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嵐に舞う (7)

 二本の尻尾をぴんと立てて、シロは小太郎を一瞥した。

 縦に伸びた瞳孔は、金色の瞳と相まってぞくぞくするような迫力がある。陶器のように滑らかだった頬に、産毛のような白い毛が見えた。


「ふぎゃあっ!」


 シロは背中を丸めて一声鳴くと、小太郎の正面を覆う山伏たちに飛びかかっていった。指先の鋭い爪で山伏たちを切り裂き、牙のような犬歯でその首元を食いちぎる。


「まずいにゃ」


 ぼそりと言って、シロは食いちぎった肉片を吐き出した。


「ふつう、鳥は(にゃん)でもおいしいものだけど、烏だけは例外だにゃ」


 ほんの一瞬のうちに、シロの白い肌といっていいのか、あるいは白い毛というべきなのかは分からないが、シロの体は山伏たちの血で赤く染まった。山伏たちの輪に走った動揺は、シロの思いもかけない強さによるものか、それともシロの思いもかけない助太刀によるものか。


 ざわつく山伏たちの向こう、美青年の顔が視界に映り、小太郎はひゅっと息を吸った。


 悪意に歪みながらも優美に微笑む彼の表情は一変していた。こちらを――シロを見る彼の表情は般若のような、底知れぬ憎悪に身を焦がす者のそれだった。視線で相手を殺すことができるのであれば、シロはとっくに屍となっているだろう。


「いやあ、おっかにゃい」


 吊り上げたシロの唇が引きつっている。


「少年、先へ行くにゃらぼうっとしている暇はにゃいぞ。四人で戦うんだろ?」

「おっ、おう。ありがとう」

「まったくだにゃ。あたしは(にゃに)もかもがパアだ」


 シロの愚痴を聞き流して、小太郎は再び山伏たちに向かう。シロは鋭い爪と牙、そして管狐たちを駆使して山伏たちを翻弄し、引き裂いていく。


 共に戦いながら、小太郎はシロの能力値の高さに舌を巻いていた。

 身の軽さ、素早さ、攻撃力の高さ、状況判断能力――どれをとっても、甲賀の里の人間をはるかに凌駕している。これが()()()である猫又というものなのか。


 だが、この()()()をもってしても足元にも及ばないと言わしめる大天狗とはいかなるものか。


 山伏たちの層は次第に薄くなっていく。

 もう少しだ。もう少しでやつらに手が届く。


 小太郎の目が、美青年とその脇にたたずむ頭領の顔をとらえた。

 いつの間にか薄笑いの下に本性を覆い隠した美青年は、赤い唇をゆがめて笑みを作ると、小太郎に背を向けた。頭領もそれに追随するように体の向きを変える。


「追いにゃ、少年!」


 山伏たちの中からシロの声が鋭く響いた。上半身をはだけた状態だったが、シロのなまめかしい姿態は、白い毛にすっかり覆われている。

 全身の毛を逆立てて、にゃあにゃあと鳴くシロは、まさしく猫だった。


 巨大な化け猫――猫又だった。


 シロの声に呼応するように、小太郎の正面に立つ山伏たちが苦悶の声を上げる。

 太い首にきつく巻き付いているのは、シロの手から離れた管狐たちだ。その細長い生き物はすべて、竹筒から解き放たれ、戦況をかき乱す役割を十二分に発揮していた。


「すまない!」


 後に残るシロと管狐にそれだけ告げて、小太郎は甲賀の里の奥、頭領と謎の美青年が消えたほうへと駆けた。


 懐の三つの珠――黒、白、赤の宝玉が揺れて、からんからんと澄んだ音を立てる。

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