11 お兄様の本気
あ、ついに、私の順番だ!
タイミングを見極めて前の子と代わる。
やった!今までの中で一番上手く交代できた。
手を繋いでお兄様を見る。
放課後のダンスが始まってから、私がうろうろしたりキョロキョロしたりしている間も、ずっと踊り続けているお兄様。
頬や首から汗が伝っていてとても疲れているはずなのに、穏やかに優雅に微笑んで、甘やかにリードしてくれる。
わあ、なにこれすごい…。踊ってる間は、私だけを見つめて私だけに微笑んで、私だけに自分の時間を使ってくれてる、この感じ…!
目が合うと、とても愛しそうに見つめられているような気がしてしまって、私はお兄様から瞳をそらせなくなってしまった。
そしてひええ…なんかいい匂いする!なんかいい匂いする!
は!交代だ!すっと離れたら気が抜けて崩れそうになった…けど、なんとかこらえて距離を取る。
「倒れないなんて、さすが妹ちゃん!…このまま歩ける?大丈夫?手を貸すよ?」
女の先輩がさっと来てくれたので、ありがたく両腕にしがみついた。
「あ、歩けないです…足が、足ががくがくです…」
お兄様恐るべし。
「このまま支えてるから、あと少しの間がんばって、あっちに行こうね」
「はい…!」
と、ここで、今日一番の黄色い歓声が響き渡った。
え、なんで…!?クラスメイトは屍になったはず…。
屍達を見ると甦っていて、その目線をたどるとお兄様とエリックがいた。
「これが、お兄様の本気…!」
なんということでしょう。今まではお遊びだったのです。
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お兄様とエリックが実は怪しい関係なのではないかと、誤解したくなるほどの情熱。
これまでの穏やかさとは一転した、お兄様のぎらついた微笑みに、日頃からギャップ萌えを公言している女の子が真っ先に失神した。
そして、踊りながらエリックの腰を引き寄せ耳元に唇を近づけて、何事かを甘く囁くお兄様。その蠱惑的なしぐさに、さらに数人が意識を手放す。
でも、エリックもやられっぱなしではない。
ダンスの流れを利用しながらお兄様の肩を引き寄せて、耳元に何事かを囁き返した。
その妖しさに「う…尊い…」という言葉を遺してさらに何人かが遠い世界へと旅立ってしまう。
甦ったゾンビ達が、また倒れていく異常事態。
足がくがくの私はそれをどうすることもできず、最終曲が終わるのを見守ることしかできなかった…。
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「じゃあ、倒れてる子達が回復したらぼちぼち帰ろうか。今日はぼくのわがままに付き合ってくれてありがとう。」
なぜお兄様は平気なの?
お兄様に関わった人達がみな再起不能となる中で、何事もなかったかのように立っている。
「いや、この子達はおれらが見ておくから、お前は帰れ。おつかれ。」
「うん、私達のほうでもう少しいとくから、エドガーは早く帰りなー。いやあ、すごいの見たねー」
「ねー、特に最後のやばかったねえ」
「お疲れ様。明日も来いよ。」
お兄様のお友達もすごいいい人ばかりだ。
帰れ帰れと言われて、お兄様が素直にお礼を言ってる。
「プリシラ立てる?帰ろうか」
差し出された手をつかんで立ち上がる。
つかまるものがあれば帰れそうと言うと、お兄様が腕を差し出したので、つかまって歩く。
え、なんでお兄様は平気なの?なんで?
私は、迎えに来てくれた私の護衛の手を借りて、ようやくなんとか馬車に乗り込む。
そしてその後、涼やかに馬車に乗り込んだお兄様は…ドアが閉まるとズシャアアと崩れた。
「お、お兄様ああ!?」
「疲れた…」
疲れてたんかい!
「プリシラ、膝枕してよ」と言われたけど「疲れたから無理」と断った。
がくがくの膝に頭を乗せたら、お兄様の脳ミソをものすごいシェイクしてしまう。
「な…うあ、そうか…。疲れた日は断られるのか…」
背景に、ガーンという文字が見える、気がする。めちゃめちゃショックを受けているようだ。
「うん、無理。ごめんね…?」
「いや、いいよ。無理な時は無理しなくていいんだ。」
そう言うと、窓を開けて首もとのボタンを外して、窓枠にだらりと体を預けていた。




