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12 翌日はみんな屍

はあ。翌朝はなんかもう、がんばって学園きたけどさあ…

昨日の今日じゃ、あいかわらずぐったりだよね。

私の護衛のメアリーに、本気で教室までおんぶしてもらおうかと思ったもん。


「私は構いませんよ」とメアリーは苦笑いしながら言ってくれたけど、仕事の範囲外だろうから「ごめんねやっぱり自分でがんばる」と言ってとぼとぼ歩いた。


お兄様も「なぜ上級生は4階なんだ…」とかつぶやいて階段に絶望していたよ。


教室に入ったら、なんとか来てた子達もみんな屍で、机につっぷして、ちーんって感じだった。

そもそも半数は来てないし。

あ、来てない子が本当の屍で、来た子は一応動けるから…ゾンビ?


お兄様の来訪は、週末にしてもらったほうがよかったのかも…と今さらながら思った。まあでも明日はお休みだから、まだよかったかな。

あ、ようやく私も自分の席についたー。ぱたり。


****


「そういえばさー、昨日はみんな無事に帰れたー?何時くらいに帰ったのー?」

「んー、あれからぼちぼち帰ったよー」

「えー、歩けたのー?」

「無理ー、歩けなかったー」

「じゃーどーしたのー?」


休み時間は、それぞれの机に寝たままお話する。


あ、授業はちゃんと顔を上げて受けてるよ。

先生は「どうしたんですか、今日のこのクラスは…」と言っていたけど。


顔を上げたままの説明はしんどかったから、なるべく短く簡潔に、かつ、先生が速やかに納得して会話が終わるような答えを言わねばと思って。


「お兄様にダンスパーティーごっこしてもらいました。」


と答えたらちゃんと伝わったよ。


昨日はねえ、結局目が覚めた子も一人で馬車までは歩けないってなったから、先輩が馬車乗り場に言いに行ってくれて、教室まで迎えに来てもらったんだって。


昨日のダンスは本当すごかった!となんやかんやみんな喜んでくれてて、今日の話題はそれで持ちきりだったよ。


私はもう、お兄様とのダンスは危険と思ったし、次回からは踊るチャンスがあっても遠目で眺めてようかなと思ったけど、隣の席の子に聞いてみたら


「エドガー先輩とのダンスは、翌日1日を犠牲にしてもいい価値があったよ…。私、次また踊ったら死んでしまうかもだけど、それでもまた踊りたい…エドガー様…」


と目がハートになっていた。


****


ちょっと回復してきた一番長い休憩時間に、エリックの隣の席に座って机に寝転んで「昨日お兄様と何話してたの?」と聞いてみたけど教えてくれない。


「やだよ。エドガー先輩はなんて?」

「お兄様も頑なに教えてくれない。」

「じゃあ2人の秘密ってことだろ。俺も言わない。」

「ええ~?気になるよー…」


お兄様のあの感じは、絶対教えてくれないモードだと思ったから諦めたけど、エリックは押したらいける気がするんだよね。


「じゃあさ、お兄様が言ったセリフは内緒でいいから、エリックはなんて言ったのか教えて?」


そう言ってエリックの腕を人差し指でつんつんする。

つんつん、つんつんつん。

あ…ふふ、指をつかまれた。


「ああ、もう、うっとおしい。止、め、ろ」

「教えてくれたら止めるよ?」

「…俺とプリシラは、友達だよな?」

「うん」


「他の男友達にもこういうことしてる?」

複雑な顔で私の指をもてあそぶ。


「…ううん、してない。エリックだけ」

「そっか」


「…俺にとって、この距離感は友達じゃないから、プリシラが他の人にするのが嫌だ。…だから、もうあまり気軽に男に触るな…」


そう言ってエリックが私の指を離したから、私の指が所在を失う。


「エリックには?」

「だめ。友達の距離感じゃないって言っただろ…」

「じゃあもう触らないから、昨日のこと教えて?」

「だからやだって」


「…触るなって言うし、私だけに答えさせるし、ずるい。もういいよ…」

「あ…悪かった。答えるから。ごめん。プリシラ?すねないでこっち向けよ」

「やだ。そのまま答えて?」

「…このまま、憧れるだけで終わるつもりはない、って言ったんだ。」

「そうだったんだ。」


なんだ、思ってたほどたいしたことじゃなかったな。

今の私の、悲しい気分とじゃ釣り合わない。

さっきまでの楽しい気分を返してほしい。


****


「ぼくは、自分にこんな嫉妬心があるなんて、今日初めて気づいたよ」


昨日のダンス。手を取った瞬間から、先ほどまでとはまったく違う雰囲気に変わったことに、一番早く気づいたのはたぶん俺だ。

なんせさっきまで、プリシラがちょっかいをかけてくる時以外はずっと見ていた。


幼い頃から人づてで聞いた話に憧れて、目標にしていた人物。

何か不測の事態に陥った時でも、余裕の笑みを浮かべて難なく切り抜ける、いつかそんな人になりたい。


「…ぼくに憧れてる程度の子に、プリシラは譲れない。」


そんな心を読んだのか、耳元でぼそっと囁かれ、その態度の理由を理解する。

たぶんさっきのメモ帳の取り合いで勘違いをしている、と。


プリシラはただの友達だと、そう伝えるのは違うな、と思った。

だから俺は。今思う限り、一番正解に近いと思う答えを、返したんだ。

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