39 ◆エドガールート【完結】普通のパーティー 前編
「プリシラごめん遅くなった」
そう言って仕事から帰ったエドガーが駆け寄ってくる。
「ううん、お疲れ様。おかえりなさい」
「ただいま。今日もすごく綺麗だね。すぐ準備してくるから待ってて」
「ふふ、うん、待ってる」
私の返事を聞くと私の額にキスをして笑い、すぐに歓談部屋を出ていく。ふわっといい匂いがする。
エドガーはね、汗かくと香りが強くなるタイプの香水をつけてるんだって。
「汗っかきだから、せめてものマナーとしてさ」
と、エドガーは自分の欠点みたいに言うけれど、私はこの匂いが好き。とてもいい匂いだし、この匂いの秘密を知ってからは、今エドガーは頑張ってるんだな、ってすぐわかるの。
相変わらず忙しいエドガーと、平日のこんな時間から一緒に過ごせるなんて嬉しいな。
私はもうね準備完了してる。マリーのセンス私大好き。今回もすごく素敵な感じにしてもらったよ。
お父様とお母様も今日のパーティーには参加していて、先に会場に向かってる。
週末なのに、なんかすごい規模のパーティーみたいなんだ。学園でね、今日のパーティーの話したらみんなも来るって言ってたよ。
普段と違うみんなに会えるのも楽しみだなあ。
そういえばね、私達の護衛をしてる、サイモンとメアリー…なんとあれから結婚したの!でもね、子どもが生まれるまでは働きたいって言ってくれてるから、今夜も2人で護衛と御者をしてくれるよ。
童話の国以降も、Wデート風にして色々遊びにいったんだ私達。これからは本当のWデートになるね。
あ、エドガーが来た。パーティーモードのエドガーはいつもより更に華やかになる。カフスを止めながら部屋に入ってきたエドガーが私の視線に気づいて笑う。
「プリシラおまたせ。じゃあ行こうか?」
****
パーティー会場はね、今まで出会った人全員いるんじゃないかってくらい知り合いばかりだった。
それに、エドガーの社交界の繋がりの人とかも大勢いるから、私達は挨拶や会話で忙しい。
にこやかにゆったりと色んな人達と会話して、話疲れた時に飲む炭酸ジュースっておいしいね。冷たくてしゅわしゅわする。
そういえばさ、前エドガーにあげた馬車の中の快適セット。あれ全部の販売権を売ってほしいって人がいたよ。金額を提示されて、エドガーが「どうする?」って私の考えを聞いてくる。うーん。
「権利を売るんじゃなくて、売上の数パーセントを毎月もらう、みたいなのってできないのかな?著作権みたいに」
「著作権?」
あ、この世界にないのかな。相手がぽかーんとしてる。でも、エドガーが間に入ってくれた。
「つまり…権利の譲渡じゃなくて、使用料をもらうってこと?」
「うん」
「どういうことですか?」
「実際の販売量に応じて流動的に対価をいただきたい、ということですね。販売した場合は売上の、そうだな…5%を毎月もらいたい」
「いや…それは…そんな契約はしたことがないし」
渋る相手。初めてのことで想像外のデメリットを警戒してるようだ。そんな相手をエドガーが説得する。
「この契約方法はあなたにもメリットがありますよ」
「ほう。どのようなメリットでしょう」
「プリシラの作ったものは、独創的で…一般大衆に受けるかどうかは未知数です。販売権の譲渡だと、契約金の回収ができるかどうかはギャンブルになりますが、この方法なら。売れても売れなくても売上のわずか5%…売れなかった時に負債になりません」
「なるほど…」
そして契約をしていた。「後日契約書をお持ちします」と爽やかに微笑むエドガーは商売人の顔をしている。あれ?王宮官僚してるよね…。
「王宮官僚ってお給料少ないの?」
「ん?…あ、いや、違う違う。ダンスしなくなって暇だから、最近交渉にはまってるんだ。…流動的な対価はいいね。面白い」
ええ、交渉がお遊び…。
すごいなぁ、私はよくわからない。
「プリシラが作ったやつだから、使用料はプリシラの口座に入れてもらうね。好きに使って。」
「わーい、エドガーありがとう大好き!」
「ぼくもプリシラのそういう世俗的なところ、可愛くて好きだよ」
恋とは盲目である。




