10 お兄様が教室にきた
「エリック、エリック」
教室に入ってすぐ、エリックの席に近寄り小声で話しかけた。
「ん?どうしたプリシラ」
「あのね…お兄様が今日の放課後、この教室に遊びに来たいって言ってて…」
「…うん、それで?」
「それで…。初日に私、お兄様と会わせないとかエリックに言っちゃったでしょ?なのに急にこんなことになって、ごめんと思って…。でもね、せっかくなら、一番お兄様に会いたがってたエリックが、都合のいい日にしたいと思ったんだ。だから…今日は大丈夫?それとも他の日がいいかな?」
「あいにく今日は…最優先で放課後残る!ありがとうプリシラ!」
と、エリックは私の両手を握りしめてとても喜んだ。
「あ、ごめん」
そしてすぐ手を離したから「ううん、大丈夫だよ」と言って笑った。喜んでくれて私も嬉しい。
放課後の話をクラスメイト達にも話すと、今日は朝からずっとそわそわした雰囲気で、休み時間は放課後の為の緊急ミーティングになった。
どうやって迎え入れるかから始まって、質問を取りまとめたりとか。本物のダンスを見たいは満場一致してたので、お兄様にあらかじめほのめかしておいて本当によかった。
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「こんにちは」
放課後。お兄様が男女2名ずつの先輩と一緒に教室にきた。
「エドガー先輩とご学友の先輩方ようこそ!本日はよろしくお願いします!」
「「お願いします!」」
クラスみんなでお辞儀をして、わーっと拍手する。
司会の子すごい。先輩方も来るとは知らなかったのに、慌てずナチュラルに挨拶に含ませる。
むしろお兄様のほうが私達の出迎えにうろたえてて「え、なんだか大事だね…」とちょっと苦笑いしていた。
先輩達は「私達は見に来ただけだから気にしないでねー」「そうそう、擬態を見に来ただけだから」とか言ってたので、遠慮なくお兄様への質問タイムになる。
好きな食べ物とか得意な授業とか、色々質問をしつつも、もはや私達は憧れのお兄様とダンスをしたくてそわそわだ。
いつも休み時間用に音楽編集してくれるライム君(ラッパーが、俺のライムを聞いてくれとか言ってるイメージで名前覚えた)も、放課後の為の特別編曲を、今日の全ての休み時間を費やして行っていたので、音楽をかけたくてうずうずしている。
「というわけで、ぜひ、エドガー先輩とダンスを踊らせてください。」
とみんなで頭を下げると「うん、いいよ」と言われて歓声があがり、お兄様が動きやすさの為に上着を脱ぐと、さらに大きい歓声が上がった。
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「これが、本物か…」
「うん、すごいねえ…」
私もお兄様が色んな人と踊る姿は初めて見た。
キラキラエフェクトがついている気がする。
踊り終わった子は皆腰砕けになり、お兄様と一緒にきた先輩達が手際よく端に連れていってくれる。
手伝おうとしたら「いーのいーの、今日は後輩ちゃん達が主役だからね」と言ってくれたので甘えさせてもらって、大人しく行列に並んでいる。
ちなみに私は後ろから2番目に並んでて、1番後ろはエリックだ。
私は後ろでいいから前どうぞ?と薦めたところ、踊った後は見る余裕がなくなりそうだから、むしろ一番後ろがいいんだって。
まだ踊ってない人達は歓声を上げたり拍手したりきゃーきゃー言えるけど、視線を少しずらすと踊り終わった人達の屍が見える。
これ、普段のダンスパーティーは大丈夫なのかな?地獄絵図なんだけど…。
私は順番がくるまで割りと暇なんだけど、エリックは真剣にお兄様を見つめてはメモ帳に何やら書いている。
なにを書いているのかな?
「あ、こら、見るな」
のぞきこもうとしたら避けられた。
「えー、いいじゃん見せてよ。なに書いてるの?」
「い、や、だ。恥ずかしい」
「えー、見たい。見せて、見せて」
メモ帳を追いかけたら頭上に行ったので、エリックの肩に片手を乗せて背伸びをするけど届かない。
「ちょ、こら、やめろって近い…不敬だぞ…っ」
「いいじゃん、私とエリックの仲でしょう?」
「俺とお前がどんな仲だ」
「お友達」
「まったく見せるに値しない…」
「なんで…!?」
解せぬ。




