魔術学院に到着
マチルダ、カイル、ソフィーを乗せた馬車がようやく王都の魔術学院に着いた。
「理事長様にお目通りをお願いして参ります。マチルダ様はソフィーとここでお待ちください。」
そう言い残して、カイルが馬車を降りて行ってしまった。私は、初めての王都に興奮気味で、早く外に出てみたくて仕方がない。
「ねぇ、ソフィー。少しだけ馬車を降りてみても構わない?」
「う〜ん。マチルダ様の瞳のゆらぎは目立ちますからねぇ……」
「ね、お願い。ずっと馬車に揺られてお尻も痛いし、すぐに戻るから。ね?」
仕方ありませんね、とソフィーが馬車の扉を開ける。先にソフィーが降りて、私がそれに続いた。
目の前にそびえ立つ大きな建物に圧倒されてしまう。領主様のお屋敷だって、こんなに大きくはなかった。振り返ると、今通ってきた門ははるか後方だ。門から建物までの通路も広く、長い。両脇には庭園が広がっている。
「うわぁ〜! 広いわねぇ! 大きいし、素敵です……」
うわぁ〜うわぁ〜と連呼する私を、ソフィーがお姉さんのような眼差しで見守ってくれている。
すると、突然声をかけられた。
「君が、噂の虹色の発動者だね?」
声のした方を見ると、長身の男性がニコリと微笑んで立っていた。黒い髪はサラサラと風に揺れ、かなりの美形だ。カイルが気難しい系カッコいいなら、この人は優しそう系カッコいいかな?目が合うと、暗い瞳がゆらいだ。あ、この人も発動者なんだ。
「僕はレオンハルト。魔術学院の3回生だよ」
レオンハルトと名乗る人物が、自己紹介をした。私も自己紹介をしたいが、私のわがままで馬車から降りて、知らない人に話しかけられてしまってる訳だし…。伺うようにソフィーを見ると、ソフィーはニコニコしている。ソフィーが警戒してないようだし、挨拶して、いいのね?
「はじめまして、レオンハルト様。マチルダと申します。この度、魔力の発動があり、バードン領から参りました。たった今、こちらに着いたばかりです」
5日間練習したカーテシーをやってみた。が、緊張してぎこちなくなってしまった。
「初々しくて、可愛らしいね。僕のことはレオンと呼んで」
私の下手なカーテシーに注意をする訳でもなく、好意的な会話にホッとする。愛称で呼んでと言ってくれるなんて、初対面でも親しみやすい人だな。
「……ありがとうございます。レオン。ではわたしのこともマティと呼んでください」
少し驚いたような顔した後、レオンがあっはっはと声を出して笑う。
「こんなに素直に応じてくれると、かえって罪悪感が湧いちゃうな」
罪悪感? なんのこと?
「あー面白い。ソフィー、淑女の教育なんてしなくていいんじゃない?マティの良さが減ってしまうよ?」
「お気持ちはよく分かりますが、これからどうしても必要になりますので」
ソフィーもニヤニヤして、こっちを見ている。何?レオンもソフィーもどうしてそんなに笑うの?
私の??を感じとったのか、ソフィーが説明してくれる。
「貴族では、愛称で呼ぶのは家族だけです。家族以外では特別な関係にある方だけです」
「特別?って、まさか……!」
「そう。僕は君を口説いていたんだよ。マティ?」
なんてことだ! 初対面の方に口説かれたのにも気づかず、しかもオッケーしちゃったってこと?
「あの……何も知らなくて、私。すみません!」
「いや〜こんなに早く口説き落とせるとは思わなかったな」
「レオンハルト様!」
「レオンと呼んでくれると、約束したはずだけど?」
「!?…ソフィー、どうしよう……」
混乱して、泣きそうになってくる。ソフィーがようやく助け舟を出してくれた。
「そのくらいになさってくださいませ。マチルダ様が困っておいでです」
「ん。悪かった。君の反応が余りにも楽しくて、つい」
良かった……。とりあえず、口説かれからのオッケーの件はなかったことになったのかな。初っ端から、都会の洗礼を浴びてしまった。
「では、マチルダ嬢。お詫びの印に、魔術学院を僕に案内させていただけないだろうか?」
「執事を使いに出しておりますので……ここを離れる訳には。」
ソフィーをチラリと見ると、行け行けGoGo! みたいな笑顔で、お供いたしますよと言う。
(大丈夫なのかなぁ……?)
大いなる不安とともに、差し出されたレオンハルト様の手を取った。
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続きを楽しみしてくださる方が20人もいらっしゃると思うと、身が引き締まる思いです。