賢者②
かなりできる。
レックスは目の前の男をそう判断した。
まず、転生石の存在を知っている、それはすなわち目の前の男も転生者という可能性を示唆している。
そして転生術自体、かなりの力を持った者しか行使できないからだ。
「ヨモギーダ、ね。俺はレックス。悪いけど、六十年待つほど、のんびり屋じゃあないんだ」
「むしろ、せっかちですよね、レックス様は」
レックスの発言を、ヨーナが肯定する。
そんな二人のやりとりを見て、ヨモギーダが嘆息した。
「俺を前に恋人同士でイチャイチャとは、ずいぶんな余裕だな」
そんなヨモギーダの発言に素早く反応したのは、ヨーナだった。
「こ、こここ、恋人同士なんかじゃありません! ……そうなれたら良いけど……」
「そうだ、恋人同士じゃ……え?」
離れてるヨモギーダにまで聞こえてきた、ヨーナの呟き。それに対してのレックスのリアクションを見て、ヨモギーダはピンと来た。
「ふん。『神狼眼』か」
「!!」
ヨーナの呟きより明らかに小さく呟いたヨモギーダの発言に、レックスは警戒心を最大まで引き上げる。
「出し惜しみは、不要みたいだね!」
レックスが神狼眼を発動した。
神狼眼の特性によって、あらゆる魔力の流れが、狼が匂いを嗅ぎ取るように知覚できる。
相手の魔力の流れを感じ取れば、ありとあらゆる攻撃に対してあっさりと最適なカウンターが発動できる、レックスの奥義。
その瞳をヨモギーダへと向け──レックスは驚愕した。
清流。
形容するなら、そんな魔力の流れ。
無駄を省き、静かに流れながらも感じる圧倒的な水量のようだった。
この魔力の流れから、カウンターを取れるのか? そんなレックスの焦りが、普段は使用しない先手を打たせる。
「術式『ラムダ』!」
レックスは自身の使える全術式でも最速の攻撃、ラムダを展開する。
普通なら、反応すら許さない二十七の連撃でもあり、同時攻撃でもある。
……しかしなにも起きなかった!
「な……っ!」
「悪いが、書き換えた」
術式の書き換え。
レックスには覚えがあった。
前世で見た、一千年前の伝説の賢者といわれる、ゲゲゲンの研究手記。
そこに記載された、幻の技。
前世でも自ら何度か試し、あまりにも繊細かつ高度な魔力操作が必要なため、実戦では不可能と断じたのだ。
それを自身最速の術『ラムダ』をあっさりと書き換えられた。
とんでもない実力差だ。
「なぜ、君がゲゲゲンの技を……?」
震える声で、レックスが問いかける。
「また、懐かしい名を……まさかお前、見ちゃったのか? 俺の最初の人生で書いた、五歳の頃の日記を」
「えっ……」
レックスが前世で賢者の研究手記だと思った物は、五歳児の日記だった。
「あの時代、今より魔法関係の技術は発達しててな。術式の書き換えなんて、そこら辺の子供で使ってたんだ、それこそスプーンを持ち始める前から」
「まさか……」
「お前も転生者なら、わかるだろ? この世界の魔法関係はどんどん劣化していってる」
「……」
「あとお前の神狼眼な? あまり使いすぎないほうがいいぞ? 最初はちょっと難聴になるくらいだけど、使いすぎると近くが見えにくくなったり、ストレス溜めやすくなるからな? 昔は『真老眼』とか『心労眼』とか言ってからかわれたりしたんだぜ?」
「……」
「そーいや、五百年前にもいたなあ、そんな眼でイキッてる奴。自分を超賢者とか言って、学校まで作っちゃってさ、イタタタターって感じだったな。笑っちゃうよな! なっ?」
「……」
そんなやり取りをしていると、台座が光り、青く輝く拳大の石が現れた。
ヨモギーダはその石を手にとり、レックスへと語りかけた。
「あ、これ、持って行っていい?」
「……はい」
レックスは静かに頷いた。
泣きそうなのを我慢しながら。




