領主様にお目通り
第二話として投稿していたものが、実は第三話でした。修正しました。よろしくお願いします!
1階には父様、母様、弟と妹が驚いた顔で、私を出迎える。
先程、泣きはらした顔で2階の自室に向かったばかりの私が、すぐに降りてきたことが意外だったのだろう。
「どうしたの?喉でも乾いた…?って、マティ!あなた!瞳が…!!」
発動者の証である瞳のゆらぎが、母様をさらに驚かせてしまう。
「泣いてひどい顔をしてるだろうと思って、手鏡を覗いてみたの。そしたら、瞳がゆらいでて…。」
ヴェルトラウムのことは話さないことにした。私のことを可愛がってここまで育ててくれた父様と母様のことだ。私が発動者になる道を自分で選んだと知ったら、きっと寂しがる。なかなか会えなくなるもんね。偶然、発動したことにしておく。
駆け寄った父様も、私の瞳を覗き込む。
「これは……」
「魔力が、発動したんだと思う」
「そういうことだろうな。うぅむ……」
父様が考え込んでいる。これから、どういう手順を踏むかというところか。まずは領主様にお目通りして、瞳のゆらぎが出現したことの報告だろう。そして領主様から王都の然るべき機関に連絡してくれるのではないだろうか。
「まずは領主様にお目通りをお願いしよう。今から私と一緒に領主様のお屋敷へ向かおう。早い方がいいだろう」
え!? このひどい顔で行くの!?
年頃の私はせめて、もう少し腫れがひいてから懇願したが、抵抗むなしく父様と一緒にすぐに家を出発することとなった。
領主様のお屋敷は歩いて3時間ほどで着いた。腫れた目元が気になったので、ずっとローブを目深に被って歩いた。
道中、こんなに急にお訪ねしても大丈夫なのかと不安になり父様に、アポ無しで門前払いされないのか聞いてみたが、発動者の出現は領地の一大事なので、すぐに会える筈だという答えが返ってきた。
実際、父様の言った通りになった。門を警備する衛兵は、父様から話を聞き、私の瞳を確認すると、すぐ部下を領主様の元へ急がせた。私達には案内が付けられ、お屋敷の執務室に通される。
ソファーに座るように促され、父様と2人で着席した途端、執務室にノックの音が響く。
初老の男性が部屋に入ってきた。私と父様は起立し、頭を下げる。
「顔を上げられよ。私がバードン領主、トーマス・バードンだ。」
たしかバードン様は男爵様だ。貴族に会うことなんてめったにないので緊張していたが、恐る恐る顔を上げると、にこやかに微笑むバードン様と目が合い、ホッとする。
「早速だが、お嬢さん。魔力を発動したそうだね。瞳を確認させてもらえるかな?」
「はい」
こちらへ、と促され、バードン様の前まで進み出る。顔を上げバードン様と目を合わせた。
「確かに瞳にゆらぎがある。魔力の発動には間違いなさそうだ。だが、この色は……? 1色ではないな。何色か見てとれるが….」
バードン様と目を合わせたままで、なんだか気恥ずかしい。瞳のゆらぎは確認できたようだし、もう目を逸らしてもいいだろうか?
「君の瞳のゆらぎは、なかなか変わっている。」
バードン様は続けた。
「元の瞳がゆらぎ、魔力の色が見える。この魔力の色は、ナチュアと呼ばれている。私は領主を継承して30年だが、今まで発動者を2人王都へ送り出して来た。しかし君のように、何色かが混在しているナチュアは初めてだ」
ううむと唸り、なんと報告したものかと悩んでいるご様子。
(私はヴェルトラウムの虹色の瞳を見ていたので、自分のーーナチュアだっけ?ーー色を虹色だと思えるけど、ゆらいでいる瞳を見ても確かに数えられないわね)
バードン様は報告書を書くために、机に向かう。名前や年齢、家族構成など、聞かれたことを答えていく。家業のことなど、分からないことは父様が答えてくれた。
しばらく悩んでいたが、言葉が決まったのかバードン様はナチュアの欄を書き始めた。
『発動者の両目には、赤、青、緑など、何色かの色が確認できるが、ゆらぎのため正確には数えられない』
そして、最後はこう結ばれた。
『まるで、虹色のようだ』
ブックマーク、ポイント評価してくださった方がいらっしゃるようで!ありがとうございます!読んでいただけるなんて、感慨深いです。