弱い生物でレベルアップした男②
S級冒険者カイル、別名「オークスレイヤー」。
その存在をジークフリートが知ったのは、つい最近だ。
そして二人には共通のあだ名があった。
「最強の冒険者」。
いちいち反論はしなかったが、気に入らなかった。
最強とは「最も強い」の意味である。
本来の意味を冷静に考えれば──二人も必要ない。
現役最強の冒険者として、様々なことを噂されるカイルだが、その噂の中でも特に気になる内容があった。
彼は「オークスレイヤー」の異名通り、オークだけを狩って今の強さを手に入れたという。
もちろん、そんな話は皆半信半疑だった。
しかし──己に照らし合わせ、ジークフリートはその話は真実ではないか、と予想した。
噂を検証するため、彼はオークを一定時間内に連続で十匹退治してみた。
しかし、コンボボーナスは貰えなかった。
その結果を受けて、ジークフリートは考えた。
恐らく「コンボボーナス」の対象は人によって違う。
ジークフリートはそれを検証するため、その後様々なモンスターや生物を十匹連続で倒してみたが、どれもコンボボーナスは貰えなかった。
そもそも、特定の生物を、それも決まった時間内に殺すというのは、普通に生活しているとなかなかないことだ。
だからこそ、みな自分が何の生物に対して「コンボボーナス」を持っているのかが、わかりにくい、ということだろう。
自分同様、カイルはそれに気が付き、己の強化のために利用した、ということだろう。
ならば──単純に、自分の方が上だ。ジークフリートは確信を持った。
なぜなら、コンボボーナスを得る条件である「対象を連続で一定時間内に殺害する」という条件を満たそうとした場合、蟻以上に効果的な生き物はめったにいないだろう。
コンボボーナスを得る、という点に関していえば、自分は相当有利な立場だ。
その最終確認と──最強は、一人であるべきだ、という信念の元、ある人物と戦うことにした。
その相手はもちろん、S級冒険者、カイルだ。
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ギルドの酒場。
カウンターで一人酒を飲むカイルへと、ジークフリートは話しかけた。
「あんたがオークスレイヤー⋯⋯『最強の冒険者』か?」
「そういうお前は?」
「俺はジークフリート」
「ほう⋯⋯」
すでに耳に入っていたのか、カイルは興味深げにジークフリートを観察する。
その視線を受けながら、ジークフリートは挑発的に言った。
「なぁ⋯⋯最強の冒険者、は二人もいらない。そう思わないか?」
その言葉を受けて、カイルは肩を竦めて答えた。
「同感だ」
「ふ、ならば⋯⋯」
戦うことを了承されたと思ったジークフリートだったが、次のカイルの言葉によってそれは否定された。
「だから、最強の冒険者は、お前でいい」
「なんだと?」
「お前と違って、俺は限界ってものを知っている」
「限界? 限界なら俺も⋯⋯」
そう、自分は蟻だけを殺してレベルマックスになった男。
限界なら──強さの到達点なら、すでに知っている。
だが、カイルの言葉はそのような意味ではなさそうだった。
「俺はな、真の最強にたっぷりわからされた。いずれお前もそうなるだろう。
あの男は、最強の冒険者、なんてくくりでは語れない⋯⋯そう、ただの、真の最強だ」
「それは誰だ?」
「ヨモギーダ=モブーン。やつの前では俺たちなんて皆、蟻んこだ⋯⋯」
「ほう⋯⋯」
ならばここに、もう用はない。
そう考え、ジークフリートは剣を抜き⋯⋯
カイルの首を、刎ねた。
「ふん、これも躱せないなら、たしかにお前には『最強』の肩書は重荷だろう」
ジークフリートにしてみれば今の一撃は「俺、マタニティヨガやっちゃいました?」と言いたくなるくらい、速度を抑えた斬撃だった。
それすら、カイルは反応できなかった。
周りの人間が事態にざわめき、大声を上げる中⋯⋯
「冒険者は、廃業だ」
周囲に宣言するように、ジークフリートは呟いた。
そう──彼は「真の最強」を目指し始めたのだ。
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「ああ、その人ならいつもあそこの公園のベンチでゴロゴロしとるよ」
そんな情報を聞きつけ、ジークフリートは公園へと向かった。
すると、一人の男が楽しそうに、瓶から水を地面へと流していた。
「あんた、何してるんだ?」
ジークフリートの問いに、特に特徴もない、どこにでもいそうな男が振り向いて言った。
「ん? これ? 俺、虫が嫌いでさぁ、蟻の巣を水攻めしてるんだ」
男は答えると、楽しそうに再び水を流し始めた。
はたからみれば、いい大人が、馬鹿なことやってらぁと言われかねないその行動だが⋯⋯。
ジークフリートは身構えた。
(こいつ! まさか俺と同じ「蟻コンボボーナス」持ちか!?)
