2 エドガー視点1
「甘えていいよ。いつでも言ってね。」
寝てると思ったんだろう。とても優しい声が聞こえる。
それまで人前で寝るのは怖かった。
この家の子供じゃないこととか、可愛いげがないといった陰口とか、知りたくないことを知るのは大体そんな時だったから。
でもプリシラの言葉はとても温かい。
体温も、とんとんと背中に触れる小さな手も。
プリシラは家中の者に好かれていて、甘えん坊でわがままで明るくて優しくて、何もない自分をみじめにさせることも多かった。
でも、プリシラ自身の言動に救われているところもあって。
プリシラが眠った気配に気づいてゆっくり起き上がる。
ソファーの背もたれに変な角度で置かれてる頭を、先ほどの自分がされたように膝にそっと置いた。ふわふわな金髪をなでる。
「お父様にいじめられてると思った?」
そっとつぶやく。助けにきてくれたのかな。そして、元気づけようとしたんだろうか。
「ぼくは大丈夫だよ。だから、安心しておやすみ」
たぶん、君がいるからぼくは大丈夫なんだ。
だから、この家を守れる大人になるよ。
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「あら、エドガー様とプリシラ様」
「やあ、マリー、ちょうどよかった」
廊下で会った侍女に眠ってるプリシラを渡す。
プリシラの手が服にしがみついてて外すのに手間取った。
「あらあら、遊び疲れちゃったんですね。ありがとうございます。」
「うん、後で置いてきた絵本も持っていくね。あ、勉強部屋の花瓶が倒れて割れてしまったから、後で片付ける人を呼んでもらえるかな?」
「はい、わかりました。…お勉強は大変ですか?」
「ああ、まあ、ね。」
気遣う問いに苦笑して答える。
お父様の怒鳴り声が聞こえたのかもしれない。
「まあ、期待に応えられるようにがんばるよ。」
「こんなこと言う立場ではありませんが、ご無理はなさらないよう。プリシラ様も心配しますよ」
「タイミングいいなと思った。やっぱり心配してきてくれたんだね」
マリーがしまったという顔をして、ぼくは笑う。
「…プリシラが悲しむようなことは何も起こらないよ。お父様もぼくも、このラインがあるから、今以上に悪くなることはないんだ。」
プリシラの柔らかい髪をなでる。
「このゆるふわは本当病みつきだ…」
「エドガー様も魅惑のゆるふわですよ。恐れ多くて触れませんが。」
「え、別に触ってもいいけど?」
「いえいえ、この閉鎖社会で生きられなくなりますので。」
侍女の世界も大変らしい。




