殺人鬼、城を出て街へ
「個人にはレベルというものが存在するのじゃが、勇者様は現在何レベルじゃ?」
そう問われた俺は、ステータスの右上に書いてある数字を言おうかどうか迷った。
なんせ、周りが60-70レベルなのに対して俺は105。
なんで周りのレベルを知れるのかなんて俺が聞きたい。
多分この【観察眼】ってやつが関係しているのだろうが、もうわかんねーよ。
王様でさえ89レベルなんだぞ。
「あー...100?」
おぉっ!!!と周りが湧く。ちょっと少なめに申告したが、意味はあまりなかった。
「初期で100なんてなんと素晴らしい...!」
やめろやめろやめろ...俺は目立ちたくないんだ
「さすが勇者様じゃのう。だが、いくらレベルが高くても経験値はないはずじゃ。あまり悠長にしている時間はないが、慣れるのは必要。資金はふんだんに用意しよう。今日は城でゆっくり休んで明日から冒険に出てくれないか?」
「いや、大して疲労もしていないし、資金をくれるのなら宿を探そうと思う。早くこの世界に慣れたいんだ。」
というより、この空間にいたくない。
「おや、夜にでも皆の者に勇者様をお披露目しようと思っていたのじゃが...」
「生憎、そういうのは不得意でな。それに、魔王をとっとと殺すには先にこの世界の状況と強さ、魔王の情報を早く集める必要がある。ほら、あんまりこの世界の民に不安を感じさせるのは良くないだろ?早く安心させてやりたいんだ。」
ヒーローがいいそうなセリフを思い浮かべてつらつらと言葉を連ねる。
周りはみんな感動したようでよりいっそう騒がれてしまったがなんとか城から出る事が出来そうである。
「あいわかった、さすが勇者様じゃ!!!
すぐにでも用意しよう。装備も城にあるものを渡すのじゃ、はよ用意を!」
そう王様が言うと今まで控えていた使用人がサッと動いて何かを取りに行く。
ものの5分もし無いうちに、袋にジャラジャラ入った金貨と鎧や剣などの装備品、そして生地が良さげな服などが集まってきた。
さすがに、黒パーカーにジーンズはこの世界の服装とかけはなれていたから服は有難い。
「あぁ、ありがとう、このリュック...カバンにいれて行く」
そして、中に現金が詰まっているだろうリュックを開けてみると中は真っ黒。何も見えなかった。
「何だこれ!?」
そう叫んでしまえば、それを見た家臣が
「マジックアイテムなのですから、普通のバッグとは違い、容量などが変わっているのでしょう。普通のマジックバッグならば出したいものを思いながら手を入れればそれを掴めるようになっているはずです。」
そう説明されて、恐る恐る貰った剣を入れてみるとリュックの形が変わることなくするりと入っていく。中を見ても今入れた剣は見れない。
完全に入ってしまったことを確認して、今度は先程の剣を思い浮かべながら手を突っ込むと剣の柄が手にあたり掴んだ。
引っこ抜くとまぁびっくり、さっき入れた剣がスルッとでてきた。
マジックアイテムってこういうことなのか。
剣を入れてみた感じ、重さも反映されなければ容量も見た目よりかなり入るらしい。異次元に繋がっているかのようだ。
本当に異世界なのだとちょっとワクワクしてきた。
貰った金貨は3袋で中に500枚ずつ入っているとの事だったのでしっかりお礼を言ってからリュックに放り込む。
拳銃は隠し持っておくことにする。
もっと色々調べたいがあまり長居しても良くない。とにかくリュックに詰め終われば城を出る。
ほぼ総出で見送りされた。
全く恥ずかしいったらないぜ。
俺はさっきからいつ襲われてもいいように胸に忍ばせていたナイフを撫でつつ、城を後にした。
言わなかったが、まだ他にも武器はある。
殺人鬼をやっていた俺に油断という言葉は存在しない。
あの王の間にいた全員を殺す手段を常に考えてた俺は城という密室空間から出て深く息を吐き出した。
「なぁ、今回の勇者は只者じゃねぇよ」
「はぁ?勇者様なんだから当たり前だろ。倒せそうな隙を一切見せなかったんだぞ勇者様は。混乱はしてるようだったけど、気はずっと張りつめてた。なのに、殺気は全く見せない。まさしく強者って感じだ。あと様をつけろ様を」
「俺さ、【客観視】の目を持ってるじゃん」
「無視かよ。だから召喚の儀に参加出来たんだろ。なんだっけ、人のステータスを見れるんだよな?」
「あぁそうそう。だから勇者のステータスを見ようとしたのに見れなかったんだ。」
「お前...まあいい。見れないなんてことあるのかよ?」
「滅多にねぇよ。死んだ奴、もしくは、【客観視】の上位互換である【観察眼】を持つ奴以外は見える筈なんだ。なのに、モヤがかかったかのように見えなかった。名前さえ。」
「そういや、勇者様って、名乗ってないよな...?
それに、それって、勇者様はこの世界に数人いるっていう【観察眼】を持ってるってことだよな、?」
「他のスキルで隠してたのかもしれないけど、多分そうなんだと思う。」
「...やめようもうこの話は終いだ。一騎士の身に余る情報だぞ」
「...なぁ今日飲みに行かね?」
「...行く。」
俺が立ち去ったあと、残った騎士達がこんな会話をしていたなんて、俺はちっとも知らなかった。