お名前教えてもらえませんか。」
「どういたしまして。レイチェルと言います。」
「レイチェル様…」
黒髪ロングの女の子だ。前世のテレビアニメの某美少女戦士のレイちゃんが、さくらんぼもってるイメージで覚えよう。
「…うん、覚えた。よろしくね、レイチェル様」
「こちらこそ。ねえねえ、なんでプリシラ様の入場の時ざわついたの?有名なの?」
とても不思議そうに聞いてくる。
「あ、それで気になって声かけてくれたんだね。んー、たぶんお兄様のせいかな?私はなんでもないよ。」
「ふうん、大変だね」
「お兄様はね」
ふふふと笑う。なんだ、社交界デビューって楽しいな。
最近した失敗の話とか今朝からのどたばたを話して笑ってると、レイチェルが顔色を変えて口をむすんだ。
「レイチェル様、どうしたの?」
「あの、私また後できますね」
そう言ってそそくさとどこかに行こうとするので、周りを見ると3人の令嬢が近づいてきた。
「プリシラ様、私達も仲間に入れてくださいませんか?」
3人のうち1人が前に出てにこっと微笑んできた。
ブリなんとかさんと、エリなんとかさんと、マリなんとかさんというらしい。名前覚えられない。
「あらさっきまで2人だったかと思いましたがお一人でしたのね」
「先ほど見えたのは影じゃないかしら」
「もしくはカラスじゃないかしら」
「あら、カラスなんて場違いなもの、こんなところにいませんわ」
くすくすと笑い始める。
心がざわざわして小さく震える。
こんな人達を見たことがあった。たぶん前世で。
前世の私はこんな風に笑われてて、何も言い返せなくて、うつむいて…ただただ嫌なことが通り過ぎるのを待っていた。
でも。
私は変わったんだ。前世の私が憧れた理想の私に。
だから、心も変わりたい。手のひらをぎゅっと握りしめた。
「なにが楽しいの?」
「え?」
どうやら聞こえなかったようだ。
うう。がんばって言ったのに。
聞き返されたから、さっきよりももっと大きな声で言う。
「私の友達を馬鹿にして、なにが楽しいの?」
淡々とした疑問を投げかけると、おどおどし始めた。
後ろの2人は視線をそらすので、先頭のブリなんとかさんを見つめる。
「あの、あの子と友達になるのは、止めたほうがいいですよ。」
「どうして?」
「みんな、仲良くしないほうがいいと言うわ」
「みんなってどなた?教えてくれたら一人ひとりに確認するわ。あなたから聞いたけど本当にそう言ったんですか?って」
「……」
「私の友達を侮辱しないで。」
にらむとうつむいて、ブリなんとかさんも何も言わなくなった。
会場にダンスが始まるアナウンスが流れる。
レイチェルを探しに行こう。
小さなケーキ2つとフォークと綺麗な色の飲み物を2つとった。
バランスが難しくてしばらくもたもたして、やっといい持ち方を見つけて会場を出た。
私の勘が、中庭だって言ってる。
これからダンスが始まるんだもの。このタイミングで一人になりたいなら、私だったらそうする。
ほらいた。花壇の影に隠れてた。