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13 分岐点 エドガー視点3

長い1日を終えて、馬車に乗る。ああ、しんどかった…。


普段、ダンスパーティーの疲れはプリシラの膝枕でリフレッシュしていたから、その膝枕がないまま迎える翌日が、ここまでしんどいなんて知らなくて、ぼくは非常に驚いた。


強制参加の公式のダンスパーティーとかならまだしも…。

今回みたいな、自分で勝手にやったことで次の日に支障が出てるなんて、情けなくて格好悪くて人に見せられない。


だから普段は気を抜いてる教室だけど、今日はよそゆきモードで過ごしてたのに、なぜか朝一で気付かれてしまった。


「ん?どしたの?昨日一晩じゃ疲れ取れなかったのかな?珍しいねエドガー」


なぜかこの子だけはいつもぼくの変化に気づいてしまう。

だから、心配そうな顔でぼくを見つめる女友達…フィオナに、ぼくは苦笑いをして「プリシラが膝枕してくれなかったんだ」と素直に言った。


そうしたら「あー…昨日は妹ちゃんもさすがに疲れたよね。どんまいエドガー」と、優しくぼくの頭をぽんぽんしたんだ。


****


そんなこんなでようやく終わった今日。

帰りの馬車が走り出してから、プリシラが話しかけてきた。


「お兄様…」

「ん?どうした?」

「あのね、頭なでなでして?」

「うん、いいよ?」


いいこいいこ、なでなで。

プリシラがこんなおねだりをしてくるの、珍しいな。

心配になって顔をのぞきこむ。表情も少し悲しそうだ。


「どうしたの?学園で嫌なことがあったの?」

聞いてみるけど教えてくれない。


「ううん。なんでもない。なでなでしてくれたら、いいの」


そう言うから、ぼくは言われるがままに、プリシラのゆるふわな髪をなでなでする。


ガラガラガラ、と、馬車がたてる音だけが響いて、ぼくもプリシラも無言のままだ。ただただ、プリシラの頭を撫でていた。

やがてぽつりとプリシラが話し出す。


「私ね、今日ね、距離感がおかしいって言われたの。触るなって。お兄様もそう思う?」


そう聞いてくるから、どんな風に触ったの?と聞き返す。


「つんつんしたの。こうやって。」


ぼくの二の腕をつんつん、つんつんつん、とついてきた。

そして、指をぴたりと止めてぼくを見上げる。


いや、このくらい別にいいけど…。

男の子に、抱きついたりでもしてるのかと思って、動揺したからとんだ肩透かしだ。


「いや?別に…。でも、心地よい距離感は、人それぞれなのかもしれないね」

「…うん、そうかも」


会話が終わる。ぼくはプリシラの頭に置いたままの手をどうしようかと少し悩んで、こちょこちょとプリシラの頭をくすぐってから手を離した。よかった、ちょっとだけプリシラが笑う。


「お兄様は…お兄様はね、私達、おかしいと思う?普通の兄妹じゃないと思う?」


泣きそうな顔でプリシラが言った。


ここが、分岐点だ。

ぼくとプリシラが兄妹じゃなくなる唯一の可能性。

このぼくの生涯において、後にも先にもこのタイミングでしか、プリシラはぼくに振り向かない。


****


この年になっても、兄妹で膝枕をするなんて関係は、いびつだ。

理解はしているけど、手離したくなくて、プリシラの優しさに甘え、ぼくがしがみついているから続いている。


でも、このまま兄妹であり続ける限り、近い未来この関係が終わることも、本当はわかっているんだ。


以前、しっかり調査して、ぼくとプリシラが赤の他人であることは確認していた。


父は、母のほうとはもしかしたら血が繋がっているのでは、と長年疑っていたらしい。調査結果を見て憑き物が取れたようにうなだれ、ぼくと母に謝った。


母は母で、ぼくに近づくと父がいらつくので、理由がわからないまま、ぼくに極力関わらないようにしていたらしい。


血の繋がりがないことを証明して以来、ぼくのプリシラへの想いは強くなっていく。

でも、かといって、兄として慕われ近くにいられる、今の関係を壊す勇気もぼくにはなかった。


だからぼくは、プリシラがまだ幼いことを言い訳にして、極力兄としての距離を保ちながら、現状維持に甘んじていた。


そして今。

目の前でぼくの言葉を待つプリシラを見つめて…


「…おかしいかは、わからないな。ぼくの妹はプリシラしかいないから。」

と、ぼくは、逃げた。


「じゃあ、私達はこれからも、今のままでいられる?」

「うん。少なくとも、プリシラが望む限りは、このままでいるよ」


そう言うとプリシラは笑顔になった。

ぼくの腰に、ぎゅーっとしがみついて「お兄様大好き」と言うんだ。


プリシラは兄としてぼくを見ている。

結局このルートのぼくは、この先もずっと、プリシラにぼくの秘密を打ち明けることはなかった。


そして、プリシラの中に既に芽生えている恋心が、少しずつ大きくなっていくのを、側で見つめることしかできない。

プリシラの笑顔を曇らせることは、もう、できなかった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

これから、切ない展開も多々でてきますが、最終的にはどちらのルートでも幸せな終わりにしたいです。


これから進むルートはそれぞれ、タイトルの記号でどちらかわかるようにしています。

エリック王子…◇

エドガー兄様…◆


がんばって書き進めるので、ぜひお付き合いください。

評価や感想、お待ちしてます~☆

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