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異世界転生者・人形使い②

 旅立つ前。

 ハルトは今後のことをロキに相談した。

 ロキはこの世界の常識を持ち合わせていたので


「マスターの能力なら、冒険者をやればすぐに頭角を現すと思います」


 と、冒険者になることを提案した。


「うん、わかった。じゃあロキの言う通りにするから、ビキニに戻ってもらってもいい?」

「いやです」


 そんな会話をした。

 正直ロキは、主人でなければ返事すらしたくなかった。


__________


 

 ロキの勧めどおり冒険者になると、ハルトはすぐに数々の難事件を解決し、神に貰った高い能力のおかげでその都度女性にモテた。


 だが、現実の人間はハルトにとってはどこか汚らわしく感じたので、彼女たちの許しもろくに得ずに、ハルトの能力で人形に変えてしまった。


 ロキを作った時の反省を活かして(?)、彼は人形たちに絶対服従の制約を設け、自由に命令し、次々とハーレムを増やした。


 しばらく冒険者を続けていたが


「やっぱり僕ほどの力の持ち主が、いつまでも人に使われるってのはなぁ。

 僕は人形使いで、使う側だ。

 人に使われるのは性にあわない」


 そんな言葉とともに、人形の作成には限界が無かったので、彼は大量の人形を生み出して人形王国を作り、そこで王となった。

 

 そして自らを崇めるものには、慈悲を。


 自らに歯向かうものは人形に。


 あと、歯向かわなくてもなんとなく気に入らない者たち(主に男)も人形にした。


 周囲の国の王たちは、ハルトの動向を、恐れとともに注意深く監視していた。


 誰も、その強大な力に逆らえない。


 ──そんな中。


 人形王国に、あの男が現れた。


__________



「なんか気に入らないなぁ」


 玉座から響いたその言葉に、謁見の間で彼の周囲に控えた人間にも、人形にも緊張が走る。


 彼らの王である、ハルト=ラグナロック=ニュームーンは、基本的に穏やかな性格の人物だ。


 一見すれば好人物に見えるため、接してすぐの人間は、彼に好印象を抱く。


 だが、知れば知るほどわかるのだが、それを帳消しにしてしまうほどの、気分屋でもある。


 そんな彼の言動の中でも、この「なんか気に入らない」は、特に要注意だ。


 理屈での説得が困難だからだ。


 そしてそんな感情の赴くままに力を行使するには、彼の持つ力は莫大すぎた。

 

 また、なにか起こるのではないか。


 そんな人々の緊張感に似つかわしくない、のほほんとした声が謁見の間の入り口から聞こえた。


「おー、いたいた!」


 特に特徴もない、どこにでもいそうな男が玉座へと歩み寄ってくる。


 一同がぽかんとしていると、まずはそれがおかしなことだと気が付いた重臣の一人が声を上げる。


「だっ、誰だ! 衛兵人形は何をしている!?」


 その問いかけに誰も答えることはなく、その間にも男は玉座へと進んでいく。


 なぜか、誰も動けない。


 男はハルトの前に立った。


「ん? あなた何者? 何しに来たの?」


 ハルトはこの異常事態でも、危機感もなく、慌てる素振りも見せずに対応した。


「俺か? 俺はヨモギーダ。

 要件はまあちょっと失礼して⋯⋯」


 そう言ってヨモギーダは、さらに玉座へと近づくと、ハルトの髪を鷲掴みにして⋯⋯


 ぶちぶちぶちっ!


 と引き抜いた。


「痛たたたたたたっ! あんた何すんの!?」


 いくら物に動じないハルトとはいえ、これはさすがに痛かったし、驚いた。


「はは、結構丈夫な毛根してるな」


 そう言ってヨモギーダは、引き抜いた髪の毛を封筒のようなものにしまった。


「お前、こんなことして生きて帰れると思うなよ!」


 ハルトの瞳がここにきてようやく真剣味を帯びる。

 頭の中に、これまでの異世界生活で使用してきた、数々の戦いの方法や、魔法の数々を思い浮かべようとしたが⋯⋯


 あれ。

 僕、どうやって戦ってたっけ?


 その方法が思い出せない。


 ハルトが不思議に思っていると、ヨモギーダがその疑問に答えるように話し始めた。


「あ、貸した力なら、もう返してもらったぞ、お前転生前に神様っぽいやつから力貰ったろ? あいつ、俺が作った人形なんだ。

 本人は自分が人形だとは、全然知らないけどな」


「えっ」


 あれが、人形?


 神ではなく?


