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マチルダと虹色のゆらぎ  作者: 栗原 あみ
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王都へ出発

「王都までは早馬を走らせます。およそ1週間後に魔術学院から使いが来ることになるでしょう。その使いの者と共に魔術学院へ出発することになります」


 これからのことについて、バードン様の執事から説明を受ける。


 父様は、護衛の兵士と地図を見ながら、話をしている。発動者は護衛対象らしい。家の場所や、地形などを話し合っている。


「身の回りのものは、全て用意されているはずです。あなたが持っていくものは、思い出の品など代わりのきかないものだけでいいですよ」


 と執事は付け加えた。それなら、出発にあたっての準備も楽だ。わずかばかりの服も全て妹にあげればいい。


 他にも様々なことを説明され、だんだん混乱してきたところで、ようやく全ての説明が終わったようだ。帰りは、バードン様が馬車を用意してくれた。


「君のナチュアが特殊であるからな……。会っておきたい人には早めに会っておくように」


 去り際に、バードン様は、そうおっしゃった。


 父様と2人で馬車に揺られている。疲れたねと声を掛け合う。父様のとなりには大きな荷物がある。一緒に過ごせる時間は限られているから、美味しい物でも食べさせてやれ、とバードン様がいろいろと持たせてくださったのだ。今夜はステーキかな? ジュル。


 歩いて出かけたはずの私と父様が、馬車で帰ってきたので、母様は腰を抜かしていた。でも、母様は父の持って帰ってきた大量の高級食材を前に目の色が変わった。あっという間に豪華な食卓を完成させたかと思うと、食べきれない分は保存食にしてしまった。さすが主婦。


 次の日からは、心残りのないように過ごすことになった。まずは、親友のエイミーに会った。エイミーは、私の瞳を見て驚き、発動者になり進学の希望が叶ったことを自分のことのように喜んでくれた。そうして、会えなくなるなんて寂しいと涙ぐむ。最後はライルへの怒りと「あんな男はやめておいて正解」という結論で、楽しい女子会は終わった。


 そして、家族と畑に出た。母様は、ゆっくりしてれば?と言ってくれたが、いつも通りがいいと、畑仕事に精を出した。この畑に、あと何回立てるのだろう。




 ◇◇◇




 バードン様と一緒に魔術学院の使いの方2名がやってきたのは、3日後のことだった。


「やはり予定が早まったようだ」


 とバードン様がすまなさそうな顔をしている。


 魔術学院の使いの方は、男性と女性が1名ずつ、どちらも私よりやや年上に見える。


「はじめまして。私はカイル・ヘルムートと申します。マチルダ様の執事兼教育係を勤めます」


 背の高い、ダークブラウンの髪をした青年が挨拶をする。従者の正装だろうか。キリッとした制服が良く似合っている。都会の人って感じでカッコいいけど、ちょっと怖そう。


「私は、ソフィー・シュトラウスと申します。マチルダ様の侍女として、身の回りのお世話をさせていただきます。」


 ふんわりとした笑顔で、女性は挨拶をした。優しそうな人でホッとした。2人とも苗字がある、ということは貴族だ。


(平民の私に貴族の方が2人もついてくださるなんて…!発動者って本当に貴重なんだな。)


「はじめまして。マチルダと申します。いい魔術士になり、お2人の期待に添えるよう努力します。よろしくお願いいたします」


 私はペコっと頭を下げた。


「では、早速ではございますが、瞳を確認させていただいてもよろしいでしょうか。」


 カイル様が私の前に進み出る。私はカイル様の目を見つめる。


「確かに……ナチュアが複数色ございますね。バードン男爵、貴方様が虹色と例えられるのもうなずけます」


 カイル様が続ける。


「では、お父上様、お母上様。シュトラウスがマチルダ様の身支度を整えさせていただきます。お部屋をひとつお借りできますか?その間、私からご両親へ王家からの援助のお話をさせていただきます」


 カイル様がテキパキと勧めて行く。カイル様から話があるなら、邪魔しないように幼い弟と妹は、私が引き受けようかしら?身支度しながらでも、おとぎ話でも話せば……と思っていると、


「さぁさぁ、小さなお兄ちゃん、お姉ちゃん。こちらをどうぞ。」


 とソフィーが傍に置いてあった大きな包みを開ける。中には絵本や、お姫様のお人形、おもちゃの剣と盾などなど、弟妹たちが喜びそうなものが、ゴロゴロ出てきた。


 わぁ! と歓声を上げ、弟妹はあっという間に新しいおもちゃで夢中になっで遊んでいる。


「喜んでいただけたようで、何よりですわ!さ!お支度をお手伝いいたします。お部屋はどちらですか?」


 ソフィーがニッコリと笑う。いい人……!!




「あの、弟や妹たちのおもちゃまで…ありがとうございます」


 部屋に着き、私はソフィーに礼を言うと、ソフィーは首を横に振った。


「おもちゃをご用意なさったのは、カイル様ですよ」


 ソフィー様がふふふと微笑む。え! 意外!


「あんな冷たい顔してらっしゃるのに、意外でしょう?そして自分で渡せばいいのに、それは恥ずかしいらしくて」


 カイル様! いい人……! 子ども好きの恥ずかしがり屋ですか! なるほどなるほど。


 では、早速お召替えをいたしましょう!とソフィー様は腕まくりをして張り切っている。



 ソフィー様の指示に従い、あれよあれよという間にどんどん身支度は整えられていく。


「王都までは馬車で3日ほどかかります。道のりが長うございますので、本日は軽装のご用意をさせていただきました」


 用意されたのは、膝下丈のスカートにブーツだった。胸元や袖もヒラヒラせず、しかしゆとりのあるデザインだった。軽装と言えども、普段の私からは想像もできない上等な服に、思わず舞い上がってしまった。


 いつも三つ編みしかされたことがなかった私の黒髪が、高く結い上げられていく。私の髪ってこんなに艶が出るんだ〜。さすがの実力です。お化粧は、口紅を少し差すだけにした。


 階下に降りていくと、家族が一様に驚いた様子だった。そりゃそうだ。私が1番驚いている。まるで貴族のお嬢様になったようだ。


「お姉ちゃん! ステキ!!」


 弟と妹がキラキラした目で、駆け寄ってきた。父様と母様は涙ぐんでいる。綺麗だよ、体に気をつけて、手紙を書いてね、など話は尽きないがそろそろ出発の時間だ。


 馬車に乗り込み、家族の姿が見えなくなるまで手を振った。

ブックマーク、ポイント評価ありがとうございます!

初めて小説を書いています。執筆もサイトの活用もおぼつかない私ですが、最後まで、どうぞよろしくお願いします。

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