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18 ◇エリックルート エリック視点2

屋上に行った時、ついうっかり好きだと言ってしまった。

でも、プリシラの戸惑った顔を見て、まだ好意を伝えるには早すぎたんだと気づく。

俺はいつも何か言ったり何かやってしまってから、相手の表情を見て、あ、やってしまった、って思うんだ。


ああ、元々はただ、一昨日のことを謝りたいと思っただけだったのに。

二人きりで屋上に行ったばかりの時点では、プリシラはとても喜んでいて、綺麗で、出会ってからの中で、一番2人の距離が近づいていると感じたのに。


****


プリシラは授業のチャイムが鳴ってもその場から動かなかった。

俺が入り口にいるせいで帰れないんだ、と思ったから、


「ごめん、先に戻る」


って言って一人で戻った。それからしばらくしてプリシラも教室に戻ってきてくれたから、ほっとした。


クラスメイト達は、たぶん俺とプリシラの関係がとても微妙なものになったと気づいたと思う。


だって、同じ日にお互いに遅れて授業に参加してさ。

それからは挨拶だけはなんとかできる状態。

あんなに毎日仲良く話してていつも一緒にいたのに、今はなんとなく距離が開いてしまって、話しかけるきっかけもない。


でもさ、クラスメイト達なにも言わないんだよ。

普段通り…いやもしかしたら普段よりも明るく接してくれて、色々な冗談を言い合ったりしてるけど、俺達2人のことにはまったく触れず茶化したりもしない。


仮婚約者のジュリーが以前言ってた通りだ。

うちのクラスは本当に恵まれてる。


****


なんでかわからないけど、プリシラが最近やたらめったら教師から雑用を頼まれて、重たいものを運ばされそうになってる。

で、それに気づく度に俺は慌てて走って荷物を奪い取る。

こんな重たいもの一人で運ばせるなんてありえないだろ。


「私持てるよ?別に平気なのに」


とプリシラは笑って言って、私意外と力持ちなんだよと、力こぶ作るしぐさをするけど、力こぶ全然ない。


「はいはい、ほら、プリシラの分」


でっかい方眼紙を丸めたやつとか、地図を丸めたやつとか、とりあえずそういうでかくて軽い系を渡す。


「うん…いつもありがとう、エリック」


一緒にそういう雑用をする間は、前みたいに話せるようになった。

すぐ隣で笑顔で色んな話をするプリシラは、手が届きそうで届かない。そういえば手が触れあうこととかもなくなってしまったな。前はプリシラのほうから近寄ってきては、指でつんつんしてきたりしてたのに。


俺が近くにいない時ももちろんあって、そんな時にプリシラが何か運んでたら「エリックあっちの廊下行け!」とか「プリシラは今講堂のほうに向かったぞ!」とかクラスメイトが伝えにきてくれて俺はダッシュする。


今日のはなぜか最大級に重たそうな謎物体だ。なんだあれは。さすがのプリシラも持つの無理だと諦めて、途方にくれてる。

あ、こっちに気づいた。


「エリックー!ねえ、ちょっとさ、これ化学準備室に運んでとか言われたけど私無理ー。運ぶの手伝ってもらえないかな?」


え…いつも自分でやろうとするプリシラが、俺に頼ってるとか…うわなんだろうこの感動。


****


痛いし重っ!ただでさえ重そうな見た目だけど実物は見た目よりもはるかに重たい。でかいごつごつの石の下に足みたいなのがたくさんついてる謎物体。くらげとか蜘蛛みたいな無機物。


こんなの使う授業ってなんだよ。腕や手に物体の足が食い込んで痛い。


窓から見える化学準備室をなんとなく見たら問題の化学教師と目があった。そして俺にばちこんとウインクしてきた。あ、なんか察した。


く、くそ教師いい!お前わざとか!?いい仕事したような顔すんな!栄誉ある教職についてる人間が、人の恋路に入ってくるなよ!


ああ、ごめんプリシラ…最近プリシラが用事頼まれる原因俺だわ…。プリシラに用事を頼むと、もれなく俺が手伝うのを絶対面白がられてる。


「エリック大丈夫?私どうやって持ったらいいかな?」


え、絶対に持たせられない。でも俺の周りをうろうろチョロチョロするプリシラは何かしたそうだ。


「ええっと…じゃあ応援して」

「応援!?」


なんとなくプリシラに言ってみた応援だけど、多幸感がやばい。


「エリックがんばれー、すごいすごい、かっこいいよ!わあ力持ち。さっすがエリック!大丈夫?もう少しだよ、エリックならできるよ!私エリック信じてる!ふれーふれー、え、り、っ、く!わー男らしいなあ、頼りになるなあ」


そんな感じで本当に全力で応援してくれた。耳が幸せで死にそう。化学準備室は意外とあっという間に着いてしまった。


先生にはこっそり睨んでおいた。

あ、と、で、お、ぼ、え、て、ろ。

教師は解せぬという顔をしている。解せぬが解せぬ。


でも、準備室を出たらプリシラが「ねえエリック腕見せて?」って言ってきて、こっちが何か考える前に俺の腕をひょいとつかんだ。そしてとても傷ついた顔をした。


「エリック、保健室行こう?」

「あ、いや、大丈夫。全然。見た目ほど痛くもないし」

「それ、見た目ほどじゃないけど痛いってことでしょ?」

「…えーと…」

「…ごめんね。私が自分にできないことまで、なんでもかんでも引き受けたせいだ…」

「いや、俺がやりたくてやってただけだから」


「…好きだよ」

「え?」


「私ね、気まずくなってからもエリックが、いつも私を助けてくれるのが嬉しかったの。前みたいに話せるのも、すごく楽しかったから、優しさに甘えてたの…ごめんね。でももう、無理はしないで…。

屋上の告白もね、嬉しかったよ。すぐに応えられなくてごめんなさい…。私も、エリックが好き」


プリシラがそっと手を繋いでくる。

俺は放心したまま、プリシラに手を引かれて走った。

そうして保健室に連れていかれて、なんか湿布とか色々貼られた。

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