閑話①山来るぅ!?
フィールがヨモギーダとの戦いを諦めたあと。
四柱の神々と話をしていたヨモギーダは、ふと、気が付いたようにその言葉を言った。
それは、四柱に恐慌を引き起こす、最悪の言葉。
「お前らの住んでる所、行こっかな」
その言葉に「いやいやいやいや!」と四柱の言葉がハモったあと、来るべきではない理由を話し始める。
「来ていただいても、とても退屈な場所です、パピ……ヨモギーダ様が満足するとはとてもとても!」
「あの、ほんと、ただの山なんで!
ほんと、ジャストマウンテンって感じですから!」
「お師匠様確か、虫、お嫌いでしたわよね!? 山なんでめっちゃ居ますよ! ほら、私のここ、虫さされが!」
「残念、この家は四人用なんだ、パンフレットがあったらそんな感じの、大したことない家なんで!」
各々の言葉を、うんうんと聞いてヨモギーダだったが、少し悲しそうな顔をして
「来てほしくないなら、そうだってハッキリ言えよ、傷つくなー」
と言った。
その手に引っかかる四柱ではなかった。
実は、同期の弟子はもう一人いた。
その男は似たような場面で、はっきり言った。
その後の運命を、四人は今でも夢でうなされるほどハッキリ覚えている。
なので
「いやーそういう訳じゃ無いんですけど~」
これまた、ハモって言った。
「ほんとにぃ?」
ヨモギーダが疑わしい者を見るような目つきで確認してくる。
「私は、是非とも来て欲しいです!」
リーグルールが言った。
あっ、コイツ裏切りやがった!
他の三柱は、リーグルールに先行された事に気が付いた。
思えばリーグルールは弟子時代から、要領よく旧パピリンに取り入る奴だった事を思い出す。
「おー! やっぱりリーグルールはいい奴だな!」
「いやいや、師匠あっての私、常にそう思ってますから」
クッ、この野郎……と三柱が思っていると……
「ゼラスは? 俺がその、山に行くのどう思う?」
ゼラスは、真面目な性格だ。
基本的に、嘘がつけない。
嘘は、絶対だめだとフィールにも叩き込んである。
その結果、フィールは嘘が付けなくなったのだ。
「大歓迎です」
ゼラスは即答だった。
その言葉に、ヨモギーダは満足そうに頷いたあと
「じゃあ、このままだと俺が無理やり押しかける、みたいな感じイヤだからさ、お前が誘ってくれよ」
「……はい、師匠。
是非とも我々の住む山にお越しください」
「んーそういうのじゃねぇなあ」
そう言ってからヨモギーダは、拳を振り上げるようにしながら親指を立てて
「山来るぅ? みたいな感じでさ!」
とセリフとポーズを指定した。
でたよ。
でたわ。
でたでた。
ゼラス以外の三柱は、それぞれ心の中で思った。
師匠は前世から、生真面目なゼラスのキャラに合わないセリフやポーズをさせるのを娯楽にしていた。
「で、お前の『山来るぅ!?』に対してさ、俺が『行く行くぅ!』みたいなノリで拳振り上げてさ! そういうのがいいわ!」
ゼラスは少し目をつぶったあと。
「や、山来ますぅ?」
とぎこちなく、半笑いで、ポーズもおどおど、という感じで言った。
「いやいや、そうじゃねえよ、『山来るぅ!?』だって。
あと、ポーズはこれな」
そう言うとヨモギーダは、拳を振り上げながら親指で後ろを差し、腰に反対の手を当てて、お尻を横にプリンって感じで突き出しながら言った。
さっき、そのお尻プリンっは無かったでしょうが!
ゼラスは心の中で叫ぶが……
吹っ切れ、吹っ切るのだゼラス。
自分にそう言い聞かせ
「山来るぅ!?」
と声を張り上げ、右手を勢いよく振り上げながら親指を上げ、左手は腰に、お尻はプリンとしながら叫んだ。
──と。
ヨモギーダはそれに何のリアクションもせず、ジョーグンの方を向いて
「おいジョーグン、そろそろ案内してくれ。
お前先に行ってくれ、追跡するから」
「あ、うぃっす」
そう言ってジョーグンが消え、ヨモギーダも転移した。
そのままのポーズで固まるゼラスを見て、居たたまれなくなった他の二柱は……
「……じゃあゼラス、私たち、先に戻ってるね?」
「……待ってるぞ」
そう言ってナーテスとリーグルールも転移した。
しばらくゼラスはそのポーズのままだったが、静かに手を下ろしながら、姿勢を正したあと。
「ふっ」
と自嘲するような笑みを浮かべてから、しばらくして
「あああああああああああっ!」
叫びながら落雷を落としまくった。
それが普段冷静な彼の、百年に一度のストレス解消法だった。