30 ◆エドガールート 激流川下り
「じゃあどこから行く?」
「私これがいい!」
「激…ええと、お花畑?可愛いね」
「ううん、その隣の激流川下り」
「ああ…そっちか…あ、でもさ、せっかくの可愛い格好が濡れてしまうかもしれないよ?」
「大丈夫だよ、カッパを貸してくれるってレイチェルが言ってた」
「おのれレイチェル余計なことを…」
「ん?エドガー…もしかして嫌だった?でも私、童話の国の中でこれが一番乗りたいな…。1人で乗って来てもいい?」
「…いや、一緒に行くよ。絶対一緒にいる」
「あはは、なにそれ?」
そんな話をしながら私が一番乗りたかったやつのところに行って、浮き袋とカッパを身につける。
ちょうど4人乗れるやつだった。あとは操縦士の人。
持ち手をしっかり握りしめてゆっくり動く舟にドキドキする。ふと隣を見るとエドガーは無表情だ。そして傾斜が見える。来る…来る来る来る…。舟が、傾いた!
「きゃああああああーーー!!」
「うわああああーーー!!」
****
「ごめんプリシラ…ちょっと、寝てていい?」
「うん、いいよ。ごめん、エドガーに無理させちゃったね…。我慢しなくていいよって、もっとちゃんと言ったらよかったね」
近場に湧水があったからハンカチを濡らしてエドガーに渡すと、ありがとうと受け取って額と目元に当ててた。すっかりグロッキーだ。
「いや、ぼくのせいだから…来て早々本当ごめん、あとでいっぱい回ろう?あ、それかここにいるからメアリー達と遊んできていいよ」
「ええーやだよ。今日はエドガーとのデートだもん。絶対一緒にいる。それに私ベンチでまったりも好きだよ。あ、膝枕しようよ、ね?」
護衛が2人ともいなくなるわけにはいかないから、メアリーには残ってもらって、サイモンにみんなの飲み物を買ってきてもらうようお願いする。
なぜかメアリーは「では私はあちらにいますね」と少し距離のあるベンチに行った。近場にもベンチあるのに。まあでも好きに過ごしてほしいから「うん、わかった」って応えた。
私はベンチの端に座って膝にエドガーの頭を乗せた。そしてゆるふわな髪をなでなでする。よしよし、がんばったね、よしよし。
「ああ、癒される…なんかすごい元気になる…」
「エドガーいつもそれ言うね。あ、サイモンありがと」
「いえ、では俺達はあちらのベンチにいますね」
「うん」
「サイモン達もごめんね…ぼくのせいで暇させてしまって」
「いえ、メアリーさんは暇かもですが…俺としては嬉しいです」
「はは、そっか。じゃあよかった」
そんな会話をしてサイモンが離れたベンチに座るメアリーに向かう。
「エドガー、水あるよ?飲む?」
「うーん、今は膝枕から離れたくない。20分くらいしたら起こしてもらっていい?」
「うん、わかった。おやすみ、エドガー」
「おやすみ、プリシラ」
エドガーって結構寝るの早いんだよね。20分って短いなと思うけど、その間で寝れて元気になれるならよかった。私は飲み物を飲んだりしながら、エドガーの頭をなでたり、肩をとんとんしたり、お腹をなでたりする。
…もう寝たかな?今はまだ内緒の話、しちゃおうかな?
いつかエドガーに言う予行練習。エドガーの髪をなでながらそっと話す。
「…私ね、落ち込んだ時とか寂しい時は、エドガーに触ってほしくなるの。元気になるから。そしてね、エドガーがしんどそうな時も触れたくなるの…私みたいに元気になったらいいなって思うから」
「でもね、この前エドガーとダンスした時はね、もうエドガーとのダンスは止めようって思ったんだ。私ね、時々そういうのあるの、エドガーにこれはもう止めておこうって思うこと…今までもいくつかあったの…最近なんでかわかったよ」
「お兄様だったから、私ガードしてたみたい。好きになったらいけないと思って、そういう危険があることはしないようにしてたみたい。…つまりね、何が言いたいかと言うと…私は、エドガーが好き。好きだよ、エドガー。だから、これからは、嬉しい時も楽しい時も、たくさん触れるね?…いいよね?」
そしたら、エドガーのお腹に置いてた私の手の上に、エドガーの手が重なった。
そしてもう片方のエドガーの手が額のハンカチを取る。目が合う。
え、いつから聞いていたの?
私、絶対今顔が赤い。




