異世界転生者・人形使い①
新月春人は、見知らぬ空間で目が覚めた。
周囲を見回すと、ピュアホワイトのどこまでも続いていそうな空間が目に入り、呟いた。
「驚きの白さだなぁ」
そんな、違和感バリバリの空間で、彼がまずしたことは、スマホの確認だった。
「あ、圏外だ」
そんな事を呟いた春人へと、急に空間に現れた老人が声をかけた。
「そりゃそうじゃろう」
突如現れた老人に対して、春人は質問した。
「ここ、どこですか? 今日は行き着けのゲーセンで、クレーンゲームの景品が入れ替わる大事な日なのですが」
春人のそんな質問に対して、老人は心の中でこう思った。
また、このパターンか……。
彼は転生を司る神として、多くの人間を見てきた。
その中でかなり多いのが、このパターンの人間だ。
「俺、この状況に、全然動じて無いですよ? なんならちょっと余裕ありますよ?」パターンだ。
恐らく、彼の生みの親だかなんだかの「動じない人物=大物」のような、浅い、安易な人間観に基づいて形成された人格が、このような態度を取らせるのだろう。
そしてそのパターンで構成された人間は、たいていこのようにデキの悪いコントのような、老人に言わせればクソ寒い会話を繰り広げてくる。
老人から見れば、彼らは現状を把握する能力に乏しいことを、自らを客観視しているかのような錯覚をしているし、それによって人間として最低限備えるべき危機感も欠如している。
しかし、それを本人に指摘しても仕方ない、悪いのは彼ではなく、彼を生んだり育てたものだからだ。
なので、大概老人はこのような会話に対して、内心では下らないと思いながらも、乗ってあげる事にしていた。
「この状況でクレーンゲーム!? もっと心配することあるじゃろう!?」
あー、こんなとこ嫁に見られたら「うっわ、あなたさっぶ」と言われること間違いなしだなぁ、などと思いながら老人は発言した。
「えっ? 限定物のフィギュア以上に心配することなんて、この世にあるんですか?」
そんな春人の返事を聞いて……。
ホント、もういいから、そういうの。
そんなことを思い、老人は出会って一分で疲れていたが、帰るわけにもいかないので会話を継続した。
「ここはこの世ではなく、あの世じゃからな」
「……あの世?」
そうつぶやいて、しばらく考え始めた春人を見ながら、老人は思った。
また、どうせ、ここでこの発想するのヤバくね? みたいな感じ出すんでしょ? はいチャキチャキいこうね。
などと心の中で発破をかけながら、春人の次の言葉を待つ。
「ということは、もしかして、僕死んだんですか?」
春人のその言葉に……
はあ?
死ぬ以外にあの世に行く方法あんの?
バカなの? いやバカなんだろうな。
どうせ、死んだって教えても
「あーそうですか」
みたいな、俺そう聞いても慌てませんよ、みたいな、ワンパターンな返し来るんだろ?
ほんとお約束って笑えるなら良いんだけど笑えないんだよな、このパターンの奴らのお約束は。
などと春人をこき下ろしまくりながら、告げた。
「うむ、お主は残念ながら死んだ」
「あっ、そうですか」
はい、出た出た。
「あー」を「あっ、」に変えたぐらいでオリジナリティとか、ねぇから。
さあ、予言しよう、お前は次の会話で「慌てた方が良いですか?」と言う!
などと思いながら、老人は次の言葉を発した。
「死んだと聞いても、あんまり慌てたりしておらんようじゃな?」
「慌てた方が良いですか?」
ね。
ほんともう勘弁して下さい。
で、この後もフィギュアの話に戻ったりして
「その話、まだ続けんの!?」
みたいな感じ? 流れとして。
あーやだやだ。
大体、嫌いなんだよ、質問に質問で返す奴。
と、老人が春人に対してメチャクチャ思っていると。
「慌てるとしたら、欲しかったフィギュアが手に入らない事ですかね?」
と春人が言った。
な?
思った通りだろ?
どうするよ、これ。
これ乗っちゃうと長くなるよな、さすがにスルーかな?
そう考えて、老人はさっさと話を進める事にした。
「もうフィギュアはええわい! お主はこれから別の世界へと転生するのじゃ!」
娘よ、仕事とはいえ、こんな寒い会話をする父を許してくれ。
決して汚れたと思わないでくれ。
娘に謝罪しながら、老人が告げた。
老人の説明によると、春人は本来の寿命は200歳だというのに、16歳で間違いにより死んでしまった。
なので、異世界に転生し、やり直すことになったようだ。
「もし、200歳まで生きた場合、何歳まで男として現役ですか?」
と春人が聞いたとき、老人は
「そこ、そんな気にすることじゃ無かろう!?」
と、元気に、しかしどこかやっつけ仕事のように叫んだ、気がした。
どうやら老人の言葉を信じるなら、春人がこれから向かうのは、春人が元々いた世界で言えば中世くらいの文明で、魔法が存在する世界らしい。
「フィギュアを作る魔法はありますか?」
と聞いたところ、特別に人形を生み出す魔法と、あと莫大な魔力と、凄い身体能力を貰えた。
そんなやりとりをして、春人は異世界へと転生した。
こうして異世界へと旅立った春人を見送りながら老人は
「全く。あのお方が何を考えてこんなことするか、わからんわい」
彼の主を思い出しながら、独り言を呟いた。
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転生した春人はまず、欲しかった限定フィギュア「ロリ巨乳ビキニちゃん」の等身大の人形を生み出し、パートナーとした。
ロリ巨乳ビキニちゃんは、ロリ巨乳ビキニちゃんと呼ばれるのを嫌がったが、春人は
「そんなに嫌かな?」
などと、常人とは思えない発想の発言をしたあと、ロリ巨乳ビキニちゃんに「ロキ」と名前を付けた。
ロキは、身に着けているのがビキニなのが恥ずかしかったので
「なにかちゃんとした服を下さい」
と春人にお願いした。
それに対して春人は
「えっ? でもビキニ似合ってるよ?」
と、そういう問題じゃない、ということを察する能力が完全に欠如していたので、ビキニで行動すべきだとしつこく主張したが、ロキの強い抵抗にあったので、しぶしぶ服を作った。
こうして異世界から転生した春人改めハルトと、ほぼ人間の人形の旅が始まった。