と考えたが⋯⋯。
もし、現在も蟻を退治してコンボボーナスを得ていると仮定した場合。
相手は、レベルマックスまで強化していない、ということになる。
となると、有利なのは、自分。
だが、念のため、確認する。
「もしかしてお前、蟻のコンボボーナス持ち、か?」
その問いに、男は驚いた顔をして⋯⋯
「いや、これは完全に趣味」
いい大人が、馬鹿な事やってただけだった。
しかし、次の一言は聞き逃せなかった。
「大体、蟻なんてコンボボーナスあっても非効率すぎるだろ、それじゃいくら稼いでもすぐ強化に限界がくるし、そんな弱いやつ向けのコンボあってもなぁ」
その言葉でわかったのは⋯⋯相手もコンボボーナスを持ち、しかもかなりの効率的なコンボが稼げる代物だ、ということだ。
自分のコンボボーナスが馬鹿にされたことには少し腹が立ったが、興味が優先した。
「ほう、なら貴様のコンボは、なんだ?」
「ん? なんならあげようか?」
「あげる? そんなことが⋯⋯」
「できるよ、ほい」
と、男がジークフリートを指さした瞬間⋯⋯
『ココココンボ! コンコココココンボ! コンボ、コココココココンボ、マーベココココンコココンコンボ! コココココンコンボ! コココココ⋯⋯⋯⋯』
「う、うるせぇー!!!」
頭に大音量で響く、コンボの合唱。
ジークフリートはあまりのうるささに立っていられず、地面をのたうち回った。
耳をふさごうと、相手の声は頭に響くのだから、防ぎようがない。
「こ、これ、なんのコンボボーナスなんだ!?」
やっとの思いで叫んだジークフリートに、男が答えた。
「菌だ」
「き、菌!?」
「病原菌とか、あとカビの胞子とかもそうだけど。
体内の菌が一つでも活動不可になる度、コンボが貰える。ほぼ無限にコンボするぞ」
無限?
それはつまり、このやかましい声がずっと続くということだ。
菌のせいで、頭がキンキンしたジークフリートは
「菌キンキン菌キンキン菌! 何とかしてくれぇ! 耐えられん」
と絶叫した。
「百年くらいそれで強化したら、音声OFFが使えるようになるから、頑張れ」
あ、百年耐えればいいのね。無限じゃないのか、良かった良かった。
「ってなるかーい! おい! これ返す! 元に、元に戻してくれぇ!」
「え、一度変えると、無理なんだけど⋯⋯」
その言葉を最後に、ジークフリートはあまりの辛さに意識を失った。
『コココンボ! コンコココココンボ! コンボ、ココココエクセレン! コココンボ、ココココンコココンコンボ! コココココンコンボ! コココココ⋯⋯⋯⋯』
でもうるさいので、すぐ起こされた。
その後ジークフリートは、あまりのつらさに自ら命を断とうとしたり、人に殺してくれとお願いしたが、蟻によって限界まで強化されてたことが幸い(災い)し、死ぬことは叶わなかった。
次回、最終回(唐突)。




