凄い男①
ローレシア・バルハラントは自分が凄い人間だと自覚している。
しかし、それは不遜であるわけでも、ナルシストだからでもない。
周囲の評価だ。
周囲の人間が、彼の事をそう評価するので、彼もまた、自分はそうなのだろう、と思っている。
ローレシアは有力貴族の息子であり、多くの人間と接している。
彼は行動力があり、様々な人達とのふれあいを大事にした。
そうして接する人々が、手放しで、彼を凄いと評価するのだから、彼は自分は凄いのだろうと思っていた。
そんな彼には、実は隠された能力があった。
彼は人に「凄い」と思って貰えば貰うだけ、その能力が高まる、という不思議な能力だ。
それを自覚したのは、彼がまだ子供の頃。
お手伝いのアンナとのやりとりだ。
彼が屋敷の廊下を歩いていると、アンナがため息をついていた。
「どうしたんだい、アンナ、もしかしたら悩み事かい?」
そう声をかけられ、アンナは驚いた。
凄い、この方は凄い、私がため息をついていた、それだけで私が何か悩みごとを抱えている、その事に気がつくなんて。
ローレシアのその洞察力に、心の中でまずは二回凄いと思ったアンナは、悩み事を相談する事にした。
「実はトイレ掃除が大変で。
便器の中だけでなく、外も汚れがひどいのです」
ローレシアはその言葉を聞いて……
「それは、男性が立って用を足すから、飛び散っているのが原因なのではないのかい?」
と指摘した。
凄い、この方は凄い、本当に凄い、私が長年メイドとして働く中でやっと気がついた事に、すぐにたどり着いてしまった。
アンナは信者が神の降臨を見たような心境で、ローレシアを見つめた。
「は、はい、その通りです。
しかし、男性が立ってするのは普通の事ですので……」
アンナの言葉に、ローレシアは首を振った。
「アンナ、それが普通だと誰が決めたんだい?
法律で、男性は立って用を足せ、とでも書いているのかい?
よし、この屋敷では男性も座って用を足すことにしよう」
……。
SU・GO・SU・GI!
ローレシア様SU・GO・SU・GI!
発想柔軟すぎー! 発想を柔軟にするその柔軟剤、どこで売ってるんですかー!
アンナは思った。
しかし、ローレシアの提案には一つだけ欠点がある、と感じた。
「しかし、トイレは密室です。
本当にそれが徹底されるかどうかわかりません」
「ドアだ」
「えっ?」
「トイレのドア、その下から30センチほどを切り落とそう。
そうすれば足の向きで、座って用を足してるか、立ったまま用を足してるか、外からでも一目でわかる」
凄すぎ祭りだ! ワッショイ! ワッショイ!
アンナの心の中で凄すぎカーニバルが開催中だったが……
「そして、僕だけ、立って用を足す」
あれ、どういうこと?
参加者達の凄すぎダンスがピタッと止まり、凄すぎカーニバルは一時中断された。
アンナはそのまま、疑問を口にした。
「しかし、偉い方がやらないなら、徹底しなくていい、と思ってしまうのでは」
「いや、立って用を足すのは僕だけの特権、他の者が立って用を足すのは厳罰を与える。
そうすれば、貴族と使用人、その立場を改めて明確にできる。
つまりこれを、僕の立場をより一層高める事に利用するのさ」
凄すぎの宝石箱!
凄すぎは永遠の輝き!
みんな祭りは再開よ! とアンナが思っていると。
「じゃあ、これをドアを加工するお金に使って」
そう言うと、ローレシアはポンとお金をアンナに渡した。
「そして、綺麗なトイレが維持されたらみんなに報奨金を配ろう、罰だけだと重苦しい雰囲気になるからね」
凄すぎカーニバル、大量の資金を頂きました!
みんな、凄すぎってるかーい!
おー!!
アンナの凄すぎは止まらなかった。
__________
そんなやり取りをしてアンナと別れたあと、ローレシアはふと自分のステータスを確認した。
結構あがりました。
そう、わりとアバウトに表示されていた。
それが、さっきのアンナとのやりとりのおかげだと気が付いてしまうくらい、ローレシアは凄い奴だった。
ちなみに、しばらく屋敷では覗きが問題になった。