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嵐に舞う (3)

 甲賀までの道のりは長い。


 【風舞】を使い、飛ぶように駆けつづける小太郎にとっても一昼夜はかかる距離である。常人の足であれば、五、六日は見ておいたほうがいいだろう。


 あざけるような烏の鳴き声が木の上から間断なく降り注いでくる。

 きっと、この烏たちも“大天狗”とやらに命じられたら山伏となって小太郎に襲い掛かってくるに違いない。


「うるせえ」


 烏たちに聞こえない程度の小さな声で小太郎は悪態をついた。最後のひと仕上げだと烏たちは考えているのだろう。小太郎が甲賀の里にたどり着き、命を奪われた瞬間にまじないが成就するのだから。

 罠が張られていることを承知で甲賀へと向かう小太郎は、彼らから見れば、ねぎを背負って鍋へと飛び込む鴨そのものだ。


 だが、もちろん小太郎だってそうそう簡単に殺されるつもりはない。


 己の信念にかけて戦うつもりであり、また、兵介、喜平、牡丹が何のために命を落とさねばならなかったのかを、頭領に問いただすつもりだった。

 納得する答えなどありえなかったが、それでも頭領の意図を知りたかった。

 理由も分からないままに命を落とした三人が、命を落とすだけの理由があったのかを知りたかった。


「にゃあにゃあ少年、あまり飛ばしすぎにゃいほうがいいにゃ。温存も大事だにゃ」


 小太郎の【風舞】に引き離されることなく追いすがるシロの声が、暗礁へと乗り上げていく小太郎の思考を中断する。

 着物の裾をからげて駆けるシロの姿は、十二分になまめかしいものの、甲賀最速の小太郎の忍術【風舞】と同等の速度なのである。


 ぎゃあぎゃあと鳴く声、にゃあにゃあと話しかける声。

 小太郎にとってはすべてがうるさく、すべてが雑音だった。


「黙れ黙れ黙れっ!」


 己の中の集中力をさらに高め、小太郎は速度を上げた。これまでの小太郎の記録を塗り替えるほどに速さを増していく。


 烏の声も、シロも、自分の平穏を乱すものすべてをおいていこうというように。

 実際、速度を上げてから小太郎の耳に入ってくるものは、風のうなりだけになった。

 一刻でも、一秒でも早く甲賀へ――


 朝の冷たい空気を切り裂きながら、小太郎は一疾の風になった。

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