 ハルトが驚いていると⋯⋯


「いやー、大変なんだよ、俺が次に転生するのに、異世界転生者の毛髪や爪が触媒に必要でさぁ。

 だから、異世界からの転生者をあの空間を経由するように設定したり、あそこに俺の作った人形を配置したり、さ」


「はぁあああああ?」


 ハルトの転生が、この男に仕組まれたものだ、という事実。


 それは普段物事に動じないハルトでさえ、怒りを覚えるのに十分なことだった。


 とはいえ、まだ疑問がある。


「なら、なんで! 僕にそんな力を貸し与えたんだ! おかしいだろ!?

 結局回収するなら、そんなこと意味ないじゃないか!」


 そんなハルトの言葉に、ヨモギーダは面倒くさそうな表情で答えた。


「いや、あの部屋の経由の設定が法則的に限界でさ。

 その後、どこに転生するか、とか、移動したらどこに行くかまでは追えないんだよ」


「それと、これがどう繋がるんだ!」


「ここまで言ってもわからないのか」とでも言いたげな表情で、ヨモギーダは説明を続けた。


「いや、転生者、とくにお前みたいなタイプは、力を与えると何の疑問も持たず使いまくって、目立ってくれるんだよ。

 最低限考える能力があれば、無条件で突然力を与えられたら警戒して疑問に思うし、なんで自分がとか考えるし、仮に力があっても目立たないように慎重にするんだけど、お前ら異世界転生者はそういうの一切ないから。

 まぁそのおかげで、俺が探しやすくなるってこと」


 ──ハルトは、完全に理解した。


 まるで、チェスだった。


 すべては、この男の手のひらの上だった。


 そう、自分など、この男にチェスの使い捨ての駒として扱われているようなものだったのだ。


 ハルトはついさっきまで、自分がこの世界で(キング)だと思っていた。


 だが、違った。真の(キング)は別にいたのだ。


 それは他者に力を貸し与えるだけで、借り主を王と錯覚させるほどのものだった。


 その上で、それに驕らず、打てる布石を余すところなく用意していたのだ。


 何もかも、相手が上。


 そう。


 ──自分など、この男に操られる、人形だったと気付かされたのだ。

 

 もう、文句をいうことくらいしかできない、そう確信しながらも、そうするしかなかった。


「人の人生を弄んで楽しいのか!?」


 そんなハルトの言葉に、ヨモギーダは鼻で笑った。


「お前には言われたくないなぁ、見ろよ周囲の人形たちを。

 お前に人生を弄ばれたもので埋め尽くされているじゃねぇか。

 お前が今腰を掛けている玉座は、そんな弄んだ者たちの上に備え付けられたものだろ?

 お前が力を得ても、それに驕らずに過ごせばこうはなってないだろう」


 ぐうのねも出なかった。


 そんなハルトを見て、流石に気の毒に思ったのか、ヨモギーダが話を続けた。


「まぁ、今、周りの人形たちはお前の支配をはなれちゃって俺の支配下にある。

 その上で、チャンスをやろう。

 お前のこれまでの行いを試してみる」


 そう言ってヨモギーダは、隅々まで聞こえるように大声で叫んだ。



「おーい人形たち!

 もしこの男に感謝しているなら、俺は何もせずこのまま帰る。

 でも、不満や恨みがあるなら、この男の爪を剥がせ!

 これは命令だ、拒否権はない!」


 その言葉と同時に、ハルトに人形が殺到した。


 先頭には、ロキがいた。


 その顔には、人形とはとても思えないほど、人間臭い、残酷な笑みを浮かべていた。



__________




「いやー思った以上だったな、これは」


 ヨモギーダは、両手両足の爪百枚ほどが足元に積まれているのを見て、ちょっとキモいな、と思った。


 爪を剥がされて泣き叫ぶハルトがあまりにも可哀想だったので、その都度治癒の魔法をかけたのだが、人形たちは爪が生え変わるたびにそれを剥がした。


 あ、命令解除しないと、そう気が付いたのは、ハルトが泡を噴き始めてからだった。

 

 

「いやー、まぁしかしだいぶ集まってきたな、もうすぐだ」


 気絶したハルトの事など目に入らないかのように、転生に必要な爪を一枚だけ封筒のようなものにしまい終えたヨモギーダが、謁見の間を出ていく。


 次の転生で、望むものは手に入るのだろうか。


 ヨモギーダは帰路についた。


 城を出たころには、もうハルトのことなどすっかり忘れていた。



__________



 その後、ハルトは人目から隠れるように、つつましく、何も思い通りにならないこの世界で、二百歳まで生きた。


 その後、人間にも人形にも使う機会がなかったとはいえ、男性としての機能は死ぬ間際まで現役だったとさ。


 めでたしめでたし。





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