32 ◆エドガールート エドガー引退
朝、教室に入ったらざわっと一斉にみんながこっち見た。
「おはよー。ん?みんなどうしたの?」
「おはよう、プリシラ…これ知らない?」
そう言ってエリックが1枚の号外を私に手渡す。
『号外 エドガー引退
社交界の常識を変えた、エドガー・ウィルソン。
その鮮烈な社交界デビューから早5年。
彼の「希望者全員と踊る」というダンススタイルは、貴族社会に新しいステップを浸透させ、彼のダンスパートナー数は歴史的記録を更新し続けていた。しかし、エドガーは昨日、そのダンススタイルからの引退を正式に発表した。
引退は今年度の学園を卒業するタイミングに合わせるとのこと。
それまでは可能な限りパーティーに参加し、これまで彼に思いを傾けた人達と1人1人に向き合い理解を求めたいと言う。
心を向けている方々は悔いのないように是非パーティーに参加して最後のダンスをしてほしい。』
「なにこれ?」
エドガーなにしてるの?
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「ええー、プリシラ知らないんだね。じゃあガセかな」
「いやでもこれ、大手の新聞社だぞ」
「うう、私今日早退する…」
「飲もう!やけジュースしよ!」
「えーん、するう!」
「エドガー先輩…かっこいいぜ…」
「なんかこれ、エドガーお兄様のクラスすごいことになってそうだねえ…」
「そうだなあ…プリシラにくる質問の10倍はきてるだろうな…」
今日はそれで私、色んな人から質問責めにあったけど「全然わからないからエドガーお兄様に聞いて?」って返して過ごした。
でもそういえば一昨日あたりにお父様とエドガーで何かお話してた気がする。
ついでにそういえば、昨日記者っぽい人達がインタビューに来てた気がする。
授業中に先生からも聞かれるし、なんかどよめきがすごかった。
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そして帰りの馬車の前にも多くの生徒がいて、エドガーの周りをエドガーのクラスメイト達がボディーガードのように囲いながら「通して通してー」「号外以外の情報はないぞー」って言いながら馬車まで送ってくれる。
私、先に乗っててよかったー。
「やあプリシラ、元気だった…?」
「うん、私は全部エドガーに丸投げしてたから…なにしてるの?」
「いや…なんかまあ、記事通りなんだけど…新聞の小さい枠にひっそりと出してもらうつもりが意外とでかくて…今日は非常に面倒臭かった…」
「ふうん、なんか急だね?どうして引退するの?」
「うーん…いつまでも続けてられないし、いいタイミングかなと思って。あ、でもしばらくパーティー続きだから…当分遊びに行けない、と思う。」
「それは…いいけど。でも、無理しないでね?」
「うん」
そうして本当に、エドガーは忙しくなっちゃった。
学園がある日も週末はパーティーに行って、休みの日もパーティーに行って、それ以外の日も誰かと会ったりしてる。
馬車の中ではいつも寝ているし、家の中でも滅多に会えない。
卒業までこんな感じなのかな?なんかすごい寂しい。
でもなにやら頑張ってるみたいだから、せめて馬車は快適に安らげるようにしようと思って。馬車の中、うたた寝するには首とか痛くなってしんどいと思うんだよね。
だから首枕(煎り小豆入り)とかアイマスクとか作ってみたよ。
エドガーに渡したら「なにこれ?」ってなってたけど気に入ってくれたみたい。首枕は出掛ける前に暖めておくの。そうすると肩と首がぬくぬくなんだよ?今は毎日装着して寝てる。
あとは靴脱げるように足を置く台(折り畳み式)でしょ?あとクッションに、膝掛けに、ポプリに、あと何があるかな?
前世知識とか日曜大工得意な人とか本当あらゆるものを使って、日々少しずつ増やしていって、超快適空間にしたんだ。
もっと早くこうしてたらよかった。
私も、馬車用にサイズを研究改良した抱き枕v3を抱きしめて、超快適に寝てしまう。ぐう。




