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嵐に舞う (6)

 小太郎の頭上から幾重にも重なった烏の大合唱が降り注ぐ。


 木の枝に止まる無数の烏が、じっと小太郎を見つめていた。闇夜の中で、漆黒の烏の体は周囲に溶け込み、金色に光る眼だけが浮かぶ。

 一羽、ぎゃあ、とひび割れた鳴き声を上げたのを合図に、烏たちの体がむくむくと膨れ上がった。

 浅黒い肌をした山伏の姿へと姿を変えていく。


「烏天狗だにゃ」


 シロが小太郎にささやいた。

 人外の能力を駆使する小太郎でも、鳥から人への変貌には唖然とするしかない。首に大きなほら貝をぶら下げて、錫杖を捧げ持つ山伏の姿を小太郎は旅の途中で数知れず目にしてきた。


「烏――か」


 シロに連れられた先で見た烏の焼死体を小太郎は思い出した。

 あれも皆、山伏の姿をしていた。

 今の奴らと寸分たがわぬ格好で。


「烏天狗は、大天狗様の命令にただ従うだけことしかできにゃい。それしかできにゃい。まさに(いぬ)だにゃ。自由を愛する猫とはえらい違いだにゃ」


 なぜかシロが得意げに胸をそらす。

 緊迫しているのかいないのか、奇妙な温度感の会話を交わす二人の脇を、優美な動作で美青年は通り抜けていった。


 小太郎を取り巻く山伏たちの群れが割れて、美青年の前に道を作る。


「大天狗様ってのは……」

「そうだにゃ、あの見目麗しいお方だにゃ」


 深々と頭を下げる山伏たちの向こうで、美青年が振り返った。真っ赤な唇がにやりとゆがむ。

 おぞましいまでの悪意の形。


「あいつが元凶なんだな?」


 つぶやいて、小太郎は腰の短刀を抜いた。


「だと思うにゃ。でも、あのお方には絶対に勝てにゃい」

「関係ねえよっ!」


 小太郎は怒りの声を上げた。その余韻が消えぬうちに身を沈め、一直線に美青年のもとへ駆けていく小太郎をの進路を、だが、山伏たちがふさぎにかかる。

 小太郎へ錫杖が届くよりも前に、ふるった短刀が山伏たちの腱を切り裂く。月夜に浮かぶ小太郎の影が自在に伸び縮みし、そのたびに山伏たちの体から血しぶきが上がった。

 小太郎に翻弄される山伏たちは、一陣の風にあおられ、まき散らされる木の葉のようだった。


「【風舞】の小太郎……まさに風」


 頭領のつぶやきは、疾風の真っただ中にいる小太郎の耳にはもちろん届かない。


「風は木の気。木は青、木は龍」


 美青年が楽しそうににいっと笑う。


 小太郎が山伏たちを血の海に沈めている間も、烏の羽音が減ることはない。むしろ増え続けているような気さえする。

 次々と襲ってくる山伏たちに、小太郎の体力は削られていく。

 美青年の姿は見えていても、そこまでの距離は果てしなく遠かった。小太郎が一歩足を進めると、山伏たちの数に押されて一歩後退する。凄まじい体力を使っているというのに、結果的に小太郎はその場で足踏みをしているのと同じなのだ。


 美青年と頭領はその様子を山伏たちの向こうから眺めている。

 力尽きた小太郎がなぶり殺しにされるのを見物するつもりなのだろう。


「きりがねえっ」

「きりがにゃい」


 小太郎とシロの声が重なった。

 同時に、小太郎の背後がざわりと揺れる。


 山伏たちから感じる違和感よりもはるかに強いそれは、おそらくシロの言う“妖力”とやらに違いない。生ぬるい風に吹かれたような感覚が、小太郎の肌を粟立たせた。


「仕方にゃい。あたしも覚悟を決めたにゃ」


 おちゃらけた空気の一切ない口調で、シロはもつれ合う小太郎と山伏たちの間に降り立った。


「助太刀してやるにゃ」

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