27 ◇エリックルート ジュリー
「なにそれ…?」
「…俺とジュリーは昔、お互いのつかの間の自由の為に、ある協力関係を結んだんだ。でもそこには決して恋愛感情はない。誓えるよ…ジュリーとは何もないし、俺が好きなのはプリシラなんだ…」
「でも、だって…」
「だから、ジュリーと話をしてほしい。本当は俺がもっと早くに伝えるべきだったけど…今は俺よりジュリーから聞いたほうが、プリシラも安心すると思うんだ…」
「…わかった」
話をすることを受け入れて、エリックの拘束から外れた私は、エリックから差し出された手には触れずに拒絶の意志を示す。そして前を歩くエリックについて行った。
小規模だけど外壁一面がガラス張りで、光をキラキラと反射する綺麗な木々が見渡せる部屋に通される。
その中には1人だけで座っている令嬢がいる。明るい雰囲気の可愛らしい人だ。
「あ、きたきた、もー待ちくたびれたよー!王様に急に呼ばれるしさあ。…ってあれ?なんか…どうしたの?」
私達と対称的にとても明るい声で話しかけた彼女は、私とエリックの様子に首をかしげた。
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「うんそう私達はね、婚約者ができるまで、朝から晩まで毎日毎日お見合いし続けないといけなかったの!でもさあそんなのつらいじゃん!?もうね私やだったんだよー!
それをエリックに言ったらエリックも同じだったから、一旦婚約者になっておいて、好きな人ができて両思いになったら、婚約解消をしようって約束してたんだよ」
「ええー…まあでも確かにずっとお見合いが続くのは嫌だね」
「うん、もう全然遊べないしさあ、顔ひきつるしつまんないし本当に嫌だった!でも仮婚約者になってからは、私もエリックも自由になったんだよ?それにね、私達はいつか別の人と恋をするんだって決めてて、好きな人ができたら必ず応援するって約束してたの。」
「だからさ、私とエリックは公式のダンスパーティー以外では、お互い指1本触れたことないんだよ?それはね、いつか出会う好きな人を悲しませない為に決めたルールの1つなんだ。」
「エリックはちゃんとプリシラが好きだよ。エリックが初めて恋をして、私に相談した初めての子がプリシラなんだよ。」
「…うん、ありがとうジュリー。よくわかったよ」
話してみてわかったのは、ジュリーがとてもいい子だってことだった。マシンガントークで圧倒されるけど、私が気になることを全部先に先に言ってくれるんだ。
安心して大丈夫だよって、そんな心が聞こえるくらい、一生懸命話してくれる。私、すっかり毒気が抜けてしまって、立場の高い人は大変なんだねえって普通にお話をしている。
「私ね、ジュリーと話せてよかった。本当にありがとう」
「どういたしまして!じゃ、エリックには罰としてまだまだ給仕してもらお!
エリック私、ダージリンねー。あとお腹空いたから違うやつも色々持ってきて。プリシラはどうする?」
「じゃあ私次はアッサムがいいな。私もお腹空いたから色々よろしくね」
「いいよ。仰せのままに」
3人で話せるように人払いされてるこの部屋には、色々な料理がバイキング形式で食べられるようになっている。冷たい飲み物は大きな容器に入っていて氷水に浸されているけど、温かい飲み物は茶葉から自分でやらないといけないっぽい。せっかくだから手間がかかるほうにする。
まあ、ジュリーに話してもらってる序盤の頃から、エリックはひたすら自らの意志で給仕に徹してて、私が何か取りに行こうとしたら「取ってくるから座ってて」って言って、私達が話に集中できるようにしてくれてる。
そして何気に手際がいい。今も2人分の茶葉を蒸らしてる間に、料理を小皿に取り分けていたりする。本当に王子様なのかな?
私はそんな様子に少しずつ溜飲を下げながら、ジュリーと楽しく会話をしたんだ。
それでね、エリックが紅茶と一緒にサンドイッチとか持ってきてくれた時に「エリック口開けて?」って言って、サンドイッチを食べさせた。
「エリックまだ何も食べてないでしょ?もういいよ、一緒に食べよ」
そうして笑いかけたら、サンドイッチかじったまま、私の首に抱きついて肩に顔を埋めてくるから「もう大丈夫だよ。不安にさせて、ごめんね」って言って、エリックが離れるまでずっと、エリックの頭を抱きしめて、頭をなでなでしたんだ。
その時の、肩に頭を埋めてくるエリックは、なんだかとても可愛くて、愛しかった。
だからその後は、それぞれで好きなものを取り分けて、3人で仲良くお昼を食べたんだ。
そして食べた後は、ジュリーも誘って天文台に登った。景色がすごく綺麗で、とても楽しかったよ。




